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1 裏切り
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「――君は、つまらない女だな」
初めて会った時に告げられた言葉。
それは今も私の心に突き刺さっている。
愛する貴方のためなら、私はどんなことだってできた。
全ては愛する貴方のために。
それが私の喜びだったから――。
***
「ああっ!」
夜闇に響く女の甘い声。
それは夜な夜な行われる男女の密かな睦事。
扉の隙間から差し込む月明かりと聞こえた嬌声に、気になった私はそっと扉の中を覗き込んだ。
そして直ぐにそれを後悔することになった。
ベッドの中で睦み合う男女は、私の知っている人物だった。
「アレクシス様! もっと……もっと欲しいの!!」
「はは。クリスは甘えん坊だな。イイぞ。もっとしてやろう」
「ああんっ!」
ベッドの中の男女の動きは激しさを増し、月明かりでも見えるその生々しさに私は思わず後ずさった。
男女はそのまま深く繋がり、お互いの愛をぶつけ合っている。
「どうして……二人が」
もうこれ以上は見ていられず、私はそっと扉を閉めるとその場から駆け出した。
――妹と婚約者の浮気現場を目撃してしまった。
その事実に呆然とし、足元が覚束なくなる。
何度も頭で見間違いだと否定したくなるが、二人が呼びあっていた名前は間違いなく私の妹と、婚約者のものだった。
男の名はアレクシス・ティアン。
ティアン侯爵家の次男で、金髪と琥珀の瞳を持つ社交界でも人気の存在。今年学園を卒業したら私と結婚する約束を交わした。
女の名はクリスティアナ・ロアンヌ。私、セシルウィア・ロアンヌの妹で、金髪に翡翠の瞳を持ったロアンヌ家自慢の絶世の美少女だった。
誰が見てもお似合いの美男美女。
灰に例えられる銀色の髪に闇のような紫の瞳を持つ私とは大違い。
それでも。
アレクシスは私との婚約を了承してくれた。憧れだった彼と結婚できる。そのことが嬉しくて私はひたすら努力した。
髪を結い上げ、社交界の流行りを研究し、私なりに美しく着飾った。学校の成績も首位を維持し、彼に恥じないよう私なりに努力を重ねた。
だと言うのに。
貴方も私ではなく妹を選ぶのですね。
美しく生まれ、誰からも愛された妹は私が努力して手に入れたものを最初から持っていた。
美しい器量も、明るい性格も、私が羨ましかったもの全て、妹は生まれた時から持っていた。
「貴方も、貴女も私から全てを奪っていくのね――」
努力は全て無駄だった。
二人は今も、互いの愛を確かめあって熱い夜を過ごすのだろう。
二人して私を騙して、嘲笑っているのかもしれない。
「私の努力は無駄だった……」
貴方に飽きられないよう努力を重ねたのに、最初から彼の眼中に私はなかったのかもしれない。
そんな現実を叩きつけられたようで、悲しくて仕方なかった。
私は誰もいない部屋で一人、声を押し殺して泣き続けた。
初めて会った時に告げられた言葉。
それは今も私の心に突き刺さっている。
愛する貴方のためなら、私はどんなことだってできた。
全ては愛する貴方のために。
それが私の喜びだったから――。
***
「ああっ!」
夜闇に響く女の甘い声。
それは夜な夜な行われる男女の密かな睦事。
扉の隙間から差し込む月明かりと聞こえた嬌声に、気になった私はそっと扉の中を覗き込んだ。
そして直ぐにそれを後悔することになった。
ベッドの中で睦み合う男女は、私の知っている人物だった。
「アレクシス様! もっと……もっと欲しいの!!」
「はは。クリスは甘えん坊だな。イイぞ。もっとしてやろう」
「ああんっ!」
ベッドの中の男女の動きは激しさを増し、月明かりでも見えるその生々しさに私は思わず後ずさった。
男女はそのまま深く繋がり、お互いの愛をぶつけ合っている。
「どうして……二人が」
もうこれ以上は見ていられず、私はそっと扉を閉めるとその場から駆け出した。
――妹と婚約者の浮気現場を目撃してしまった。
その事実に呆然とし、足元が覚束なくなる。
何度も頭で見間違いだと否定したくなるが、二人が呼びあっていた名前は間違いなく私の妹と、婚約者のものだった。
男の名はアレクシス・ティアン。
ティアン侯爵家の次男で、金髪と琥珀の瞳を持つ社交界でも人気の存在。今年学園を卒業したら私と結婚する約束を交わした。
女の名はクリスティアナ・ロアンヌ。私、セシルウィア・ロアンヌの妹で、金髪に翡翠の瞳を持ったロアンヌ家自慢の絶世の美少女だった。
誰が見てもお似合いの美男美女。
灰に例えられる銀色の髪に闇のような紫の瞳を持つ私とは大違い。
それでも。
アレクシスは私との婚約を了承してくれた。憧れだった彼と結婚できる。そのことが嬉しくて私はひたすら努力した。
髪を結い上げ、社交界の流行りを研究し、私なりに美しく着飾った。学校の成績も首位を維持し、彼に恥じないよう私なりに努力を重ねた。
だと言うのに。
貴方も私ではなく妹を選ぶのですね。
美しく生まれ、誰からも愛された妹は私が努力して手に入れたものを最初から持っていた。
美しい器量も、明るい性格も、私が羨ましかったもの全て、妹は生まれた時から持っていた。
「貴方も、貴女も私から全てを奪っていくのね――」
努力は全て無駄だった。
二人は今も、互いの愛を確かめあって熱い夜を過ごすのだろう。
二人して私を騙して、嘲笑っているのかもしれない。
「私の努力は無駄だった……」
貴方に飽きられないよう努力を重ねたのに、最初から彼の眼中に私はなかったのかもしれない。
そんな現実を叩きつけられたようで、悲しくて仕方なかった。
私は誰もいない部屋で一人、声を押し殺して泣き続けた。
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