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一章
御鶴という男
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「今日、アリスと思われる誰かが転落死します」
千草は淡々と、低いトーンで述べた。彼の目の前にいる「御鶴」と呼ばれる男は眉のひとつも動かさずそれを聞いていた。千草が言い終わり、少し間が空いてからふふっ、と息を漏らした。
「これはまた愉快な夢だ。私も見てみたいものだよ」
そう言いながら机の上に置きっぱなしにしてあった煙草とライターを掴み取って、箱の中から目当てのものを一本スっと抜き、火をつけて咥えた。
「御鶴さんはそんなこと言いますけど、僕からしたらただただストレスが溜まる一方なんですよぉ…俺だって見たくて見てるわけじゃないですし…」
御鶴は煙草をくゆらせ、口先を少しばかり尖らせて白い煙を吹き出した。その煙は微かに紅茶のような匂いを含んでいた。
「まぁ確かにそんな夢ばかりでは普通の人は鬱になってしまいそうだ。それにこれが本当に起こるならば深刻なものだ」
「で、その夢に関連する事件がここへ舞い込んでくる。いつも通りじゃないか」
御鶴は楽しんでいるのか、口調が少し弾んでいる。
「いつも通りって言える事が逆に怖いですよ」
ここは「天塚探偵事務所」である。繁華街から少し離れた三階建てのビルの一階に例の事務所があり、二階は喫茶店「すみれ」、三階は空き家が入っている。
先程から「御鶴」と言われている男は「天塚御鶴」で、私立探偵をしている。千草は彼の探偵助手といった地位に身を置いていた。
御鶴は頭脳明晰。洞察力・行動力・知識量にも長けており、どんな事件や依頼でもあの人の手に掛かれば立所に解決することが出来た。そして容姿端麗というオプション付きだった。背は180以上もあり、瞳は緑、腰まである黒髪は丁寧に結わえている。巷では「イケメンが探偵をしている」「しかも腕がいいらしい」とちょっとした噂になっていて、そのおかげもあってか事務所は繁盛していた。
だがしかし、千草にはちょっとした悩み事があった。それは「御鶴の考えていることがよく分からない」ことである。いつも気色を変えずに涼しい顔をしており、心中を読み取ろうにも不思議なことに全く分からないのだ。しかも自身のことは話そうとしないので、御鶴から得られる個人情報はゼロに近かった。千草は御鶴に聞いたことがあった。 「何故自分がここに採用されたのか」と。すると御鶴は「面白そうだから」と言って問いを一蹴してしまった。全く、タチの悪い話である。少なからずとも、あの時から千草の予知夢の話を楽しんでいたようだった。
「どんな夢だったか、詳しく教えてはくれないか?」
そしてまたニコリと微笑んだ。
千草は淡々と、低いトーンで述べた。彼の目の前にいる「御鶴」と呼ばれる男は眉のひとつも動かさずそれを聞いていた。千草が言い終わり、少し間が空いてからふふっ、と息を漏らした。
「これはまた愉快な夢だ。私も見てみたいものだよ」
そう言いながら机の上に置きっぱなしにしてあった煙草とライターを掴み取って、箱の中から目当てのものを一本スっと抜き、火をつけて咥えた。
「御鶴さんはそんなこと言いますけど、僕からしたらただただストレスが溜まる一方なんですよぉ…俺だって見たくて見てるわけじゃないですし…」
御鶴は煙草をくゆらせ、口先を少しばかり尖らせて白い煙を吹き出した。その煙は微かに紅茶のような匂いを含んでいた。
「まぁ確かにそんな夢ばかりでは普通の人は鬱になってしまいそうだ。それにこれが本当に起こるならば深刻なものだ」
「で、その夢に関連する事件がここへ舞い込んでくる。いつも通りじゃないか」
御鶴は楽しんでいるのか、口調が少し弾んでいる。
「いつも通りって言える事が逆に怖いですよ」
ここは「天塚探偵事務所」である。繁華街から少し離れた三階建てのビルの一階に例の事務所があり、二階は喫茶店「すみれ」、三階は空き家が入っている。
先程から「御鶴」と言われている男は「天塚御鶴」で、私立探偵をしている。千草は彼の探偵助手といった地位に身を置いていた。
御鶴は頭脳明晰。洞察力・行動力・知識量にも長けており、どんな事件や依頼でもあの人の手に掛かれば立所に解決することが出来た。そして容姿端麗というオプション付きだった。背は180以上もあり、瞳は緑、腰まである黒髪は丁寧に結わえている。巷では「イケメンが探偵をしている」「しかも腕がいいらしい」とちょっとした噂になっていて、そのおかげもあってか事務所は繁盛していた。
だがしかし、千草にはちょっとした悩み事があった。それは「御鶴の考えていることがよく分からない」ことである。いつも気色を変えずに涼しい顔をしており、心中を読み取ろうにも不思議なことに全く分からないのだ。しかも自身のことは話そうとしないので、御鶴から得られる個人情報はゼロに近かった。千草は御鶴に聞いたことがあった。 「何故自分がここに採用されたのか」と。すると御鶴は「面白そうだから」と言って問いを一蹴してしまった。全く、タチの悪い話である。少なからずとも、あの時から千草の予知夢の話を楽しんでいたようだった。
「どんな夢だったか、詳しく教えてはくれないか?」
そしてまたニコリと微笑んだ。
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