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第一章:婚約破棄の告知と王子の裏切り

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王国の聖女として広く知られるアイシス・ランベールは、穏やかで温かみのある人柄と、その透き通るような美しさから、老若男女問わず民衆に愛されていた。彼女は幼い頃から特別な癒しの力を持っており、それゆえに聖女として王国から大切にされ、民衆の祈りと信仰の対象となっていたのだ。

しかし、そんなアイシスにも一人の女性としての夢があった。それは、王子であるアラン・フリードリッヒとの結婚だ。王子とは幼少期からの知り合いであり、数年前には正式に婚約を交わし、王妃としての学びを受けながら共に未来を誓い合ってきた。王子の隣で支えとなり、王国のために尽くす――それがアイシスの理想であり、日々の努力の原動力でもあった。

だが、その未来が脆くも崩れ去る日が訪れる。

ある晴れた日の午後、王宮からの呼び出しを受けたアイシスは、少しも疑いを抱かずに大広間へと足を運んだ。整えられた髪と純白のドレスが彼女の清らかさを引き立て、宮廷の貴族たちもその姿に目を奪われていた。しかし、彼らの視線の奥には不穏なものが感じられる。広間に到着すると、王子の他に、王や側近たちも揃い、異様な雰囲気が漂っていた。

「アイシス、君に重要な話がある」

王子アランの冷ややかな声が広間に響き渡る。いつもなら彼女に向けられるはずの微笑みは消え、代わりに冷淡な表情が浮かんでいた。その様子に不安を感じながらも、アイシスは静かに応えた。

「はい、アラン様。何か私に至らぬところがございましたか?」

王子は視線を逸らし、ため息をついて言葉を続ける。

「君との婚約を破棄することを決めた。理由は、他にふさわしい相手が見つかったからだ」

アイシスは、まるで時間が止まったかのように感じた。言葉が一瞬頭に入らず、ただ王子の言葉を反芻する。婚約…破棄?それも、他にふさわしい相手が見つかったから?

彼女の胸に込み上げる怒りや悲しみを必死に抑えながら、アイシスは問いかけた。

「…どういうことでしょうか。私が王妃として足りない部分があったのでしょうか?」

アランは冷たく首を振り、「君は確かに聖女として優れているが、それ以上の力を持つ者がいる」と言った。その「ふさわしい相手」とは、隣国の王女であり、莫大な魔力と家柄を備えた、強大な影響力を持つ女性だったのだ。王国の政略結婚により国力を増強するため、アイシスとの婚約は「不要」だと判断されたのである。

彼女の心の奥底で燃え上がる怒りを感じつつも、アイシスはその場で涙を流すことなく、静かに立ち尽くした。王子が本当に求めていたのは愛や誓いではなく、ただの権力や影響力だったのだろうか。アイシスにとって、それは彼との関係が虚構であったことを知らされたような痛みだった。

周囲の貴族たちも冷ややかな視線を彼女に向け、噂話を交わし始めている。これまでの聖女としての地位が、一瞬で崩れ去っていくような感覚に襲われたが、アイシスはそれを表に出さず、静かに王子の言葉に応じた。

「…わかりました。私にできることは何もないのですね」

アランは冷やかに頷く。「そうだ、君はもう必要ない。自らの立場をわきまえて、潔く去ることだ」

アイシスはゆっくりと頭を下げ、広間を後にした。その背中に何人かの視線が突き刺さるのを感じたが、決して振り返ることはなかった。彼女の心には、怒りと悔しさ、そして裏切られた哀しみが渦巻いていた。

王宮を出た彼女は、王都の風景を眺めながら、自らに問いかける。

「私は一体、何のためにここにいたのだろう…」

自らを支えてきた信念が揺らぐ中、彼女はふと民の姿を見つめる。自分を支え、信じてくれる民衆がいる。そうだ、彼らのために自分が何をできるか、それこそが今考えるべきことだと彼女は決意を新たにした。

アイシスはその日の夜、王都を出て旅に出ることを決めた。彼女は自分の力がどれほどのものかを知り、もっと強くなるために必要な修行をすることを心に誓った。そして、いつかこの国が再び彼女を必要とする日が来たなら、冷たく去った王子や彼を取り巻く者たちに「ざまあ」を見せると心に決め、王都を後にしたのだった。

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