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第五章: ドラゴンとの戦い

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リーゼの全身を光が包み、再び自分の中に眠っていた力が目覚めるのを感じた。かつて狼を倒したときとは比べ物にならないほどの強烈なエネルギーが彼女の体を満たしていく。彼女の手から放たれる光は、まるで彼女の意志に従うように形を変え、周囲に圧倒的な力を感じさせた。

フェリクスはその場に立ち尽くしていた。リーゼの変化に目を見張りながらも、すぐに彼女の傍に駆け寄った。

「リーゼ……君、いったいどうやって……」

しかし、リーゼは彼の問いかけに応えることなく、ただドラゴンに視線を向けた。巨大なドラゴンは、咆哮を上げながら彼女たちに迫ってくる。その一歩一歩が地面を揺らし、木々をなぎ倒しながら進んでくるのがわかる。

「私がやらなきゃ……この力を使わなきゃ!」

リーゼはそう自分に言い聞かせ、両手を前に突き出した。彼女の中で感じていたエネルギーが急速に集まり、手のひらから眩い光の球体が生まれた。その光は次第に大きくなり、まるで太陽のように輝き始める。

ドラゴンが距離を詰め、牙をむき出しにして飛びかかろうとする瞬間、リーゼはその光の球を解き放った。光の波がドラゴンに向かって一直線に飛んでいき、その体に直撃した。爆発的な衝撃音が響き渡り、ドラゴンは後ろに弾き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

「う、嘘だろ……あのドラゴンが……」

フェリクスは目の前の光景に驚愕し、口を開けたまま呆然としていた。彼がかつて聞いたことのある伝説のドラゴン――その強大な存在が、リーゼの力によって一撃で倒されたのだ。彼の中で、リーゼがただの追放された貴族の娘ではないことが確信に変わった。

しかし、ドラゴンはまだ完全に倒れてはいなかった。地面に横たわるその体がゆっくりと動き出し、再び立ち上がろうとする。

「まだ……終わってないの……!」

リーゼは体の中に残る力を感じながら、再び両手を構えた。しかし、先ほどの攻撃で大きなエネルギーを使い果たしており、彼女の体は疲労に襲われていた。足元がふらつき、意識が遠のきそうになるのを感じたが、ここで倒れるわけにはいかない。

フェリクスが彼女の傍に駆け寄り、支えようとする。しかし、リーゼは自分の意志で立ち続け、ドラゴンに向かってもう一度立ち向かおうとした。その時、突然、彼女の背後から別の光が放たれた。

「待て、リーゼ!」

その声はルカス老人のものだった。彼は村の方から駆けつけてきており、杖を掲げて魔法を唱えていた。ルカスが放った魔法の光がドラゴンに直撃し、さらに追い討ちをかけるようにしてその動きを止めた。

「無理をするな。今は私と一緒に力を合わせてこの獣を倒すんだ。」

ルカスはそう言いながら、リーゼの方に近づいてきた。彼の目には鋭い光が宿っており、かつての騎士としての経験が彼の言葉に重みを与えていた。リーゼは彼の助けを受け入れることを決意し、再び力を集め始めた。

「はい、私もやります……でも、どうしてこんな力が……?」

リーゼは自分自身が持つこの異常な力について、ルカスに問いかけた。だが彼は静かに首を振り、優しく微笑んだ。

「君の中に眠っているこの力は、君自身が持っていたものだ。それが覚醒したに過ぎない。だが、今はそれを深く考える時ではない。まずはこのドラゴンを倒すんだ。」

リーゼはルカスの言葉に頷き、彼と共にドラゴンに再び向き合った。彼女は再び手を前に突き出し、今度はルカスと共に魔力を集めていく。二人の力が合わさり、巨大な光の刃が生み出された。

「これで終わりよ……!」

リーゼは叫びながらその光の刃を解き放った。光はまっすぐにドラゴンへと飛んでいき、その体を貫いた。ドラゴンは一瞬静止し、その後ゆっくりと崩れ落ちた。重々しい音が響き渡り、ついにその命が尽きたのだ。

辺りには静寂が戻り、リーゼはその場に倒れ込んだ。彼女の体は限界を迎えており、全身が疲労で動かなくなっていた。しかし、心の中には確かな達成感があった。彼女はこの村を守り抜いたのだ。

「やったな、リーゼ……君は本当に強い。」

フェリクスが駆け寄り、彼女を支えながら微笑んだ。リーゼも彼に微笑み返し、静かに頷いた。

「でも、まだ終わってないわ。この力をもっと理解しないと……」

ルカスが近づき、彼女に優しく言葉をかけた。

「君の力はこれからだ、リーゼ。このドラゴンを倒せたのは君の力が覚醒した証だが、それを完全に制御するためには、まだ修行が必要だ。」

リーゼは彼の言葉に深く頷いた。自分の中に眠るこの力はまだ未知の部分が多い。だが、今日の戦いを通じて、彼女はその力が何であるのか、そしてどのように使いこなせるかを学び始めたのだ。

「ありがとう、ルカス……これからも、力を貸してください。」

「もちろんだ、リーゼ。君の中にはまだ多くの可能性が眠っている。それを解き放つために、私も全力を尽くす。」

ルカスの言葉に、リーゼは心強さを感じた。これから待ち受ける未来に対して、彼女は少しずつ自信を取り戻していく。


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その日の夜、リーゼは自分の部屋で静かに休んでいた。体は疲れていたが、心の中には静かな充足感が広がっていた。自分の力を少しずつ理解し始め、村を守ることができたことで、彼女は新しい自分の一歩を踏み出したのだ。

これから待ち受ける試練はまだ多いかもしれない。だが、リーゼはもう恐れることはなかった。自分の力を信じ、そして仲間たちの支えを感じながら、彼女は再び立ち上がる決意を固めていた。

「私は、負けない……」

リーゼは小さく呟き、眠りについた。その顔には、未来への希望が宿っていた。


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