婚約破棄されましたが、それは私が輝くための始まりです

第一章：「婚約破棄の宣告」

朝の光が貴族邸の窓から差し込む中、クラリッサ・フォン・エルデンは鏡の前で最後の仕上げをしていた。彼女の長い金髪は完璧にセットされ、深い藍色のドレスは彼女の優雅な姿を一層引き立てていた。今日の舞踏会は、彼女にとっても特別な日。王太子との婚約発表が行われる予定であり、彼女の家族はその成功を心から願っていた。

「クラリッサ、もうすぐだよ」と、彼女の母親であるレティシア夫人が後ろから声をかけた。「あなたの姿は素晴らしいわ。今日があなたにとって最高の日になりますように。」

クラリッサは微笑みながら頷いた。「ありがとう、お母様。すべてが順調に進むことを願っています。」

しかし、その美しい笑顔の裏には、彼女の心に潜む不安が隠されていた。クラリッサは幼い頃から、数多くの貴族たちから注目を集める存在だった。その才気と美貌は一目置かれるものがあったが、彼女自身は常にその期待に応えることに疲れを感じていた。特に、王太子との婚約は彼女にとって大きなプレッシャーとなっていた。

舞踏会が始まり、会場は華やかな光と音楽で満たされた。貴族たちは美しいドレスや紳士のタキシードに身を包み、楽しげに談笑していた。クラリッサは優雅に歩みを進め、周囲の視線を一身に集めていた。彼女の父親、アーヴィング公爵も誇らしげに娘を見守っていた。

「クラリッサ、こちらへ」と、父親が手招きする。彼女は父親の元へと歩み寄り、軽くお辞儀をした。「お嬢様、本日はお越しいただきありがとうございます。王太子も大変喜んでおります。」

クラリッサは微笑みながら返事をした。「こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます。」

その時、舞台の中央から王太子が登場した。彼の姿に会場は一斉に静まり返り、彼に注目が集まった。クラリッサは心の中で一瞬の緊張を感じながらも、冷静さを保とうと努めた。

王太子はマイクを手に取り、深々とお辞儀をした。「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。私、王太子アレクサンダーは、本日よりクラリッサ・フォン・エルデン様と婚約を結ぶことをここに宣言いたします。」

会場は歓声と祝福の拍手で包まれた。クラリッサは笑顔を作り、優雅に受け答えをした。「ありがとうございます、アレクサンダー様。私も光栄に思います。」

しかし、その瞬間、クラリッサの親友であり、密かに王太子に想いを寄せているエミリアが舞台裏から現れ、冷ややかな視線をクラリッサに向けた。クラリッサはその視線を一瞬感じ取ったものの、笑顔を崩さずに祝福の言葉を続けた。

舞踏会が進む中、クラリッサはふとした瞬間に王太子の目と目が合った。彼の瞳には何かしらの迷いと決意が感じられ、その視線に彼女の心は揺れ動いた。しかし、すぐにその瞬間は消え去り、舞台の照明が再び華やかさを取り戻した。

夜が更け、舞踏会も佳境に差し掛かった頃、クラリッサはバルコニーで一人、夜空を見上げていた。星々が輝く中、彼女の心には次第に不安が広がっていた。婚約が発表されたことは喜ばしいはずだったが、彼女自身の気持ちがどこかすり減っているように感じていた。

突然、彼女の前に王太子が現れた。「クラリッサ、お話ししてもいいですか？」

クラリッサは驚きながらも頷いた。「もちろんです、アレクサンダー様。」

二人はバルコニーの隅に移動し、静かな場所で会話を始めた。「クラリッサ、実は私には大切な話があります。」

クラリッサは心臓が高鳴るのを感じながらも、冷静を保とうとした。「何でしょうか？」

王太子は深呼吸をし、目を伏せた。「私、もう一度考えました。クラリッサ様との婚約について、私の心が本当にこの道を進むべきか、自信が持てなくなりました。」

クラリッサは一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。「アレクサンダー様、どういう意味ですか？」

「実は、私は本当に心から愛せる人を見つけました。彼女はリディアという、地味で控えめな平民の娘です。彼女の純粋な心に触れ、私は彼女と共に生きたいと強く思うようになりました。」

クラリッサの心に冷たい衝撃が走った。「リディアさん…？」

「はい、彼女こそが私の真実の愛です。だから、クラリッサ様との婚約を破棄させていただきたいのです。」

その言葉を聞いた瞬間、クラリッサの顔色は一変した。彼女の目には怒りと屈辱が滲み出ていた。「なぜ…私を冷たいと？」

「あなたは美しく、知的で素晴らしい方ですが、私にはリディアさんの優しさと誠実さが必要です。私の心はそちらに向かっています。」

クラリッサは深く息を吸い込み、冷静さを装った。「分かりました、アレクサンダー様。ご決断を尊重いたします。」

しかし、その声の裏には確固たる決意が感じられた。王太子は再度深く頭を下げると、去っていった。クラリッサはその姿を見送りながら、自分の中に燃え上がる炎を感じた。彼女はこの屈辱をただ受け入れるわけにはいかない。自分の価値を証明し、王太子や彼を支持する貴族たちに対して強烈な「ざまあ」を見せる決意を固めたのだった。

その夜、クラリッサは家に戻ると、すぐに自室に閉じこもった。部屋の中には贅沢な装飾が施されているが、彼女の心は荒れ果てていた。窓の外には静かな夜が広がり、彼女の思考を反映するかのように、心の中は嵐のようだった。

「私はただの道具ではない」と、彼女は自分に言い聞かせた。「この屈辱を力に変えて、必ずやり返してみせる。」

クラリッサはデスクに向かい、計画を書き始めた。彼女の頭の中には、復讐の具体的なアイデアが浮かんでいた。王太子やリディアがどのように彼女を利用し、壊そうとしたのか、その全てを逆手に取る方法を考えていた。彼女は冷静に、しかし確実に自分の道を切り開く決意を新たにした。

その後の日々、クラリッサは表向きは穏やかに日常を送る一方で、裏では巧妙な計略を進めていった。彼女の美しさと知性は、そのまま彼女の強力な武器となり、次第に周囲の人々は彼女の変化に気づき始めた。クラリッサ・フォン・エルデンは、もう以前のクラリッサではなかった。彼女の目には、新たな目的と復讐心が宿っていた。


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