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最終章:選ばれた未来

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数か月が経ち、アルキオーネはますます成長を遂げていた。王位継承者としての責務に向き合い、政治や外交の知識を身に着けるために勉強を重ね、宮廷内外での影響力も少しずつ確立していった。彼女の存在は、もはやただの公爵令嬢ではなく、王国の未来を託されるべき人物として誰もが認めるものとなっていた。

一方、フォーマルハルト公の影も以前より薄くなりつつあった。彼は表向き、アルキオーネの決意を尊重するように見せていたが、宮廷内では少しずつ彼の支持が弱まり始めていた。アルキオーネの毅然とした態度が周囲に評価され、彼女を支える勢力が強まるにつれて、彼の野心は次第に見透かされていったのだ。

だが、フォーマルハルト公は完全に諦めたわけではなかった。彼の最後の一手は、アルキオーネに対して直接的な行動を取ることだった。


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ある晩、アルキオーネは静かな夜を過ごしていた。宮廷の窓から月明かりが差し込み、彼女は書斎で一人、これからの王国についての文書を読んでいた。その時、ドアが軽くノックされ、リリアンが入ってきた。

「アルキオーネ様、外に不審者がいるという報告がありました。警備隊が対応しておりますが、念のためご注意を。」

アルキオーネは眉をひそめた。宮廷内に不審者が入り込むことなど、ほとんどありえないはずだった。だが、その瞬間、彼女は直感的に感じた――これはフォーマルハルト公の仕業である可能性が高い、と。

「わかりました。リリアン、警備隊に厳重に見張るよう伝えてください。私はここで待ちます。」

リリアンは頷き、部屋を後にした。アルキオーネはそのまま書斎に留まり、冷静に事態を見守った。

数時間が経ち、ようやくリリアンが再び戻ってきた。

「アルキオーネ様、警備隊が不審者を確保しました。ですが……その不審者は、フォーマルハルト公の部下のようです。」

アルキオーネはその言葉に驚きつつも、すぐに冷静さを取り戻した。やはりフォーマルハルト公は何かを企んでいたのだ。彼女はそのまま、リリアンに指示を出した。

「警備隊に、フォーマルハルト公を連行するよう伝えてください。今宵、全ての真実を明らかにする時です。」


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フォーマルハルト公はその夜、王宮の一室に呼び出された。アルキオーネは彼を前に立ち、厳しい目つきで彼を見つめた。

「叔父様、今宵の不審者があなたの部下であることは既に確認されています。あなたが何を企んでいたのか、すべて明らかにしてください。」

フォーマルハルト公は一瞬、怯んだように見えたが、すぐに冷静な態度を取り戻した。

「アルキオーネ、私が何をしたというのだ?私はただ君を守るために、少し厳しい手段を取っただけだ。君が王国を支えるためには、私の助けが必要だろう。」

アルキオーネは彼の言葉を冷静に聞きながら、毅然とした態度を崩さなかった。

「叔父様、あなたの本当の目的は私を助けることではなく、権力を握ることです。あなたが私を支配しようとするのは許せません。今この瞬間をもって、あなたには宮廷から退くことを命じます。」

フォーマルハルト公はその言葉に驚愕し、一瞬だけ憤怒の表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべた。

「そうか、アルキオーネ。君がそこまで強い意志を持っているとは思わなかった。しかし、覚えておけ。私はいつでも君の力になれる存在だ。君が困った時には、私を頼ればいい。」

フォーマルハルト公はそう言い残し、宮廷を去った。アルキオーネはその背中を見送りながら、彼が去ったことに安堵を感じたが、同時に彼が完全に諦めたわけではないことも理解していた。

「私はこれからも、彼に警戒を怠らず、王国の未来を守らなければならない……」

アルキオーネはそう心に決め、再び王宮内での役目に戻ることにした。


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その後、アルキオーネは正式に次期女王として認められることとなった。宮廷内外からの支持はますます強まり、彼女の冷静かつ賢明な判断が多くの貴族や国民から評価された。フォーマルハルト公は完全に失脚し、彼の陰謀も明らかにされたため、王国は再び平和と安定を取り戻しつつあった。

そして、アルキオーネはついに正式に即位する日を迎えた。彼女の頭には王冠が輝き、その瞳には未来への強い決意が宿っていた。

「私はこれから、この王国を守るために生きていく。誰にも支配されず、自分自身の力で未来を切り開くのだ。」

アルキオーネはその決意を胸に、王座へと進んだ。彼女の歩みは力強く、そして誰よりも美しく輝いていた。


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エピローグ

アルキオーネが即位してから数年後、王国は繁栄を続けていた。彼女の統治下で多くの改革が進み、国民たちは新たな未来に希望を抱いていた。彼女は一人の強い女王として、誰にも屈することなく王国を治め続けた。

時折、フォーマルハルト公の存在が彼女の記憶をよぎることもあったが、彼の影響力はもはやなく、アルキオーネはそのことに不安を抱くこともなかった。

彼女の未来は、彼女自身の力で築かれたものであり、誰にも奪われることのない自由な道だった。

アルキオーネは新たな歴史を刻む存在となり、王国は彼女の名と共に輝き続けるのだった。


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