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第5章: 偽りの発覚と三人の醜い争い
しおりを挟むレオルドが蓬莱の玉の枝を持ち帰り、ロリーネに誇らしげに見せつけた直後、空気が一変した。ガレスとオスカーがその枝に目を光らせ、次第に険しい表情を浮かべ始めたのだ。彼らにとって、蓬莱の玉の枝の話はそもそも信じがたい伝説であり、レオルドがその宝を手に入れたという話には、どうしても納得がいかなかった。
「本当に、その枝が蓬莱の玉の枝だと言うのか?」ガレスが低い声で問いかけた。彼の声には冷徹な疑念がこもっていた。
「もちろんだ。僕が命を懸けて手に入れたんだ」とレオルドは自信たっぷりに返答したが、内心では焦りが募っていた。偽造品であることがバレるわけにはいかない。何とかしてその場を切り抜けなくてはならなかった。
だが、ガレスは引き下がらなかった。「蓬莱の島までの航路や、現地での状況について詳しく話してみろ。お前がそんな短期間でその島に行けるはずがない。普通なら、数ヶ月以上かかるはずだが?」
レオルドは明らかに動揺し始めたが、それを隠すために声を荒げた。「君たちは僕のことを妬んでいるだけだろう! 僕が君たちよりも先に、ロリーネにふさわしい男であることを証明したんだ!」
しかし、その言葉は効果を持たなかった。オスカーが冷ややかに笑いながら口を開いた。「ふさわしい? それはどうかな。俺が見たところ、その枝はただの高価な装飾品にしか見えない。実際、これは市場で見かける宝石じゃないか? 少しばかり贅沢な贋作に過ぎないんじゃないのか?」
オスカーの指摘に、レオルドは一瞬、返す言葉を失った。彼が持っていた枝は、確かに本物に見せかけた贋作であり、偽物だと指摘されればその場で全てが崩れる。しかし、何とかして反論しなくてはならなかった。
「黙れ! これは本物だ! 僕が特別に依頼した宝石職人が作ったのではなく、蓬莱の島で見つけた真の宝だ!」レオルドは必死に言い返したが、彼の声にはもはや自信が感じられなかった。
ガレスが冷笑を浮かべて言った。「君がその枝をどこで手に入れたのか、誰に聞いたってすぐにわかるさ。俺たちに嘘をつこうとしても無駄だ。お前は蓬莱の島にすら行っていない。命を懸けたと言っているが、実際には何もしていないんだろう?」
レオルドはさらに動揺し、目を泳がせながら言い返そうとしたが、その時、オスカーが一歩前に出て、彼に追い打ちをかけた。「ガレスの言う通りだ。俺たちはここでお前の嘘を暴くつもりはなかったが、どうやら仕方がないようだな。お前はロリーネに対しても、俺たちに対しても嘘をついている」
レオルドは顔を真っ赤にして反論しようとしたが、ガレスとオスカーの圧力に押され、言葉を失った。彼はその場で完全に追い詰められ、偽りの勝利が崩れ去る瞬間を迎えようとしていた。
「ロリーネ、この男の言うことを信じてはいけない。彼はただ君を騙そうとしているだけだ」とガレスが声をかけた。「蓬莱の玉の枝は存在しない。それは誰もが知っている事実だ」
ロリーネは冷静に三人のやり取りを見つめていた。彼女は既に、この結果を予期していたのだ。レオルドが持ち帰るものが偽物であることを見抜き、ガレスとオスカーがその事実に気付くことも予想していた。だが、彼女の目的はただ彼らが失敗することだけではなかった。
「お二人とも、レオルド様に対して少し厳しすぎますわ」とロリーネは静かに口を開いた。彼女の声は穏やかだったが、その目には冷たい鋭さが宿っていた。「ですが、確かに私も、この枝が本物かどうかに疑問を感じております。少し確認をさせていただいてもよろしいですか?」
ロリーネが優雅に立ち上がり、レオルドの手から蓬莱の玉の枝を受け取ると、彼女は枝をじっくりと観察し始めた。まるで専門家のように、細部に目を光らせていた。
「まあ、素晴らしい作りですね。宝石の配置も見事ですし、光の反射も美しい。ですが……」彼女は枝を持ち上げ、日の光に透かしながら言った。「これほど完璧な宝が、伝説の島に眠っていたという話には、どうしても違和感を覚えますわ」
彼女の言葉に、レオルドは息を呑んだ。オスカーとガレスもまた、ロリーネが何を言おうとしているのかに気付き、緊張が走った。
「つまり、これは……偽物ではないか、ということです」
ロリーネがそう言い放った瞬間、場の空気が凍りついた。レオルドの顔は真っ青になり、ガレスとオスカーは互いに勝ち誇った表情を浮かべた。しかし、その笑みは長く続かなかった。
「ただ、私はレオルド様だけを責めるつもりはありません。ガレス様、オスカー様。あなた方もまた、私を騙そうとしているのではありませんか?」ロリーネは冷たく二人を見つめ、言葉を続けた。「お二人もまた、私を手に入れるために、何かしらの策略を練っていたことは分かっています。蓬莱の玉の枝が存在しないことを知っていても、私を手に入れようとしたのですから」
ガレスとオスカーは一瞬、互いの顔を見合わせたが、すぐに互いを非難し始めた。
「オスカーこそギャンブル狂いで、ロリーネにふさわしくない! 彼の資産は既に底をついている!」ガレスが激しく叫んだ。
「ガレスだって、裏社会と繋がっていて、マフィアと取引しているんだ! そんな男がロリーネにふさわしいはずがない!」オスカーも負けじと返した。
こうして、三人の間で醜い争いが始まった。彼らは互いに非難し合い、自分がロリーネにふさわしいと主張し続けたが、誰もがその場での信用を失っていた。
ロリーネは冷静にその様子を見つめ、内心ではこの結末に満足していた。彼らが自滅するのを待っていた彼女の計画は、まさにその通りに進んでいたのだ。
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