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第四章:初めての対面
しおりを挟むロランとのリモート会話から数日が経った。彼の優しさと慎重な提案に、私は心の中で葛藤を抱え続けていた。対面で会うという提案――それは、私が長年恐れていたものであり、これまで避けてきたものだ。しかし、彼が私のペースに合わせてくれることや、マジックスクリーンを使って安全な距離を保ちながら進めるという提案は、私に少しの希望をもたらしてくれた。
「……本当に大丈夫だろうか……」
窓から入る風がカーテンを揺らす中、私は自分に問いかけていた。ロランとの対面は避けられないが、それでも怖さが勝っていた。けれど、いつまでもリモートに頼っていては何も進まないことも分かっている。父上もまた、私がいつかはこの恐怖を乗り越える必要があると説いていた。
そしてついに、私は意を決してロランに対面での会話を承諾する返事を送った。
---
数日後、ロランと対面する日が訪れた。場所は、王宮の庭園に設けられた特別な場所。そこには、マジックスクリーンを設置した部屋があり、私とロランが適切な距離を保ちながら会話をできるように工夫されていた。
私は緊張で手が震えていた。これまでずっと人と直接会うことを避けてきた。唯一の安心材料は、マジックスクリーンを通じて会話ができるということだった。それでも、彼が近くにいるという事実が、私の心臓を高鳴らせていた。
「エリス様、もうお時間です。」
侍女がそっと私に声をかけた。私は小さく頷き、深呼吸を一つしてから立ち上がった。ゆっくりと足を運び、庭園に設置された部屋へと向かう。心の中では、様々な思いが渦巻いていたが、今はただその場に足を進めるしかなかった。
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部屋に入ると、すでにロランが待っていた。彼は落ち着いた表情で椅子に座り、私が入ってくるのを静かに見守っていた。部屋の中央にはマジックスクリーンが設置されており、私たちの間にある小さな距離が不思議と安心感をもたらしてくれる。
「エリス様、今日はお会いできて光栄です。」
ロランは優しく微笑み、私に挨拶をした。彼の声が直接耳に届くという感覚は、リモートとは全く違うものだった。私は緊張を隠しきれないまま、彼にぎこちなく頭を下げた。
「こちらこそ……ロラン様、今日はお時間をいただき、ありがとうございます。」
心臓がドキドキと高鳴り、言葉を絞り出すのが精一杯だった。しかし、彼の穏やかな態度が、私の心の負担を少しずつ軽くしてくれるのを感じた。
「エリス様、どうかご安心ください。私も少し緊張していますから。」
ロランは笑みを浮かべてそう言った。その一言に、私はほんの少しだけ肩の力を抜くことができた。彼もまた、この対面に対して慎重に進めているのだと知り、私の心の壁が少しだけ柔らかくなった気がした。
---
会話が始まると、私は少しずつロランの言葉に耳を傾け、次第に緊張が解けていった。彼は、これまでのリモートでの会話の延長線上で、穏やかに私に話しかけてくれる。私たちは王国の近況や、彼の家族のこと、そして日常の小さなことについて話をした。
「エリス様、今日はこうして直接お会いできたこと、本当に嬉しく思います。」
彼がそう言った時、私は自分でも驚くほど自然に微笑むことができた。これまでのリモートでのやり取りとは違い、相手がすぐそこにいるという感覚は確かに恐怖でもあったが、ロランの優しさに包まれた空間は、私に安心感をもたらしてくれていた。
「私も、こうしてお話しできて良かったです……。ロラン様のおかげで、少しずつ対面での会話が怖くなくなってきました。」
その言葉が自分の口から自然と出たことに、私自身が驚いた。対面での会話が少しずつ恐怖でなくなっている。それは、ロランが私のペースに合わせてくれたからだろう。
「それは良かったです。エリス様のペースで、ゆっくりと進めていければと思います。」
ロランのその言葉は、私にとって大きな救いだった。彼は急ぐことなく、私を理解してくれる。その優しさに、私は少しずつ自信を取り戻しつつあった。
---
対面での会話が終わると、私は深い安堵感に包まれた。これまで恐れていた対面が、思っていたよりも恐ろしいものではなかったことに気づいたのだ。もちろん、まだ完全に恐怖が消えたわけではない。しかし、今日の経験を通じて、少しずつ前に進むことができるという確信が芽生えた。
「ロラン様、今日は本当にありがとうございました。また、少しずつ……対面でお話しできると嬉しいです。」
私は彼に向かって、心からの感謝の言葉を述べた。ロランは微笑みながら頷き、優しく答えた。
「もちろんです。エリス様、無理せず、ゆっくりと進んでいきましょう。」
彼のその言葉に、私は胸の中に小さな希望を抱いた。対面で会うという恐怖を克服するための第一歩を踏み出したことが、自分にとって大きな成長であると感じたのだ。
---
その夜、私は自分の部屋で静かに考えていた。今日の対面での会話は、私にとって大きな意味を持っている。これからも、ロランと少しずつ距離を縮めていくことで、恐怖を乗り越えられるかもしれない。
「きっと、私にもできる……。」
自分に言い聞かせるように呟き、私は窓の外を見つめた。夜空に輝く星々が、私に未来への希望をもたらしてくれるように感じた。
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