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第三章: 聖女としての新たな人生

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リリアンが聖女としての力を受け入れた日から、村での生活は一変した。彼女の癒しの力を求めて、近隣の村からも人々が訪れるようになり、村全体が活気づき始めた。追放された当初、リリアンは自分が新しい場所でどう生きていくかを模索していたが、今では使命を持って行動することに喜びを感じていた。

ある日、リリアンは村の広場で病気の男性を癒していると、遠くから馬に乗って近づいてくる人物の姿を見た。その人物は、長身で端正な顔立ちを持ち、鋭い目で周囲を見渡しながら彼女の元へ向かっていた。彼は村に到着すると馬から降り、ゆっくりとリリアンに近づいてきた。

「あなたが聖女リリアン様ですか?」

声をかけたのは、騎士の装いをした青年だった。彼の名はアレクシス。この地方を守る騎士団に所属し、王国全体に彼の名が知れ渡っているほどの有名な剣士だった。彼の堂々とした佇まいから、ただ者ではないことが伝わってくる。

「ええ、そうです。私はリリアンです」

リリアンは彼に微笑みながら答えた。追放された貴族としてではなく、今は一人の聖女としてここにいるのだという思いが込められていた。

「私は騎士アレクシス。リリアン様、あなたの力をぜひ私にも貸していただきたい。王国の北部では、病が蔓延し、私たちの力だけではどうにもならない状況にあります。どうか、聖女としての力をお貸しください」

彼の言葉に、リリアンは一瞬戸惑った。自分の力はこの村の小さな人々を癒すためのものだと思っていたが、今、彼女の助けを必要としているのは村を超え、広く国全体に及んでいることを知ったのだ。

「北部でそんな事態が起きているなんて…分かりました、私にできることなら、力を尽くします」

リリアンはすぐに答えた。彼女の中で、力を使うことへの迷いはもうなかった。自分が必要とされている場所で全力を尽くす、それが彼女の役割だと感じていたのだ。


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リリアンはアレクシスと共に、馬に乗って北部へと向かった。村を出るのは初めてだったが、彼女はすでに強い使命感に突き動かされていた。長い旅路の途中、アレクシスは彼女に王国全体の状況を話してくれた。

「この王国は今、病気や飢餓、そして内乱の危機に直面しているのです。王太子の周囲には、彼に従う者が少なくなり、彼の政策に反対する貴族たちが勢力を増している。そんな中で、この病気が広がってしまい、人々は不安に苛まれています」

リリアンは黙って聞きながら、王宮で過ごした日々を思い出した。エドガーが自分を追放したあの日から、彼はどのように国を治めているのかを想像してみるが、やはり裏切られたという思いが拭えなかった。

「王太子エドガー様は…どうされているのですか?」

リリアンは静かに尋ねた。アレクシスは一瞬の間を置いてから、答えた。

「正直なところ、王宮の状況は厳しいです。エドガー殿下は今、彼を取り巻く人々によって判断力を失っているように見えます。彼が信頼していた者たちの裏切りや、取り巻きによる影響で、彼の決断はどれも国に混乱をもたらしています」

リリアンはそれを聞いて、心が少し痛んだ。かつて彼女が婚約者だったエドガーは、もっと聡明で、責任感のある人物だと思っていた。しかし、追放される過程で見た彼の冷酷な判断が、今も国全体に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。


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北部に到着すると、そこはリリアンが想像していた以上に厳しい状況だった。病に苦しむ人々が道端に倒れており、村全体が暗い雰囲気に包まれていた。アレクシスの案内で彼女は病人たちのもとへと向かい、すぐに治療を始めた。

彼女の手のひらから光が放たれ、次々と病人たちが癒されていく様子に、周囲の人々は驚きと感謝の声を上げた。彼女の存在が、ここでも希望の光となり始めたのだ。

「聖女様、ありがとうございます! こんな奇跡が本当に起こるなんて…」

人々はリリアンの手に触れ、感謝の言葉を口々に述べた。リリアンもその反応に心を打たれ、さらに多くの人々を救おうという気持ちが強くなった。

しかし、彼女の力が全てを解決できるわけではなかった。病の原因を根本から解明しない限り、再び広がる可能性は高い。リリアンはそのことに気づき、アレクシスに言った。

「この病の根本的な原因を突き止める必要があります。私たちが病気の発生源を見つけ、そこを癒さなければ、また同じことが起こるでしょう」

アレクシスは彼女の言葉に頷き、早速その手がかりを探し始めた。彼は優れた騎士であり、知恵も働く人物だったため、彼女と協力して真実を探ることができた。

こうしてリリアンは、聖女としての新たな使命を全うするため、さらなる冒険と試練に立ち向かうことになった。彼女の旅はまだ始まったばかりだったが、その決意は揺らぐことはなかった。人々を救うための力を持ち、そして新しい仲間であるアレクシスと共に、彼女は希望を胸に秘めて進んでいった。


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