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序章

新たな旅の始まり

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フレイヤが王国を去った後、彼女はいつも通り気ままな旅を続けていた。彼女にとって「追放された」という感覚はなく、むしろようやく自由な生活を手に入れたことへの解放感が勝っていた。城での生活は贅沢ではあったものの、どこか息苦しさを感じる部分があった。しかし今、目の前に広がる無限の可能性を感じながら、彼女は歩みを進めていた。

「さて、まずはどこのお菓子を食べようかしら?」

フレイヤは、ガイドブック「異世界スイーツ100選」を手に取りながら次の目的地を考えていた。彼女が一番楽しみにしているのは、隣国の首都にあるという有名な菓子店だ。その店では、フレイヤが以前から食べたがっていた「天空のマカロン」が人気商品として知られていた。

「よし、決めたわ。まずは隣国のあの店ね。そこのマカロンは、一度は食べてみたかったのよ」

彼女は早速隣国への旅程を考えながら、軽やかに歩き出した。急ぐ必要はない。フレイヤにとって、目的地に早く着くことよりも、旅そのものを楽しむことが大切だった。寄り道をしながら、周囲の風景や自然を楽しむ余裕が彼女にはあった。


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一方、王国ではフレイヤが去ったことに伴い、新たな聖女セレスティアを迎え入れる準備が進められていた。セレスティアは、王国の希望の光として崇められ、彼女の到着を心待ちにしていた民たちが多くいた。王国の民は、フレイヤが去った後に本物の聖女が現れたことを喜び、王国の未来が安泰であることを信じていた。

だが、その一方で、フレイヤの不在がもたらす影響について懸念する声も一部では聞かれていた。フレイヤが何もしていないように見えても、彼女が持つ力が王国を守っていたという事実が少しずつ浮かび上がってきたのだ。特に、王国の高官たちはフレイヤの退去後、外敵や災厄が再び現れるのではないかという不安を抱いていた。

「フレイヤ様が何もしていないように見えて、実際には王国に平穏をもたらしていたのではないか?」

そうした疑念が広がり始める中、王国はセレスティアの力に期待を寄せつつも、何か大きな変化が訪れるのではないかという不安も同時に抱えていた。しかし、それでもフレイヤが去った後の新たな時代を迎えるため、王国の人々はセレスティアに全幅の信頼を置くしかなかった。


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フレイヤは、王国の動向には全く関心を持たず、ただ自分の旅を楽しんでいた。彼女にとって、王国の未来やセレスティアのことはすでに過去の話であり、今後の生活には全く影響しないと思っていた。それよりも彼女が気にかけているのは、次にどのスイーツを食べるかということだった。

途中、フレイヤは広い草原に差しかかり、一休みすることにした。広大な草原の中に一人、フレイヤは腰を下ろし、手元に持っていたガイドブックを再び開く。

「異世界のスイーツも色々あるけど、まずは近場から攻めていくべきよね」

ガイドブックには、異世界の様々なスイーツが美しいイラストとともに紹介されていた。それらはどれも幻想的で魅力的なものばかりだったが、フレイヤはまず現実の世界での旅を楽しむことに決めていた。隣国の菓子店は彼女にとって最初の目的地だが、そこからさらに遠くの国々へも足を運んでみようと考えていた。

「ふむ、次はどこに行こうかしら……。マカロンの次は、このエルフの森にあるクッキーも捨てがたいわね」

彼女は楽しそうにページをめくりながら、次々と目を引くスイーツに思いを馳せた。彼女の旅は、美味しいスイーツを求める冒険であり、そこに困難や試練が待ち受けていることなど、彼女の頭には一切なかった。フレイヤにとって、困難や試練はただの面倒事に過ぎない。彼女が旅を続ける理由は、あくまで「美味しいスイーツを食べる」という単純な欲求からだった。


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その時、ふと遠くの空に黒い雲が現れた。雷鳴が遠くで響き、風が強くなり始める。フレイヤは顔をしかめながら、その方向をぼんやりと見つめた。

「何か嵐でも来るのかしら?めんどいわね……」

彼女はそう言いながらも特に動揺することなく、再びガイドブックに目を戻す。しかし、空模様が急変するのを見て、少しだけ立ち上がり、周囲を見回した。

「うーん……さすがにこのままここにいるのはやめたほうが良さそうね。近くに避難できる場所があるかしら?」

フレイヤは地図を広げ、近くの村を確認した。どうやら隣国の小さな村が近くにあるらしく、そこで一晩休むことに決めた。彼女は再び歩き出し、急な天候の変化にも特に気にすることなく、気楽に次の村へと向かっていった。


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その夜、フレイヤは隣国の小さな村の宿に泊まることにした。宿は簡素なもので、豪華な城での生活に慣れていた彼女にとっては不便な部分もあったが、フレイヤはそれを特に気にすることもなかった。彼女にとって、どんな環境でも「美味しいスイーツ」があれば十分だった。

宿の食堂で出された食事は質素だったが、村人たちの温かいもてなしにフレイヤは満足していた。食後、彼女は再びガイドブックを手に取り、次の目的地について考えながら静かに夜を過ごした。

「明日は、もう少し遠くの街に行ってみようかしら……。美味しいお菓子が待ってるかもしれないわね」

フレイヤはそうつぶやきながら、疲れた体をベッドに横たえた。彼女にとって、この気ままな旅は始まったばかりであり、これからどんなスイーツに出会えるのか、その期待で胸を躍らせていた。

外では嵐の音が鳴り響いていたが、フレイヤにとってそれはただの眠りを誘う心地よい音に過ぎなかった。彼女は目を閉じ、次の日の新たな旅に思いを馳せながら、静かに眠りについた。


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こうしてフレイヤの新たな旅は、何事もなく穏やかに始まった。彼女はただ、美味しいスイーツを求めて、気ままに旅を続けていく。フレイヤにとって、旅の目的は複雑なものではない。彼女が求めるのはただ「美味しいもの」を味わうことであり、そのために少しばかりの困難や不便さも受け入れることができる。

嵐の音が外で響く中、フレイヤは気持ちよく眠りについた。明日から始まる新たな冒険には、どんな出会いや驚きが待っているのだろうか。彼女はそんなことをほとんど気にすることもなく、ただ自由な日々に期待を寄せていた。

フレイヤが再び王国と関わる日はまだ先のことであり、その時まで彼女は好きなように、自由気ままな旅を続けていくことになる。彼女の怠惰な性格やスイーツに対する執着心が、どのように物語を動かしていくのかは、これからのお楽しみだ。

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