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第二部
第二章:魔王黄泉の来訪
しおりを挟む夜の闇が深まる中、セミラミス伯爵家の屋敷は冷たい風に包まれていた。窓の外で木々が揺れ、かすかな音を立てている。アッシリアは静かにその風景を眺めながら、心の中に広がる不安を隠すように深呼吸をした。
数日前、彼女は自らの出生の秘密を両親に告げ、そして屋敷を後にする決意を固めた。だが、その後の運命がどう動くのか、彼女自身もまだわかっていなかった。胸の奥で呼びかけ続ける声に導かれながらも、彼女はこの場所で何かが起ころうとしているのを感じ取っていた。
その時、屋敷の執事が慌てた様子で部屋に入ってきた。「お嬢様、来客です。」
「こんな夜更けに?」アッシリアは驚いたが、その声を落ち着かせ、冷静さを装った。
「名乗りはありませんが、ぜひアッシリア様にお会いしたいと…」
「通しなさい。」アッシリアは短く指示を出したものの、胸の中で何かがざわめくのを感じた。
しばらくして、足音が静かに廊下を進み、扉がゆっくりと開かれた。そこに立っていたのは、黒いマントを羽織った一人の男だった。彼の姿を見た瞬間、アッシリアは胸が詰まるような感覚を覚えた。暗い瞳が彼女をじっと見つめ、まるで全てを見透かすかのようだった。
「お前がここにいるとはな。」男は冷たく響く声で言い、微笑を浮かべた。
その声はどこか冷酷で、しかしどこか魅惑的でもあった。アッシリアは動じることなく、その声の持ち主を見つめ返した。
「魔王…黄泉。」彼の名前を口にした瞬間、アッシリアの中で何かが動き出すのを感じた。
黄泉はゆっくりと歩み寄り、彼女の前に立った。その目には、底知れない力が宿っているかのようだった。
「お前が王子イーリスに捨てられ、居場所を失っていることを私は知っている。そして、今やお前が目覚めようとしていることもな。」
アッシリアは彼の言葉に眉をひそめたが、表情を変えずに静かに聞いていた。
「お前の力はまだ未熟だ。しかし、その力を私と共にすれば、もっと強大なものとなる。私の元へ来い。そうすれば、すべての運命は我が手の中に収まるだろう。」
黄泉の提案は、アッシリアにとって予想外のものだった。だが、彼女はそれに動じることなく、冷静に彼を見つめ続けた。
「私に何をさせたいの?」アッシリアは静かに問いかけた。黄泉の意図が何なのか、まだ完全には掴み切れていなかった。
黄泉は微笑を浮かべ、静かに答えた。「私の妻として、共に世界を支配するのだ。お前の力を最大限に引き出すために、私が必要なのだ。」
アッシリアはその言葉に動揺することなく、むしろ彼の言葉を分析するように考え込んだ。黄泉の真意がどこにあるのか、彼女はその裏を読み取ろうとしていた。
「私が…あなたの妻に?」アッシリアは疑念を抱きながら、その言葉を反芻した。
「そうだ。お前の力を完全に解放するためには、私との同盟が不可欠だ。お前が選ぶべき道は、私の元へ来ることだ。」黄泉の声には確信が込められており、彼は自分の言葉に迷いがない様子だった。
「…考える時間を頂けますか?」アッシリアは毅然と答えた。黄泉の提案がいかに魅力的であろうと、彼女にはすぐに決断できるものではなかった。
黄泉は満足そうに微笑み、「返事は急がない。お前が決心した時、私は迎えに来るだろう。」そう言い残し、静かに部屋を後にした。
アッシリアは彼の背中が消えるまでじっと見つめていた。彼女の心の中で、黄泉の言葉が何度も反芻されていたが、その真意は未だ掴めないままだった。
黄泉の訪問は、彼女の運命を大きく動かそうとしている。だが、その背後に隠された真実は、まだ明かされることはなかった。
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