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第四章: 「新しい未来へ」
しおりを挟む舞踏会からしばらくして、リディアの生活はますます充実したものになっていた。家業での活躍が評価され、父からの信頼も厚くなり、彼女は貴族社会でもひときわ目立つ存在となっていた。しかし、リディアはただ成功を追い求めるだけではなかった。過去の経験を経て、彼女は自分の目指すべき道が明確になりつつあった。
ある日、リディアは父親に呼ばれた。彼は重々しい顔をして、リディアに重要な話があると言った。
「リディア、お前に伝えたいことがある。実は、王室から正式にお前に再び婚約の話が持ち込まれている。」
リディアは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、父に向き直った。「誰との婚約でしょうか?アレク様ではないことを願います。」
父は苦笑しながら首を横に振った。「いや、違う。今回は第二王子のハインリヒ殿下だ。彼が自らお前を希望している。」
リディアはその名前に少し心を動かされた。ハインリヒ殿下はアレクとは対照的な人物で、冷静で知的な評判を持つ王子だった。社交界でも彼の品格と能力は高く評価されており、彼の婚約者候補として名前が挙がることは少なくなかった。しかし、彼がリディアに興味を持つとは思ってもみなかった。
「ハインリヒ殿下が私に?」
「そうだ。彼はお前のことをずっと評価していたようだ。お前が家業で成功を収め、冷静な判断力を持っていることを見込んでのことだ。」
リディアはしばらく考え込んだ。彼女にとって、この提案は過去の婚約とはまったく異なるものだった。アレクとの婚約は家の名誉や社会的な義務から生まれたものであり、愛情とは無縁だった。しかし、ハインリヒ殿下はリディア自身の力や人格を評価しての提案であり、それが彼女にとって新しい未来の可能性を示していた。
「お父様、少しお時間をいただけますか。この件について、じっくり考えたいと思います。」
父は静かに頷いた。「もちろんだ、リディア。お前の決断を尊重する。」
その夜、リディアは自室で一人考え込んでいた。婚約破棄からの数ヶ月、自分自身を見つめ直し、未来を切り開いてきた。その結果、自分が望む人生とは何かを理解し始めていた。彼女は自由と自立を得たが、それは孤独な道でもあった。ハインリヒ殿下との婚約が、新しい未来を開く鍵となるのかもしれない。彼との結婚は、ただの形式的なものではなく、対等なパートナーシップを築ける可能性があった。
翌朝、リディアは意を決して父の部屋を訪れた。
「お父様、私の答えが出ました。ハインリヒ殿下との婚約をお受けいたします。」
父は満足そうに頷き、「よく決断したな」と言った。リディアは微笑みながら続けた。
「ただし、私は殿下と対等な立場でお話をさせていただきたいと思います。私の人生は、誰かの影に隠れるものではなく、自分自身の意志で切り開いていくつもりです。」
「もちろんだ、リディア。お前はその権利を持っている。」
数日後、ハインリヒ殿下がベイルグラフ家を訪れた。彼はリディアに対して深い敬意を示し、丁寧な言葉で婚約の意向を伝えた。
「リディア嬢、あなたのご決断を聞けて光栄です。私はあなたと共に未来を築き上げたいと思っています。私たちは対等なパートナーとして、互いに支え合うことができるはずです。」
リディアはその言葉に心から感謝し、微笑みながら答えた。「ありがとうございます、ハインリヒ殿下。私もあなたと共に、新しい未来を切り開くことを楽しみにしています。」
こうして、リディアは新たな婚約者としてハインリヒ殿下と共に未来を歩む決意を固めた。彼女はもはや過去に囚われることなく、自分の人生を自らの意志で選択し、進んでいく覚悟を持っていた。婚約破棄から始まった彼女の旅路は、失敗や挫折を乗り越え、ついに新しい光に包まれた未来へと続いていた。
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その後、ハインリヒ殿下との婚約は王宮内外で大いに話題となり、リディアは再び王室に戻ることになった。しかし、彼女はもはやかつての弱々しい婚約者ではなかった。王室の一員としての責任を果たすための知識と経験を積み重ね、リディアは王国の未来を担う存在となっていった。
エリーゼとアレクの関係は、時を経てさらに悪化していった。エリーゼは王妃としての責任を果たすことができず、ついにはアレクに見限られる形で宮廷を去ることになった。アレクもまた、その選択の結果として王位継承権を放棄することを余儀なくされ、彼の未来は不透明なものとなっていった。
リディアはそんな過去を振り返ることなく、自らの力で新しい道を歩み続ける。ハインリヒ殿下との婚約は、ただの政治的な結びつきではなく、互いに信頼し合い支え合う関係であり、リディアは初めて本当の幸せを感じていた。
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