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第4章:記憶の失われた姉
しおりを挟むアクエリアスは、姉アリエールが生きていることに安堵する一方で、彼女が記憶を失っているという厳しい現実に直面していた。これまでの旅は姉の無事を確認することを最優先にしていたが、今や次なる問題――記憶の回復――に取り組む必要があった。
アリエールはベッドに横たわり、静かに眠っていた。彼女の表情は穏やかだったが、どこか虚ろな瞳の奥には、彼女がかつての自分を思い出せていない苦悩がうかがえた。アクエリアスはその姿を見つめ、胸の奥が痛むのを感じた。
「姉さま……」 アクエリアスはそっと手を握りしめ、低くささやいた。しかし、アリエールは何の反応も示さない。
ルーファがアクエリアスに近づき、静かに問いかけた。「彼女の記憶をどうやって取り戻すつもりなんだ? ただ安静にしていれば、思い出すものなのか?」
アクエリアスは一瞬考え込んだ。人間の記憶喪失がどのようなメカニズムで起こり、どうやって回復するのか、彼女はよく知らなかった。しかし、人魚の世界には、人間には理解できない力がある。もしかすると、アリエールの記憶喪失も単なる事故や怪我によるものではなく、何かもっと深い原因が隠されているのかもしれない――アクエリアスはそう感じていた。
「ただの記憶喪失ではないかもしれないわ。何か……もっと別の力が働いているような気がするの」
アクエリアスはそう答え、ルーファを見つめた。「嵐の日に、姉さまに何が起こったのか、その詳細がわかれば、何か手がかりが見つかるかもしれない。村の周りで何か変わったことはなかった?」
ルーファは眉をひそめ、嵐の日を思い出すように目を細めた。「嵐の日は本当にひどかったよ。風が強く、波も高かった。普通の漁師は皆、船を出せるような状況じゃなかったけど……そうだ、あの時、海岸に何か漂流物が打ち上げられていた気がする。船の一部のようなものだったけど、あまり気にしていなかった。彼女を見つけたのが優先だったからね」
アクエリアスはその言葉に反応し、目を輝かせた。「それが重要な手がかりかもしれないわ。漂流物の場所を調べれば、何か姉さまの記憶を取り戻すための手掛かりが見つかるかもしれない」
ルーファは頷き、立ち上がった。「じゃあ、明日にでもその場所に行ってみよう。今夜はゆっくり休んで、明日から本格的に調査を始めるんだ」
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翌朝、アクエリアスとルーファは、嵐の日に漂流物が打ち上げられた海岸へ向かった。朝日が昇り、穏やかな波が打ち寄せる中で、二人は手分けして調査を開始した。砂浜を歩き回りながら、アクエリアスはその場所に漂う不穏な雰囲気を感じ取った。静かな砂浜に何か異質なものがある――彼女はそう感じた。
しばらく歩き続けた後、ルーファが声を上げた。「ここだ、これを見てくれ!」
アクエリアスが駆け寄ると、そこには打ち上げられた残骸の一部があった。それは小さな船の破片のようだったが、何か不自然な力を感じさせる奇妙な印が刻まれていた。アクエリアスはその印をじっと見つめた。
「これは……ただの船じゃない。何かの魔法が関わっているわ」
アクエリアスはその印を慎重に触れてみた。瞬間、彼女の中に奇妙な感覚が走り、まるで誰かが彼女の記憶に干渉してくるような錯覚に陥った。アクエリアスはその力を感じ取りながら、嵐の日にアリエールが何らかの魔法的な力に巻き込まれていた可能性が高いと考えた。
「姉さまはただ事故に巻き込まれたわけじゃない……彼女の記憶を封じ込めたのは、この印が関係しているのかもしれない」
アクエリアスはさらに詳しい情報を得るために、この印が何を意味するのかを調べる必要があると感じた。しかし、彼女自身の知識ではそれを解明するのは難しかった。そこで、村に住む老人で、古代の魔法に詳しいと言われる賢者オルデンのもとを訪れることを決めた。
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その日の夕方、アクエリアスとルーファは村外れにあるオルデンの家を訪れた。オルデンは長年、この村で静かな生活を送っているが、かつては王国の学者として古代の知識を研究していたと噂されていた。
「どうしました? わざわざ私のような老人を訪ねてくるとは」
オルデンは彼らを迎え入れ、話を聞いた。アクエリアスはアリエールの記憶喪失の状況と、海岸で見つけた奇妙な印について説明した。オルデンはしばらく考え込み、古びた書物を取り出した。
「その印……それは『記憶封じの魔法』と呼ばれる古代の禁忌の術だ。誰かの記憶を封じ込め、その者が自分自身を思い出せなくする力を持っている」
アクエリアスはその言葉に驚きつつも、これがアリエールの記憶喪失の原因であることを確信した。「では、その記憶を取り戻す方法はあるのですか?」
オルデンは頷きながら、答えた。「封じられた記憶は、『記憶の結晶』という特別なアイテムに封じ込められていることが多い。その結晶を見つけ出し、解放することで記憶を取り戻すことができるだろう」
アクエリアスはその「記憶の結晶」を探し出すことを決意し、再び海へ潜る準備を始めた。姉を救うための新たな戦いが始まろうとしていた。
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