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プロローグ:アリエール姫の失踪
しおりを挟む海底王国アクアポリスは、青い海の深淵に隠された壮麗な都市であった。緑と青の珊瑚に彩られた街並み、光り輝く海藻が揺れる中、人魚たちは平和に暮らしていた。その中心には、王族の住まう豪奢な宮殿がそびえ立ち、そこでは海の王が王妃とともに国を統治していた。長女であるアリエール姫は、次期王位継承者として国民からも愛されており、その聡明さと美しさは誰もが認めるところだった。
しかし、その平穏が破られる時が訪れた。
ある嵐の日、アリエール姫は行方不明となった。嵐は突然起こり、海を荒れ狂わせ、大きな波が海中を攪拌した。アリエールはその日、浅瀬に泳ぎに行くと言っていたが、帰らなかった。海流が乱れ、波が高くうねる中、彼女の姿は消え去ったのである。
最初は誰もがただの事故だと考えた。アリエールは力強い泳ぎ手であり、普通の嵐なら彼女を止めることはできないはずだった。しかし、日が経つにつれて、彼女の行方はますます不明瞭となり、海底王国全体に不安が広がり始めた。アリエール姫が戻らないという事実は、国民だけでなく、王族にも大きな衝撃を与えた。
「姫が消えた……?」
王宮の玉座の間では、王と王妃が深刻な表情を浮かべていた。アリエールは王国の次期継承者であり、その存在は国の象徴であった。彼女がいなくなったことで、宮殿内は緊張感に包まれた。王と王妃は家臣たちを集め、アリエールの行方を追うために王国中に捜索隊を派遣したが、どれほど捜しても彼女の姿は見つからなかった。
そして、次第に一つの噂が広がり始めた。「人間が姫をさらったのではないか」と。
人魚たちの間では古くから、人間が人魚の肉を不老不死の妙薬として狙っているという伝説があった。人間は、海の中で暮らす彼らを神秘の存在として崇拝する一方で、その身体には計り知れない価値があると信じていたのだ。特に、王族の血を引く人魚はその力が強大であり、アリエール姫の美しさと能力は人間たちにとって格好の標的になるに違いないという考えが強まっていった。
「人間どもが姫をさらったのだ!」
「戦争だ! 彼らに我々の力を見せつけるべきだ!」
強硬派の家臣たちは、戦争を訴え始めた。彼らは人間への不信感を募らせ、王国の名誉を守るためには武力行使が必要だと主張した。アクアポリスでは、戦争の準備が急速に進み始めた。もしアリエール姫が戻らなければ、王国は人間に対して全面的な攻撃を開始するという決定が下されようとしていた。
だが、アクアポリスの王家にはもう一人の姫がいた。次女のアクエリアス姫である。アクエリアスは姉アリエールを深く敬愛し、その賢さと優しさを常に見習ってきた。姉の失踪は彼女にとっても大きな痛手であったが、彼女は冷静さを失わなかった。何かが違う――アリエールがただの人間に捕らえられるはずがないと、アクエリアスは強く感じていた。
「姉さまがそんな簡単に消えるなんて……何かが間違っている。もっと他の理由があるはずよ」
アクエリアスは、宮殿の一室で窓の外を見つめながら、そう呟いた。彼女の心は、姉を探し出すために何か行動を起こさなければならないという使命感に駆られていた。戦争を望む声が日に日に高まる中、彼女だけが冷静に状況を見つめ、別の解決策を模索していた。
「戦争で何が解決するの? もし姉さまが人間に捕まっていたとしても、力ずくで取り戻すことはできない。むしろ、王国も人間界も大きな代償を払うことになる……」
アクエリアスは、姉が無事であることを信じ、そして何か大きな誤解が発生しているのではないかと疑っていた。もし人間たちが姉を誘拐したのであれば、その理由を突き止めなければならない。しかし、ただの戦争では本当の解決にはならない。アクエリアスは、王国を守り、姉を救うために自ら行動を起こすことを決意する。
「私が行くしかない……私が姉を探し出して、真実を明らかにする」
アクエリアスは、人間界に潜入し、姉の行方を突き止めることを決意した。王宮の誰もが彼女の計画に反対するだろうが、彼女は一歩も引かない覚悟だった。王国を守るためには、まず姉を無事に見つけ、戦争を回避しなければならない。アクエリアスは魔法を使い、人間界で目立たないように姿を変える準備を始めた。
人間たちの世界に潜入するため、アクエリアスは自らの尾を封じ込め、人間の姿に変わる術を施した。美しい長い尾が消え、細い脚が現れた。彼女の髪は海藻のように滑らかで、瞳は深い海の青を宿していたが、これで人間に混じっても不自然ではない。彼女は自らの姿を確認し、深く息をついて覚悟を決めた。
「姉さま、必ず見つけ出します。そして、この戦争を止めてみせる」
アクエリアスは、静かに海の底から地上へと向かい始めた。彼女の心には姉を救うという強い使命感と、王国を戦争の危機から守るという覚悟が燃えていた。海底から浮かび上がり、彼女の新たな冒険が始まる。
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こうして、アクエリアスは姉を探し、戦争を防ぐために人間界へと旅立つことになる。彼女の前には様々な困難と謎が待ち受けており、その先に何が待っているかはまだ誰にもわからなかった。
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