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第1章: 封印された記憶の覚醒
しおりを挟むペルソナは、庭園に佇んでいた。レオルドが去った後の静寂の中で、彼女の心の奥底に封印されていた何かが、静かに、しかし確実に目覚めようとしていた。風が止み、木々のざわめきもなくなり、世界がまるで彼女の内なる変化を見守るかのように静まり返った。
彼女は目を閉じ、深く息を吸った。まるで長い夢から覚めるように、体全体に違和感を覚える。それは、かつて神として過ごしていた頃の記憶が、まざまざとよみがえってくる瞬間だった。
「そう……私は神だった……」
ペルソナは、人間の体に囚われ、長い間忘れていた自分の本来の姿を思い出しつつあった。彼女は人間として生まれ変わり、試練の一環として感情を持つ生を与えられた。その中で、自らの審判を通じて世界の未来を見定める役割を担っていたのだ。だが、レオルドという愚か者の行動が、すべてを終わらせた。
彼は人類の代表であり、ペルソナの選択によって、人類に救いの機会が与えられていた。だが、その機会はもう失われた。レオルドがペルソナに婚約破棄を告げた瞬間、彼は神の目の前でその役割を放棄し、人間の未来を破壊する決定を下したのだ。
「これでいいの……もう救う価値などないわ……」
ペルソナは目を開け、かつて彼女が神として行っていた審判の記憶を、完全に取り戻していた。彼女の中で、冷たい怒りが静かに燃え上がっていた。人間たちが無知と欲望にまみれて、彼女の愛情すら無視して生きてきたことを思い出すと、その怒りはさらに増した。
「人類を滅ぼす時が来たわ……」
その瞬間、ペルソナの決意は固まった。彼女は神としての力を完全に取り戻し、人類に対して最後の審判を下すことを決めた。目の前の世界が、一瞬にして変わるのを感じた。
天変地異が始まった。
空は暗雲に覆われ、青かった空は重い鉛色に変わり果てた。雷鳴が遠くから響き始め、まるで世界そのものが彼女の決意に応えるかのように震え始めた。冷たい風が突如として吹き荒れ、ペルソナの髪と衣を激しく揺らした。地面がわずかに揺れ始め、大地が不気味な音を立ててひび割れていく。
「これが……私の意思に従う世界……」
ペルソナは、ただ立ち尽くしながら、世界が彼女の力に反応する様子を無表情で見つめていた。彼女の意識が拡張され、世界全体の痛みや苦しみ、そして恐怖が感じ取れるようになった。
遠く離れた国々では、突如として起こった異常気象に、人々が恐怖に震え始めていた。穏やかだった海は荒れ狂い、巨大な波が港町を襲い始めた。風が止まるはずの砂漠には、嵐が舞い、かつてなかった大雨が砂を泥へと変えていった。雪原は熱波に襲われ、氷が溶け、洪水が流れ出した。都市の街灯が一斉に消え、黒い影が辺りを包み、街は一瞬にして混乱に陥った。
ペルソナの意志はすでに世界全体に届いていた。
彼女の決意は止められるものではなく、世界のバランスは崩壊へと向かっていた。かつて神として持っていた圧倒的な力を、彼女はすべて取り戻し、人類滅亡へのカウントダウンが始まったのだ。
「どれだけの命が、この世に必要なのかしら……」
ペルソナは、まるで計算でもするかのように冷静に考えていた。人々の叫び声や、恐怖に満ちた祈りが彼女の意識に届くが、それはもはや彼女にとっては何の意味もなかった。
神としての彼女は、ただ人類の無価値さを感じ取っているだけだった。彼らが自らの欲望に溺れ、他者を傷つけ、自然を汚し、そしてペルソナすら裏切った。そんな存在に未来を与える理由は、もはやどこにもなかった。
そして、天は再び裂けた。
雷鳴が大地を揺るがし、巨大な稲妻が地上に落ちた。瞬く間に炎が広がり、自然の猛威は制御不能な状態に突入していた。ペルソナの目に映るのは、次々と崩れていく街の姿、そして無力な人々の悲鳴だった。
「あなたたちが選んだ運命よ……レオルドが、あなたたちの代表として選んだ道。」
彼女は人々の恐怖に耳を貸すことなく、その場に立ち続けた。ペルソナにとって、この世界はもはや終焉に向かうための舞台に過ぎなかった。自らが見届けるべき最後の瞬間が近づいていることを、冷徹に理解していた。
天はさらに暗く、黒い渦が空を覆い始めた。雷が空を裂き、地響きが鳴り響く。世界はペルソナの意志に応え、彼女の怒りを具現化していく。
ペルソナは、かつての自分を一瞬だけ思い返した。人間としての心を持ち、レオルドに淡い期待を抱いていた自分。しかし、その期待は裏切られ、彼女は自らが神としての存在であることを思い出した。神に愛情は不要だ――ペルソナは、今それを完全に理解していた。
人類の審判はもう始まっていた。
そして、ペルソナは世界が破滅に向かうのをただ黙って見守り続けた。彼女の中にもう迷いはなく、天変地異が進行する中で、人類に与えられた最後のチャンスは、完全に消え去ろうとしていた。
「これが、私の審判よ。」
彼女の声は静かだったが、その力は世界全体に響き渡り、もはや止める術はなかった。
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