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第3章:愛と復讐の狭間

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夜の静けさが、王宮の中庭を包んでいた。満月が空に浮かび、銀色の光が庭を照らし出す。その美しさは、まるで夢の中の世界のようだった。しかし、レナの心はそれとは対照的に、嵐のように揺れていた。

「私が…王女だったなんて…」

レナは、自室のバルコニーから中庭を見下ろしながら、まだ信じられない思いでいた。第一王女レナリアとして生まれながらも、恐れられて捨てられた自分。村で孤独に育った日々が、まるで別の人生のように感じられる。

「でも、どうして…私を捨てたの?」

その問いは、彼女の心の中で何度も反響した。イザベル王妃から聞かされた「予言」の話。自分の力が王国を破滅に導くという恐ろしい予言。だが、レナは自分の力を完全に理解しているわけではなかった。

「本当に私の力が…そんなに危険なの?」

レナは自分に問いかけるが、答えは見つからない。彼女はただ、自分が持つ不思議な力が、動物や植物と心を通わせるものだと思っていた。それが、どうして王国を破滅に導くというのだろうか。

その時、静かな足音が背後から聞こえてきた。レナが振り返ると、そこにはハインリヒ王子が立っていた。彼の表情は、月光に照らされて優しさと決意が入り混じったものだった。

「レナ、こんな時間に一人で何を考えているんだ?」

ハインリヒはゆっくりと近づき、レナの隣に立った。彼の声には心配と優しさが込められていたが、同時に何かを探るような鋭さもあった。

「ハインリヒ様…私はただ、自分が何者なのかを考えていただけです。」

レナはそう言って目を伏せた。彼女の中で、ハインリヒに対する複雑な感情が渦巻いていた。彼は自分の弟であり、また王国の未来を背負う王子だ。だが、自分の存在が彼にどのような影響を与えるのか、それを考えると胸が痛んだ。

「君は特別な存在だ、レナ。だからこそ、君がここにいるんだ。王宮で何が起ころうと、私は君を守ると誓う。」

ハインリヒの言葉は真摯で、レナの心に深く響いた。しかし、彼女の中で芽生え始めた復讐心は、彼の優しさを素直に受け入れることを妨げた。

「でも…もし私が王国を破滅に導く存在だとしたら?」

レナは思わず口にしてしまった。彼女の心の奥底には、イザベル王妃に対する憎しみと、それに伴う復讐の思いが渦巻いていた。しかし、ハインリヒに対する愛情も確かに存在していたのだ。

ハインリヒは少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な表情に変わった。「そんなことは絶対にない。君が王国に危害を加える存在だとは思えない。君の力が何であれ、それは君の意志次第だ。」

「でも…もし、私がその力を使って復讐を果たしたいと思ったら?」

レナは自分でも驚くほど冷静に言った。彼女はハインリヒに対して、どこまで本当の気持ちを打ち明けるべきか迷っていた。しかし、その迷いの中で、彼女は自分の中の暗い感情が日に日に増していくのを感じていた。

「復讐…?」

ハインリヒはその言葉に深い戸惑いを感じたようだったが、すぐにレナの手を優しく握った。「レナ、君がどんな思いを抱えているのかは分からないが、私は君を信じている。君の心の中には、愛があるはずだ。それを忘れないでほしい。」

彼の言葉は温かく、レナの心の中で何かが揺らぐのを感じた。しかし、それと同時に、彼女の中の復讐心が消えるわけではなかった。むしろ、彼の優しさが逆に彼女を苦しめた。

「私は…どうすればいいの…」

レナは心の中で叫びたくなった。しかし、その答えを見つけることはできなかった。ハインリヒへの愛と、イザベル王妃への憎しみ。その狭間で、彼女の心は引き裂かれそうになっていた。

「レナ、君がどんな決断をするにせよ、私は君の味方だ。だから、一人で抱え込まないでくれ。」

ハインリヒはそう言ってレナを抱きしめた。彼女はその胸の中で、涙がこぼれるのを感じた。彼の温もりが、彼女の心の闇を少しだけ和らげた。

しかし、レナは知っていた。このままではいけない。自分の中の復讐心が消えない限り、彼と共に未来を築くことはできないのだと。彼女は自分自身と向き合い、真の自分を見つけなければならないと心に誓った。

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この第3章では、レナが自分の中にある愛と復讐の狭間で葛藤する様子が描かれています。ハインリヒ王子との関係が深まる一方で、彼女の心の中に芽生えた復讐心が、物語の進行にどう影響を与えるかが次の章で明らかになっていきます。
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