上 下
4 / 6

第3章:愛と復讐の狭間

しおりを挟む


夜の静けさが、王宮の中庭を包んでいた。満月が空に浮かび、銀色の光が庭を照らし出す。その美しさは、まるで夢の中の世界のようだった。しかし、レナの心はそれとは対照的に、嵐のように揺れていた。

「私が…王女だったなんて…」

レナは、自室のバルコニーから中庭を見下ろしながら、まだ信じられない思いでいた。第一王女レナリアとして生まれながらも、恐れられて捨てられた自分。村で孤独に育った日々が、まるで別の人生のように感じられる。

「でも、どうして…私を捨てたの?」

その問いは、彼女の心の中で何度も反響した。イザベル王妃から聞かされた「予言」の話。自分の力が王国を破滅に導くという恐ろしい予言。だが、レナは自分の力を完全に理解しているわけではなかった。

「本当に私の力が…そんなに危険なの?」

レナは自分に問いかけるが、答えは見つからない。彼女はただ、自分が持つ不思議な力が、動物や植物と心を通わせるものだと思っていた。それが、どうして王国を破滅に導くというのだろうか。

その時、静かな足音が背後から聞こえてきた。レナが振り返ると、そこにはハインリヒ王子が立っていた。彼の表情は、月光に照らされて優しさと決意が入り混じったものだった。

「レナ、こんな時間に一人で何を考えているんだ?」

ハインリヒはゆっくりと近づき、レナの隣に立った。彼の声には心配と優しさが込められていたが、同時に何かを探るような鋭さもあった。

「ハインリヒ様…私はただ、自分が何者なのかを考えていただけです。」

レナはそう言って目を伏せた。彼女の中で、ハインリヒに対する複雑な感情が渦巻いていた。彼は自分の弟であり、また王国の未来を背負う王子だ。だが、自分の存在が彼にどのような影響を与えるのか、それを考えると胸が痛んだ。

「君は特別な存在だ、レナ。だからこそ、君がここにいるんだ。王宮で何が起ころうと、私は君を守ると誓う。」

ハインリヒの言葉は真摯で、レナの心に深く響いた。しかし、彼女の中で芽生え始めた復讐心は、彼の優しさを素直に受け入れることを妨げた。

「でも…もし私が王国を破滅に導く存在だとしたら?」

レナは思わず口にしてしまった。彼女の心の奥底には、イザベル王妃に対する憎しみと、それに伴う復讐の思いが渦巻いていた。しかし、ハインリヒに対する愛情も確かに存在していたのだ。

ハインリヒは少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な表情に変わった。「そんなことは絶対にない。君が王国に危害を加える存在だとは思えない。君の力が何であれ、それは君の意志次第だ。」

「でも…もし、私がその力を使って復讐を果たしたいと思ったら?」

レナは自分でも驚くほど冷静に言った。彼女はハインリヒに対して、どこまで本当の気持ちを打ち明けるべきか迷っていた。しかし、その迷いの中で、彼女は自分の中の暗い感情が日に日に増していくのを感じていた。

「復讐…?」

ハインリヒはその言葉に深い戸惑いを感じたようだったが、すぐにレナの手を優しく握った。「レナ、君がどんな思いを抱えているのかは分からないが、私は君を信じている。君の心の中には、愛があるはずだ。それを忘れないでほしい。」

彼の言葉は温かく、レナの心の中で何かが揺らぐのを感じた。しかし、それと同時に、彼女の中の復讐心が消えるわけではなかった。むしろ、彼の優しさが逆に彼女を苦しめた。

「私は…どうすればいいの…」

レナは心の中で叫びたくなった。しかし、その答えを見つけることはできなかった。ハインリヒへの愛と、イザベル王妃への憎しみ。その狭間で、彼女の心は引き裂かれそうになっていた。

「レナ、君がどんな決断をするにせよ、私は君の味方だ。だから、一人で抱え込まないでくれ。」

ハインリヒはそう言ってレナを抱きしめた。彼女はその胸の中で、涙がこぼれるのを感じた。彼の温もりが、彼女の心の闇を少しだけ和らげた。

しかし、レナは知っていた。このままではいけない。自分の中の復讐心が消えない限り、彼と共に未来を築くことはできないのだと。彼女は自分自身と向き合い、真の自分を見つけなければならないと心に誓った。

---

この第3章では、レナが自分の中にある愛と復讐の狭間で葛藤する様子が描かれています。ハインリヒ王子との関係が深まる一方で、彼女の心の中に芽生えた復讐心が、物語の進行にどう影響を与えるかが次の章で明らかになっていきます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください

未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。 「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」 婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。 全4話で短いお話です!

処理中です...