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第二章:新天地での才能開花

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 エミーナ・エスティマエは、追放されてから数週間後、小国レーヴェルのとある村に身を落ち着けていた。追放されて失意の中にあったエミーナだったが、この村での生活は彼女にとって驚くほど安らぎと温もりをもたらしてくれた。村の人々は彼女を心から歓迎し、彼女が聖女であることを知ると、さらに深い敬意を払って接してくれた。

 「エミーナ様、どうかこの村を救ってください!」

 ある日、村の長老が彼女にそう懇願してきた。村は慢性的な疫病に苦しんでおり、子どもから大人まで皆が病に倒れている状況だった。エミーナは驚きつつも、これまでの自分の役割を思い出し、村の人々のために再び力を尽くすことを決意する。

 「もちろんです、できる限りのことをします」

 そう言って、エミーナは村の中央広場に立ち、静かに祈りを捧げ始めた。彼女の手からは温かい光が放たれ、それはまるで村全体を包み込むように広がっていく。光が消えると、不思議なことに村人たちの病は次々と癒されていった。

 「おお…!エミーナ様、本当にありがとうございます!」

 村人たちは涙ながらに彼女に感謝し、喜びを分かち合った。その笑顔は、エミーナがかつて王宮で見たものとはまるで違う、純粋で温かいものだった。彼女の心は、その瞬間、初めて真の「聖女」としての役割を果たせたような充実感に包まれた。

 「ここでなら、私は本当に人々のためになれる…」

 エミーナは静かにそう呟き、改めてこの村での生活を続ける決意を固めた。そして、彼女がここにいる限り、村の人々もまた彼女を守り支えようと心に誓った。


---

 それから数ヶ月が過ぎ、エミーナはこの小国レーヴェルの中でも評判の聖女として広く知られるようになった。彼女の力は村々に癒しをもたらし、どこへ行っても人々からの感謝と敬意を受けた。その名声は次第に小国の王宮にも届き、エミーナは王宮から正式に招待を受けることになる。

 小国レーヴェルの王は、エミーナの力に感銘を受け、彼女を宮廷付きの聖女として迎え入れたいと申し出た。エミーナはその厚意に感謝しつつも、かつての王国での経験から、宮廷生活に対する不信感を拭いきれなかった。しかし、レーヴェルの王と彼の家臣たちは、誠実な態度で彼女の意志を尊重し、無理強いすることなく彼女を支えてくれた。

 そんなある日、エミーナは王宮で一人の若き王子と出会う。その名はレオンハルト。彼は小国の王子でありながら、気取らず人懐っこい性格で、エミーナにも親しみやすく接してくれた。彼との会話は自然と弾み、エミーナは次第に彼に心を開くようになる。

 「エミーナ様、あなたはとても素晴らしいお方ですね。こんなに人々を思いやる気持ちを持った方が、どうして追放などされる運命にあったのか…」

 レオンハルトはその言葉に疑問を込め、彼女の過去に触れることをためらいながらも、自分の心に浮かんだ率直な思いを述べた。エミーナは一瞬戸惑ったが、彼の純粋な眼差しを見て、心を開くことにした。

 「…王宮では、私の力が疎ましかったのでしょう。彼らは私を利用し、最後には切り捨てました。ですが、ここで新しい道を見つけたことには感謝しています」

 エミーナの言葉には、今までの悲しみと裏切りを乗り越えた強さが滲んでいた。レオンハルトはその強さに心を打たれ、彼女に対して特別な感情を抱くようになる。そして、彼女を支えたいという思いから、彼はエミーナに対し積極的に協力を申し出るのだった。

 「エミーナ様、どうかこれからもレーヴェルを導いてください。そして、私もお力になりたいと思っています」

 エミーナはその申し出に感謝し、彼と共にこの小国をより良い場所にするために尽力する決意を新たにした。彼女が追放された過去は決して消えないが、ここでの新たな生活が彼女に再び希望と幸せをもたらし始めていたのだ。


---

 しかし、彼女の名声が広がる一方で、かつて彼女を追放した王国にもその噂が届き始めていた。レーヴェルでの成功と成長は、エミーナを追い落とした貴族たちにとって、都合の悪い真実となりつつあった。彼らはエミーナが遠くで再び力を得ていることに焦りと恐怖を感じ、彼女の存在が自分たちの地位を脅かす可能性があると考え始めたのである。

 エミーナはそれに気づくことなく、彼女を心から必要としてくれる人々のために力を尽くしていた。彼女の心には、過去の傷跡を超えた新しい目的が芽生えていた。それは、ただ人々を癒し、支え合うこと。それだけが彼女にとっての「聖女」としての役割であり、それ以上でも以下でもなかった。

 
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