白い花嫁の嘲笑

第三章：裏切りの報い

ヴィオスの計画が静かに進行する中、侯爵家の内部では次第に亀裂が広がり始めていた。レイモンドが愛人クラリッサを優遇し、彼女に貴族の妻に相応しい装飾品や生活費を惜しげもなく与えているという噂が、徐々に社交界に広まり始めたのだ。

「侯爵夫人であるヴィオス様を差し置いて……あの愛人を優遇するなんて、聞いたことがないわ」
ある舞踏会で、小声で囁かれる女性たちの声がヴィオスの耳に届いた。しかし、彼女は表情一つ変えずに微笑みを浮かべ、杯を手に取りながら談笑を続けた。まるで何も気にしていないかのような振る舞いは、彼女が周囲の人々から称賛を受ける一因でもあった。

「愚かな夫の振る舞いが私の価値を高めてくれているわね。」
心の中で皮肉を込めてそう呟くと、ヴィオスは会話相手の公爵夫人に軽やかな声で返答した。
「レイモンド様の行動については、私は何も気にしておりません。夫婦とはそれぞれの形がございますから。」
その余裕のある態度に、公爵夫人は驚きと感心を隠せない様子だった。


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一方で、レイモンドは自らの地位が揺らぎつつあることに気付いていなかった。クラリッサに夢中になり、自身の立場や責任を顧みない生活を続けていた彼は、周囲の非難や冷たい視線に気付かないふりをしていた。

「いずれヴィオスが我慢できなくなり、離婚を切り出してくれるだろう。そうなればクラリッサと正式に結婚できる。」
そんな甘い考えを抱いていたレイモンドに対し、ヴィオスは何も言わずに耐えているように見えた。しかし、その裏で彼女は着実に「証拠」を集めていた。クラリッサがレイモンドから受け取った金品、二人の密会の場、そしてその浪費によって侯爵家の財産が減少している記録――それらを手に入れるため、彼女は弁護士や信頼できる協力者と密かに連携していた。


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ある日、侯爵家に招かれた上級貴族たちとの晩餐会が催された。ヴィオスはいつものように優雅に振る舞い、賓客たちとの会話を楽しんでいた。一方、レイモンドはクラリッサとともに現れ、堂々と彼女を隣に座らせた。周囲の目が冷たく光る中、彼だけがその空気を読めずに笑みを浮かべていた。

「さすがは侯爵家のご主人様ね。どんな非常識な振る舞いも、自信満々でこなしていらっしゃるわ。」
ヴィオスは内心そう皮肉りながらも、冷静に次の一手を考えていた。そして、その瞬間が訪れた。


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晩餐会が終わりに近づいた頃、ヴィオスは立ち上がり、穏やかな声で招待客たちに語りかけた。
「本日はお忙しい中、エリオス家のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。」
彼女の声は落ち着いており、誰もがその気品に引き込まれた。だが、その次の言葉は予想を裏切るものだった。
「実は、皆様にお伝えしたい重大なことがございます。」

会場がざわめく中、ヴィオスはゆっくりと視線をレイモンドに向けた。彼は突然の発言に困惑した表情を浮かべていたが、ヴィオスの視線に動揺の色を見せた。

「侯爵家の財産が不正に流用されているという証拠がございます。」
その言葉に会場中が凍りついた。ヴィオスは冷静に続けた。
「詳細については、後日改めて公表いたしますが、現在調査が進行中です。正しい結果を導き出すためにも、皆様にはご協力をお願い申し上げます。」

その場にいた誰もが彼女の冷静な語り口と毅然とした態度に驚き、また敬意を抱いた。だが、一番驚いたのはレイモンド自身だった。彼は顔を赤くしながら立ち上がり、ヴィオスに詰め寄ろうとしたが、周囲の貴族たちの冷ややかな視線に気付き、足を止めた。


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その後、ヴィオスが公表した証拠は決定的なものだった。クラリッサがレイモンドから受け取った金品のリストや、侯爵家の財政に関する詳細な記録が公開されると、レイモンドへの批判が一気に高まった。クラリッサもまたスキャンダルの渦中に巻き込まれ、彼女の家族までもがその影響を受けることになった。

「私はただ真実を伝えただけ。彼らの行動がすべてを決めたのよ。」
ヴィオスはそう冷静に語り、自らの行動に一切の後悔を見せなかった。


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一方、侯爵家の当主である義父は、この事態に激怒した。
「エリオス家の名誉を傷つけるとは……愚かな息子よ！」
彼はレイモンドを廃嫡し、財産の管理権をヴィオスに託すことを決定した。その結果、レイモンドは侯爵家の一員としての地位を失い、クラリッサとともに没落していくこととなった。


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ヴィオスはついに自らの計画を成し遂げた。そして、その余裕ある笑みの中に、これまで耐えてきた日々の痛みが溶け込んでいた。

「これで終わり……いいえ、これからが私の新たな始まりよ。」
白いドレスをまとった彼女の姿は、冷たくも気高い勝者のようだった。