白い花嫁の嘲笑

第二章：冷たい夫と華やかな社交界

ヴィオスの新婚生活は、まるで冷たい氷の上を歩くようなものだった。名目上は夫婦となった彼女とレイモンドだが、同じ屋根の下に住んでいるというだけで、二人の間には深い溝があった。朝食を共にすることもなければ、夕食の席で会話が弾むこともない。レイモンドはほとんど邸宅におらず、滅多に帰宅することもなかった。彼の心が愛人クラリッサの元にあることは、火を見るよりも明らかだった。

「今日も戻らないのですね……」
使用人からの報告を受けたヴィオスは、静かに紅茶を口に含みながら呟いた。その表情には怒りも悲しみもなく、ただ淡々と現実を受け入れているように見えた。心の奥底では何かが燻っていたが、それを外に出すつもりはなかった。

彼女の心の支えとなったのは、社交界での活動だった。エリオス家の名に恥じぬよう、ヴィオスは積極的に社交界に顔を出し、淑女としての品位と知性を示した。
華やかなドレスに身を包み、微笑みを浮かべながら貴族たちとの会話を楽しむ彼女は、まさに理想的な侯爵夫人だった。その美しさと優雅さは多くの人々を魅了し、彼女の元には称賛の声が絶えなかった。


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ある晩、ヴィオスは豪華な舞踏会に出席していた。大広間には煌びやかなシャンデリアが輝き、優雅な音楽が流れる中、貴族たちが歓談に興じていた。ヴィオスは白いドレスを纏い、まるで光をまとったように輝いていた。
「ヴィオス様、本日もお美しい。」
声をかけてきたのは、エリオス家とも親交の深い伯爵令息だった。彼の言葉に、ヴィオスは柔らかい微笑みで応じた。
「ご機嫌麗しゅうございます、ラウル様。今宵も素晴らしい舞踏会ですね。」
彼女の淑やかな振る舞いに、ラウルは目を輝かせた。

一方で、部屋の隅にはレイモンドの姿があった。愛人のクラリッサと共に姿を現した彼は、周囲の視線をものともせず、堂々と彼女の手を取っていた。彼がヴィオスを放置してクラリッサを優遇する様子は、すでに社交界でも噂になっていた。

「レイモンド様がまたあの方と……」
近くで小声で囁く女性たちの声が、ヴィオスの耳に届いた。しかし、彼女は表情一つ変えずに杯を口に運んだ。

「嫉妬や怒りを見せることは、彼らの思う壺よ。」
心の中でそう呟きながら、彼女は毅然と振る舞い続けた。貴族たちの前で取り乱すことは、エリオス家の名誉を傷つけることになる。それだけは許されなかった。


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その夜、ヴィオスは舞踏会を後にし、自邸へと戻った。月明かりが邸宅の広い庭を照らしている中、彼女は一人バルコニーに立ち、夜風を感じていた。
「冷たい夜ね……私の心と同じように。」
ヴィオスの呟きは、夜空に溶けていった。

そんな折、彼女の元に一通の手紙が届いた。それは弁護士からのもので、ヴィオスが密かに進めていた「計画」の進捗報告だった。
「証拠は順調に集まっています。次のステップに進む準備が整いました。」
その内容に、ヴィオスの唇がわずかに上がった。

「私を軽んじたことを、必ず後悔させてあげるわ。」
冷静な怒りと共に、ヴィオスは静かに手紙を折りたたんだ。彼女はこれまで耐えるだけの存在ではなかった。エリオス家の娘として、そして自分自身の尊厳を守るため、反撃の準備を進めていたのだ。


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数日後、ヴィオスは再び舞踏会に招かれた。そこで、ある実業家と密かに会談を行った。彼は社交界の裏事情に詳しく、情報収集や資金調達に長けた人物だった。
「ご安心ください、ヴィオス様。必要な証拠と人脈はすべて揃っています。」
彼の言葉に、ヴィオスは小さく頷いた。
「ありがとうございます。これで、次の一手を打つ準備が整いました。」
彼女の瞳には確かな決意が宿っていた。

その夜、帰宅したヴィオスは、一冊の本を開きながら心を落ち着けていた。彼女が今取り組んでいるのは、未来の自分のための「物語」の序章だった。冷たい夫と愛人、そして彼女を見下す者たちに対する華麗なる復讐の物語――それが彼女の計画の核心だった。

「もう少しの辛抱ね。」
ヴィオスはそう呟くと、机に置かれた一輪の白いバラに目をやった。それは彼女が自ら選び、部屋に飾ったものだった。白いバラは彼女自身の象徴――冷たくも気高い美しさを持ちながら、いずれ鮮やかな色で咲き誇る日を夢見る花だった。