上 下
8 / 8

第7章:過去との決別

しおりを挟む


悦子と翔太は新しい生活を始めたが、桐生家での出来事や復讐の記憶が完全に消え去ったわけではなかった。二人は過去を乗り越えたものの、時折、その重さが彼らの心に影を落としていた。特に悦子にとって、桐生家を崩壊させたという事実は消し去ることのできないものだった。

ある日、翔太が悦子に言った。

「ねえ、悦子。僕たちは新しい生活を始めたけど、君が本当に心の底から幸せを感じているのか、時々不安になるんだ。まだ過去に縛られていないか?」

翔太の言葉は、悦子の心に突き刺さった。彼の言う通り、彼女はまだ完全に過去から解放されたわけではなかった。復讐を果たしたとはいえ、その結果として翔太や他の人々を傷つけたという罪悪感が、彼女の中に深く根付いていた。

「翔太様…私は確かに過去に縛られているかもしれない。あなたと一緒にいることで幸せを感じているけれど、自分がしてしまったことに対する後悔は消えないわ。」

翔太は静かに彼女の言葉を聞き、少し考えてから言った。

「もし君が過去と向き合い、完全に解放されるために何かできることがあるなら、僕は全力で君をサポートするよ。過去に何があったとしても、僕たちが一緒にいることが一番大事なんだから。」

その言葉に、悦子は涙ぐんだ。彼女にとって翔太は、すべてを失った後の唯一の光だった。彼が支えてくれたからこそ、彼女は新しい生活を始めることができたのだ。しかし、彼女はまだ、桐生家の崩壊に対する責任を完全に果たしていないと感じていた。

「翔太様、私には一つだけやり残していることがあります。それを果たすことで、ようやく過去と決別できるかもしれない。」

翔太は彼女を見つめ、「何でも言ってくれ。僕が君を助けるよ」と力強く答えた。


---

その翌日、悦子は翔太と共に桐生家の屋敷を訪れる決意をした。廃墟と化したその場所は、かつての栄光の面影を残しながらも、完全に崩れ去っていた。彼女にとっては、ここがすべての始まりであり、終わりだった。

二人は静かに屋敷に足を踏み入れ、長い間放置されていた広いリビングルームにたどり着いた。埃が積もった家具や、壊れた装飾品が散らばっていたが、彼女はそれに目を向けることなく、ただ立ち尽くした。

「ここで私は、すべてを奪う計画を立てた。そして、私はその通りに行動した。あなたを傷つけたくないと願いながらも…」

翔太はそっと彼女の手を握り、「君はもうその過去に縛られる必要はない。僕たちは新しい未来を歩んでいるんだ」と優しく言った。

悦子は深く息をつき、心の中で桐生家との決別を誓った。この場所での過去が彼女の心に残り続けていたが、今はそれを超えて新しい一歩を踏み出す時が来たのだ。

「翔太様、ありがとう。あなたと一緒にいることで、私はようやくこの過去を終わらせることができます。」


---

二人はその場を去り、桐生家の廃墟を背に新しい未来へと進んでいった。悦子は自分の復讐がもたらした結果に向き合い、それを受け入れることで、初めて過去から解放された。翔太と共に歩む未来は、彼女にとって新たな希望の象徴だった。

過去に囚われることなく、二人は手を取り合い、新しい人生を築き上げていく決意を固めた。これからは、愛と希望に満ちた未来が待っている。



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】予定調和の婚約破棄~コリデュア滅亡物語~

愛早さくら
恋愛
「アサニファティス・モニエステ! 俺はこの時をもってお前との婚約を破棄する!」 本来なら輝かしいはずの夜会の席で、私にそう言いつけてきたのはここ、コリデュアの第二王子であり、王太子でもあるシュネアムセス殿下だった。 「かしこまりました、謹んでお受けいたします」 私は粛々とそれを受ける。この後どうなるのか、わかっていながら。 きっと、わかっていないのだろう殿下に、心の中でそっとさよならを告げた。 夜会の場で告げられた婚約破棄。それは果たして誰にとっての予定調和だったのか。 二人の少女の想いが錯綜し、一つの結末へと導いた。 ・以前から言っていた、よくある婚約破棄物の皮をかぶった、別名「コリデュア滅亡物語」です。 ・さっと短く終わる予定。 ・ざまぁは主に王太子と王妃に対して。主人公は婚約破棄された侯爵令嬢とそのきっかけの一つとなったテンプレヒロイン的成り上がり令嬢の二人です。 ・いつもの世界観だけど、「魔法がある異世界」ぐらいの認識でOKですし、他作品(BL)ともリンクしていますが、そちらは読まなくても大丈夫なように書く予定です。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々
恋愛
 先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。  また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?  これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編10が完結しました!(2024.6.21)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

異世界で派遣のバイトを始めました!~バイトに英雄のお世話は荷が重い~

えっちゃん
恋愛
ごくごく普通のOLだった早川ちとせは、突然現れた“魔女”から力を押し付けられて、異世界へ転移をしてしまった。 右も左もわからない場所に転移して、途方に暮れるちとせを拾ってくれたのは派遣斡旋ギルドのマスターだった。 ギルドマスターの勧めで、派遣のバイトを始めることしたちとせだったが、呪いに触れてほどくことができる異世界転移特典と魔女に押し付けられた魔力のせいで、偶然出会った英雄アレクシスに興味を持たれてしまう。 「チトセ、俺の下で働かないか」 「嫌です。英雄のお世話なんて荷が重いです」 呪いをほどく能力があるちとせと、呪われてしまった英雄アレクシスの駆け引きは今日も続く。 *他サイトにも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...