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第二章:誤解と混乱
しおりを挟むユリアは半ば諦めの表情でエドワードを見つめながら、さらに質問を続けた。
「途中、村の誰かに会った?」
エドワードは無邪気に頷き、笑顔で答えた。
「はい! 診療所の場所を教えてもらいました。」
「…なんて言って聞いたの?」
「『ユリアという気高く美しい女性が赴任した診療所の場所を教えてくれ』って頼んだんです。」
ユリアは再び頭を抱え、深いため息をついた。
「そ、それだけか?」
「いえ、村人に『先生とどんな関係ですか?』と聞かれましたので…」
ユリアは不安げにエドワードを見つめた。
「それで…なんて答えたの?」
エドワードは胸を張って、自信満々に答えた。
「もちろん、『私が世界で一番敬愛しているお方です』と答えました! ちゃんと身分は伏せましたよ!」
「うああああああああーっ!」
ユリアは叫び声を上げて、頭を抱えたまま地面にうずくまった。
「絶対、誤解されてる!変な噂が広まるに決まってる!」
エドワードは何が問題なのか全くわかっていない様子で、首をかしげていた。
「え? 何かまずかったですか?」
ユリアは自分の顔を両手で覆いながら、深い絶望感に包まれていた。
「この村で『敬愛するお方』なんて言われたら、誰だって変な想像をするに決まってるでしょうが…! 絶対に誤解される…もう終わりだ…。」
エドワードは依然として無邪気に笑顔を浮かべたまま、ユリアの言葉を聞いていたが、まったく問題の深刻さには気づいていない様子だった。
ユリアは、肩を落としながらゆっくりと立ち上がり、無言のまま自室へ向かおうとした。道すがら、彼女は深い息を吐き、振り返りもせずに厳しい声でヘレンに指示を出した。
「ヘレン!今日は休診日だ。ドアに鍵をかけて、誰も入れるな!」
ヘレンは驚きつつも、ユリアの真剣な様子を見て、すぐに返事をした。
「かしこまりました、先生…」
そのままユリアは無言で自室に消えていった。エドワードは、まだ何が起きているのか理解できない様子で、ヘレンに問いかけた。
「姉上は、どうしてそんなに怒ってるんでしょうか?」
ヘレンは苦笑いしながら、ユリアの背中を見送り、静かに答えた。
「王子様…きっと、先生にはいろいろと大変なことがあるんです。どうか、少しお時間をあげてください。」
エドワードはしばらく考えた後、首をかしげながらも納得したように頷いた。
「わかりました。でも、僕はただ姉上に会いたかっただけなのに…」
ヘレンは優しく微笑み、エドワードに目配せしながら診療所のドアを閉めに行った。
「それでも、今日は休診日ですので、先生にはゆっくり休んでいただきましょう。」
こうして診療所は、しばらくの間静寂に包まれることとなった。
エドワードは、ユリアが自室へ向かう後ろ姿を見て焦ったように言った。
「いや、まだ、話が…!」
彼は一歩踏み出そうとしたが、すでにユリアは自室のドアを閉めてしまっていた。焦るエドワードを見て、ヘレンが軽く肩に手を置き、優しく声をかけた。
「王子様、今日は先生に少しお時間を差し上げた方がいいかもしれません。先生もお疲れですし、いきなりの訪問で驚かれているのでしょう。」
エドワードは心配そうに自室のドアを見つめながらも、しぶしぶ頷いた。
「うん…でも、僕は姉上と話したかっただけなんだ。本当に…」
ヘレンは微笑みながら、優しい声で続けた。
「きっと、先生も後で落ち着いてからお話してくれますよ。今は少し休ませてあげましょう。」
エドワードは少し落ち込んだ様子でヘレンの言葉に従い、黙ってうなずいた。
しばらくの静寂が訪れた後、突然、診療所の外から村人たちのざわめきが聞こえ始めた。声が次第に大きくなり、やがてドアを叩く音が響いた。
「先生!結婚して村を出て行くって本当なんですか!?」
「先生、お願いだから村を出ないで!」
「先生ー!」
ユリアは自室の中でその声を聞いて、心底うんざりした表情を浮かべた。窓の外を見ると、診療所の前に集まった村人たちが、心配そうに訴えかけているのが見える。
「…だからあいつが来ると、ろくなことにならないんだ!」
ユリアはため息をつき、頭を抱えた。村人たちは完全に誤解している。彼女が村を出ていくとか、結婚するなんて噂、一体どこから広まったのか…。
「エドが変な言い方をしたから…」
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