上 下
4 / 4

第四章:王宮の転落とエミナの幸せ

しおりを挟む


エミナが王宮を去ってから、王宮内部の秩序が次第に崩れていった。かつてエミナが築いていた安定や調和が失われたことで、宮廷は混乱に陥り、レオネルとその愛人であるカトリーナへの不満が次第に高まっていった。エミナが王妃として宮廷をまとめ、民衆の声を聴き、温かな雰囲気を保っていたことの重要さに、ようやく人々は気づき始めていた。

レオネルはエミナが去ったことで、彼女がどれほど宮廷に貢献していたかを理解し始めた。しかし、それはすでに遅すぎる気づきであり、彼の周囲には不信と批判が渦巻いていた。カトリーナはエミナの代わりに宮廷の場に立つことになったが、彼女は自己中心的で冷淡な性格のため、人々からの支持を得ることができなかった。彼女はエミナと違って民衆や貴族たちの意見に耳を傾けることもせず、自分の欲望を満たすためだけに振る舞っていたのだ。

エミナが去った後も、王宮の人々は彼女の優しさと賢明さを懐かしんだ。エミナはどんなに疲れていても、民衆や貴族たちの悩みに耳を傾け、適切な助言をしていた。王宮にとって、彼女は灯火のような存在であり、彼女がいなくなった今、冷え切った空気が漂い、誰もが不安を感じていた。

そんな中、王宮での混乱がますます広がり、貴族たちはレオネルとカトリーナへの不信を募らせていった。カトリーナは自分の地位を確固たるものにするため、権力を振りかざして貴族たちを支配しようとしたが、そのやり方は粗暴であり、周囲の反感を招くだけであった。レオネルもまた、エミナに代わる王妃としてカトリーナを据えたことに後悔を感じ始めていた。しかし、今さらエミナを呼び戻すこともできず、彼は孤立していくばかりだった。

一方、エミナは新たな町での生活を満喫していた。薬屋は地元で評判を呼び、エミナの誠実な対応に心を癒される人々が次々と訪れるようになった。彼女はかつての王妃としての威厳はそのままに、しかし気取らず温かな態度で客たちを迎え、人々から愛される存在となっていた。そして、エミナのそばにはリシャールという心強い伴侶がいた。彼はエミナの過去を知り、その苦しみを理解してくれる唯一の存在であり、二人の間には真実の愛が育まれていた。

リシャールはエミナの手を取り、静かに彼女に語りかけた。「エミナ、あなたがこの町でどれだけ多くの人に愛されているか、気づいていますか?あなたは、ここにいる人々にとっての希望であり、支えなんです。」

エミナはリシャールの言葉に微笑みを浮かべ、そっと彼に寄り添った。彼の温かさと優しさが、彼女の過去の痛みを癒し、新たな未来へと導いてくれるのを感じていた。彼女はもう王宮での辛い日々やレオネルの裏切りに縛られることはなく、自分の人生を自由に生きることができる喜びに満たされていた。

そんなある日、町で偶然出会った貴族の噂話から、エミナは王宮が混乱に陥っていることを知る。エミナが去った後、レオネルとカトリーナは宮廷での権力を維持するのに必死になっていたが、彼らの独善的な行動が原因で周囲からの信用を失い、ついには他の貴族たちからも軽蔑される存在となっていた。特に、カトリーナの横暴な振る舞いにより、民衆からも嫌われ、レオネルはその責任を問われるようになっていた。

その噂を聞いたエミナは、内心ほっとしたような気持ちになった。過去の自分を傷つけ、無視した人々が、自らの行いの代償を払うことになるのは当然だと思った。だが、彼女は彼らのことに対して深く関わるつもりはなく、ただ過去を振り返らずに自分の人生を歩むことを決意した。

数ヶ月後、リシャールはエミナに正式に結婚を申し込み、エミナは彼の提案を喜んで受け入れた。二人は小さな教会で静かに結婚式を挙げ、エミナはかつて夢見た以上の幸せを手に入れることができた。彼女はリシャールと共に新しい家庭を築き、王宮での苦い経験を乗り越え、真実の愛と平穏な日々を楽しむようになった。

エミナが町で穏やかに暮らしている一方で、王宮ではさらなる混乱が続いていた。レオネルとカトリーナの評判は地に落ち、彼らの権力は徐々に失われつつあった。民衆はエミナを恋しがり、彼女のような誠実で慈愛に満ちた存在を再び望む声が高まっていた。しかし、もうエミナが戻ることはなく、彼女は新しい人生を選んでいたのだ。

エミナが新しい生活の中で幸せを享受する中、王宮でのかつての彼女の存在がどれだけ重要だったかを、レオネルは痛感し始めていた。彼はカトリーナとの関係も破綻し、周囲の貴族たちからも孤立していたが、今さらどうすることもできず、彼はかつての愚かさを悔やむしかなかった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...