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第1章: 真実の愛に目覚めたふたり
しおりを挟む大広間に響くざわめきは、レイチェルの耳にはほとんど届いていなかった。彼女の心は、目の前の出来事をどう理解すればいいのか分からず、ただ混乱していた。自分の婚約者である王子が、堂々と婚約破棄を宣言したのだ。
「レイチェル、私たちはもう終わりだ。真実の愛に目覚めたんだ。これからは彼女と結婚するつもりだ」
王子は自信満々の笑みを浮かべ、隣に立っていた女性を前に進めた。ソフィアという美しい女性で、金色の髪が光に反射し、優雅に頭を下げる姿は確かに目を引くものだった。
王子の口から次々と繰り出される言葉は、まるで彼が真実の愛を見つけたかのように響いていた。しかし、レイチェルは内心で冷笑を浮かべていた。**真実の愛?この男が?** その思いが心の中で渦巻くが、表情には出さない。
だが、次の瞬間、まったく予想外の展開が起きた。
「その婚約は、なかったことにしてください」
レイチェルも周囲の貴族たちも、その場で固まった。ソフィアが口にしたその言葉の意味を、誰もすぐには理解できなかったのだ。
王子は驚愕の表情を浮かべ、ソフィアを問い詰めた。「ソフィア、どういうことだ?」 彼の声には明らかな動揺が隠せない。
ソフィアは冷静な表情で、王子の視線を一度受け止めた後、ゆっくりと彼に向き直り、まっすぐに言葉を紡いだ。「私も真実の愛に目覚めたのです。」
王子の顔がさらに険しくなった。「何を言っているんだ? お前と私は結婚する予定だったんだぞ!」
ソフィアは優雅に首を振り、次の言葉を続けた。「ですから、全てなかったことにしてください。私は、真実の愛に目覚めたのです。私は、レイチェル様に一目惚れしてしまいました。レイチェル様こそ、私の運命の人です。」
大広間は再び静まり返った。王子は完全に言葉を失い、その場で呆然と立ち尽くしていた。自分の婚約者が、自分の元婚約者に愛を告白するなんて、夢にも思っていなかった。
レイチェルは、その突然の告白に戸惑いながらも、冷静さを保ち続けた。まさか、自分がこのような場面に立たされるとは予想もしていなかったが、ソフィアの真剣な瞳を見つめると、軽々しく否定する気にもなれなかった。
「私に……一目惚れ?」レイチェルは小さな声で繰り返した。
ソフィアはうなずき、真っ直ぐにレイチェルを見つめた。「レイチェル様、私はあなたに一目惚れしました。あなたの強さ、知性、そしてその美しさに、私は心を奪われました。どうか、私の気持ちを受け取ってください。」
王子は頭の中で混乱が渦巻いていた。**自分の婚約者が元婚約者に告白するなど、考えたこともない。普通なら婚約者同士が争う修羅場になるはずだが、今のこの状況もある意味では修羅場なのかもしれない。** 訳の分からない思考が彼の頭をぐるぐると回り続けていた。
一方で、レイチェルは目の前にいるソフィアの瞳に真実の愛が映っていることを感じ取り、静かに口を開いた。
「気持ちは、嬉しいわ……でも、私はあなたのことをほとんど知らない。まずは、お互いを知ってからでも遅くないと思うわ」
ソフィアの顔に明るさが戻った。「もちろんです、レイチェル様。これから、時間をかけてお互いを知っていきましょう。私はあなたのことをもっと知りたいですし、あなたにも私のことを知ってもらいたいです。」
その言葉に、レイチェルも自然と笑みを浮かべた。予期せぬ展開ではあったが、ソフィアの誠実さが彼女の心に響いたのだ。二人はまるで新たな物語の始まりを予感させるかのように、互いに微笑み合った。
「それでは、参りましょうか、レイチェル様?」ソフィアは優しく手を差し出し、レイチェルもそれを受け取った。
王子は依然としてその場に立ち尽くし、二人が大広間を後にする様子をただ見つめているしかなかった。まるで悪夢のように感じるその光景に、何もできずに取り残されたまま。
貴族たちのざわめきが再び広がる中、レイチェルとソフィアの姿は徐々に遠ざかっていく。
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