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第四章: 元婚約者の王子との再会

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ミュルザンヌ・ベントレーは、自分自身の才能を開花させ、新たな人生を歩み始めていた。彼女の主催するサロンは、文化や芸術に興味を持つ貴族たちの間で評判を呼び、毎回多くの人々が集まっていた。彼女はその中心で輝きを放ち、人々を魅了していた。

一方で、エドワード王子とローゼリーヌの婚約は正式に進められていたが、その関係には早くも陰りが見え始めていた。ローゼリーヌは贅沢を好み、自分の欲求を満たすために王子の地位を利用することに躊躇がなかった。彼女のわがままな振る舞いに、エドワードは次第に疲れを感じていた。

そんな中、王宮で盛大な舞踏会が開催されることになった。これは他国からの使節団を歓迎するためのものであり、国内外の貴族たちが一堂に会する大イベントであった。ミュルザンヌもリシャールの誘いで出席することになった。彼女は自分の成長を示す機会として、この舞踏会を楽しみにしていた。

舞踏会の夜、ミュルザンヌは深紅のドレスに身を包み、その美しさは会場中の注目を集めた。彼女が会場に足を踏み入れると、周囲の人々は彼女の存在感に圧倒され、自然と道を開けた。

リシャールは彼女を迎えに来ており、優雅に手を差し出した。「ミュルザンヌ嬢、今宵は一段と美しいですね。」

「ありがとうございます、リシャール様。あなたもとても素敵です。」彼女は微笑みながら彼の手を取り、二人は会場の中心へと歩み出した。

その様子を遠くから見ていたエドワード王子は、胸に複雑な感情を抱いていた。かつての婚約者であるミュルザンヌが、これほどまでに輝いていることに驚きと嫉妬を感じたのだ。彼はローゼリーヌの手を取っていたが、その心はミュルザンヌに向いていた。

舞踏会が進む中、エドワードは意を決してミュルザンヌに話しかけることにした。彼女が一人で飲み物を手にしているところに近づき、「ミュルザンヌ、少しお話しできるだろうか?」と声をかけた。

彼女は驚きつつも冷静に振り向き、「王子様、お久しぶりです。何かご用でしょうか?」と答えた。その態度は礼儀正しくも距離を感じさせるものであった。

「最近の君の活躍は耳にしている。以前とはまるで別人のようだね。」エドワードは少し戸惑いながら言葉を選んだ。

「ありがとうございます。自分の道を見つけることができましたので。」彼女は淡々と答えた。

「その…君が幸せそうで何よりだ。もしよければ、一曲踊っていただけないか?」彼は期待を込めて尋ねた。

しかし、彼女は軽く首を振り、「申し訳ありません。お約束がありますので。」と断った。その瞬間、リシャールが彼女の元に戻ってきて、「お待たせしました、ミュルザンヌ嬢」と声をかけた。

「いえ、ちょうど戻られたところです。」彼女は微笑みを浮かべ、リシャールの腕を取った。

エドワードは二人の親密な様子に言い知れぬ焦燥感を覚えた。彼は自分が彼女を手放したことを初めて後悔し始めたのだ。

一方、ローゼリーヌはエドワードの様子に不満を募らせていた。彼がミュルザンヌに心を奪われていることに気づき、彼女への敵意を強めていった。

舞踏会の後半、ローゼリーヌはミュルザンヌに近づき、嫌味たっぷりに話しかけた。「まあ、ミュルザンヌ嬢。ずいぶんと派手なお召し物ね。目立ちたがり屋は相変わらずのようで。」

ミュルザンヌは冷静に微笑み、「ご心配なく、ローゼリーヌ様。私が目立とうが目立つまいが、あなたには関係のないことですわ。」と返した。

「生意気ね。元婚約者のくせに。」ローゼリーヌは小声で毒づいた。

そのやり取りを見ていたリシャールが間に入り、「失礼ですが、彼女に対する無礼はお控えいただけますか?」と穏やかながらも鋭い目でローゼリーヌを見つめた。

「あなたには関係ないでしょう!」ローゼリーヌは怒りを露わにしたが、周囲の視線に気づき、仕方なくその場を立ち去った。

ミュルザンヌはリシャールに感謝の意を示し、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と頭を下げた。

「いいえ、あなたが不快な思いをするのは私も望みませんから。」彼は優しく答えた。

その後、二人はバルコニーに出て、静かな夜風に当たりながら会話を楽しんだ。ミュルザンヌはエドワードとの再会についての感想をリシャールに打ち明けた。

「正直、彼に対して何の感情も湧きませんでした。かつては未来を共にすると思っていましたが、今ではただの過去の人です。」

「それは良いことだと思います。過去に囚われず、未来を見据えているあなたはとても素敵です。」

「リシャール様、あなたがいてくださるから私は前に進めるのかもしれません。」

「私もあなたと過ごす時間がとても大切です。これからも共に歩んでいけたらと思います。」

その言葉に、ミュルザンヌは胸の奥が温かくなるのを感じた。彼女は新たな幸せを見つけつつあるのだ。

一方、エドワードは舞踏会の喧騒の中で一人思い悩んでいた。ローゼリーヌのわがままや贅沢な要求に疲れを感じ、彼女との未来に不安を覚えていた。そして何より、ミュルザンヌが他の男性と幸せそうにしている姿が頭から離れなかった。

「自分は間違っていたのだろうか…」彼は心の中で呟いた。しかし、既に婚約は公にされており、今さら後戻りはできない。彼は自分の選択に責任を持たなければならないのだ。

舞踏会が終わり、ミュルザンヌは新たな決意を胸に屋敷へと戻った。これからも自分の道を進み、真の幸せを手に入れるために努力を続けると心に誓った。

彼女の周りには、彼女を支えてくれる友人や仲間が増えていた。リシャールとの関係も深まり、お互いにとって大切な存在となっていた。

こうして、ミュルザンヌは過去の痛みを乗り越え、新たな未来へと歩み出すのであった。

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