上 下
4 / 4

第四章:選択のとき

しおりを挟む
アルフェッタの香水と化粧品事業は順調に拡大を続け、彼女の評判は貴族社会でも一目置かれる存在となっていた。特に女性たちからの支持が厚く、彼女が持つ優雅で芯の強い生き方は、多くの貴婦人たちにとって理想の姿となっていた。彼女の事業は、もはや「公爵令嬢アルフェッタ」の肩書きだけではなく、彼女自身の実力で成し遂げたものだった。

ある日、アルフェッタはいつものように仕事をしていると、再び王太子アレンが訪れたいとの知らせが入った。先日の拒絶にもかかわらず、彼は再度彼女に会いに来たのだ。アルフェッタは少しだけ驚いたが、彼の来訪を拒むことはせず、待つことにした。

アレンが店の扉をくぐると、以前とは違った真剣な表情を浮かべていた。彼はまっすぐにアルフェッタのもとに歩み寄り、その姿勢からは高貴な王太子としての威厳が感じられたが、どこか穏やかな柔らかさも漂っていた。

「アルフェッタ、どうかもう一度話をさせてほしい。」

アルフェッタは、彼の言葉に対して冷静に答えた。「殿下、先日もお話しましたが、私にはもう過去のしがらみに戻るつもりはありません。私は今、自分自身の道を歩んでいるのです。」

彼女の毅然とした態度に、アレンは少しだけ口を閉ざした。しかし、すぐに彼は意を決して言葉を続けた。

「分かっている。君が今までどれだけ努力してきたか、そして君の力でここまでの成功を収めたことも、心から尊敬している。私は…その君の姿に魅了され、もう一度、君と共に未来を築きたいと強く感じたんだ。」

その告白に、アルフェッタは一瞬息を呑んだ。かつて自分を「頼りない」と言い捨てた彼が、今は彼女を認め、再び共に歩むことを望んでいる。かつて憧れていた相手の言葉に心が揺らぎそうになったが、彼女はすぐに冷静さを取り戻し、考えを巡らせた。

「殿下、確かに私たちはかつて婚約を交わしていました。しかし、あの時私は、殿下の理想に届かないとされ、捨てられました。今になって再び共に歩むことを望むなど、私には受け入れることは難しいのです。」

アルフェッタの言葉は冷たくもあったが、彼女の中には確固たる意志が込められていた。彼女は自らの手で築いた成功を誇りに思っており、誰かのためにではなく、自分の意志で未来を選ぶことを決意していたのだ。

アレンは少しだけ悲しそうな表情を浮かべたが、それでも彼は続けた。「そうか…それでも、私は君のことを諦めるつもりはない。君がこれからどんな道を歩むとしても、君の側で支えたいと思っている。私にとって、君は唯一無二の存在なんだ。」

その言葉を聞いても、アルフェッタの決意は揺るがなかった。彼女は過去に囚われることなく、自分の人生を歩むことを選んでいた。王太子としての地位や富に依存せず、自分の力で道を切り開いたことで、彼女は本当の自由と誇りを手に入れたのだ。

「殿下、私は今の人生に満足しています。私にとっての幸せは、誰かに頼ることではなく、自分の力で成し遂げることです。そして、殿下のお気持ちはありがたいですが、私は私の道を進むことを選びます。」

アレンはしばらく沈黙した後、微かに頷いた。「分かったよ、アルフェッタ。君の意志がこんなにも強いものだと知れて、私は逆に君をさらに尊敬するようになった。君が幸せを掴むことを心から願っている。」

そう言うと、アレンは静かにその場を去っていった。彼の後ろ姿を見送りながら、アルフェッタは再び自分の選択に確信を持った。彼女は自分の手で幸せを掴むことを選び、誰にも縛られない自由を手に入れたのだ。


---

その後、アルフェッタの事業はさらに成功を収め、彼女は貴族社会での成功者として認められるだけでなく、多くの人々にとっての憧れの存在となった。彼女の生き方は、他の貴族の女性たちにも刺激を与え、次第に「アルフェッタのように自由に生きる」ことが理想とされるようになった。

そして、彼女は新しい未来に向かって歩み続け、王太子の求婚を断りながらも、堂々とした姿で貴族社会にその名を刻み続けていくのであった。


---

エピローグ

時が経ち、アルフェッタの事業は一層拡大し、彼女は独立した女性として、貴族の女性たちにとってのロールモデルとして名を馳せていた。彼女が築いた香水ブランドは貴族だけでなく一般市民にも支持され、彼女の名声は国全体に広まっていた。アルフェッタは新たな目標に向かって、まだ見ぬ未来へと挑み続けていた。

誰かに依存することなく、自分の力で人生を切り開くこと。それが彼女の選んだ幸せであり、自由だったのだ。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

婚約者に親しい幼なじみがいるので、私は身を引かせてもらいます

Hibah
恋愛
クレアは同級生のオーウェンと家の都合で婚約した。オーウェンには幼なじみのイブリンがいて、学園ではいつも一緒にいる。イブリンがクレアに言う「わたしとオーウェンはラブラブなの。クレアのこと恨んでる。謝るくらいなら婚約を破棄してよ」クレアは二人のために身を引こうとするが……?

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...