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第二章: 戦争の勃発と裏切り
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カルディナ帝国に嫁いで数週間が過ぎた。ヴェルサティスは、日々新しい文化や生活様式に触れながらも、心の中で燻る不安を完全に拭い去ることはできなかった。帝国の宮殿での生活は華やかで便利だったが、彼女にはその全てが冷たい仮面のように思えた。
皇帝アレクサンデルとの関係もまた、距離感のあるものだった。彼は宮廷の様々な行事に彼女を連れて行くことはあったが、二人だけで話す時間はほとんどなかった。どんな時でも彼の眼差しは冷静で、彼女に対する本心を窺い知ることはできなかった。結婚の名の下でこの国に送り込まれたが、彼の中で自分が何者であるかを定義されることは一度もなかった。
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そんなある日、ヴェルサティスはその静かな日常を破壊する知らせを受け取った。エルフォード王国がカルディナ帝国に対して宣戦布告をしたというのだ。
「宣戦布告……?」
ヴェルサティスは驚きと恐怖で言葉を失った。エルフォード王国とカルディナ帝国の関係は決して良好ではなかったが、彼女が人質として送られることで戦争は回避されると信じていた。それが一変し、母国が帝国への侵攻を決断した理由が彼女には理解できなかった。
彼女が動揺している中、皇帝アレクサンデルが宮廷の会議室に彼女を呼びつけた。部屋に入ると、そこには冷たい目をした彼が立っていた。
「どういうつもりだ、ヴェルサティス?」
アレクサンデルの声には怒りが込められていた。その鋭い視線が、まるで彼女が敵そのものであるかのように突き刺さる。
「私には何も知る由がありません!父が、国がなぜそんな無謀なことをしたのか、本当に分からないのです!」
ヴェルサティスは懸命に訴えたが、アレクサンデルは簡単には納得しない様子だった。
「お前の国が裏切りを働き、戦争を仕掛けてきた。この婚姻はただの時間稼ぎだったのかもしれないな。」
彼の言葉に、ヴェルサティスは怒りが込み上げてきた。確かにエルフォード王国の行動は愚かで彼女を裏切るものだったが、それを理由に彼女が非難される筋合いはなかった。
「陛下、私は帝国を裏切るためにここに来たのではありません。私自身もまた、エルフォード王国に見捨てられた存在です。」
彼女の言葉には真剣さが滲んでいた。アレクサンデルはしばらく黙り込んだ後、短くため息をついた。
「ならば、お前の真意を示してみせろ。」
彼は冷たく言い放ち、そのまま部屋を出て行った。
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その後、ヴェルサティスの元には新たな指示が下された。彼女は軟禁状態となり、外部との接触を一切禁じられた。侍女たちもまた彼女から距離を置くようになり、彼女の立場はさらに孤独なものとなった。
戦争は急速に拡大し、カルディナ帝国はエルフォード王国からの侵攻に対抗して防衛戦を展開していた。しかし、エルフォード王国の奇襲により、帝国軍は一時的に劣勢に追い込まれる。王国軍は、ヴェルサティスの嫁入りを利用して帝国を油断させる計画を立てていたのだ。
ヴェルサティスはその報告を聞いたとき、初めて自分の役割が「単なる駒」であったことを強く実感した。家族からも、国からも利用されるだけの存在。それが彼女の真実だった。
「このままではいけない……。」
彼女は小さく呟いた。母国が彼女を捨てたように、今度は自分がその国を捨てる番だと心に決めた。
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ある夜、彼女は突如、部屋に現れたアレクサンデルと再び顔を合わせることになった。彼の表情には怒りがあり、その目は冷たく光っていた。
「お前をどう処理すべきか迷っている。」
彼の声は低く、威圧感に満ちていた。
「お前を処刑し、その姿を見せしめとして国境に晒すべきか。それともただ牢に閉じ込めておくべきか。」
ヴェルサティスはその言葉を受け、ゆっくりと立ち上がった。彼女の瞳には恐怖も涙もなかった。ただ、一点の覚悟だけが浮かんでいた。
「どうぞ、陛下のご意志のままにお使いください。ただ一つだけお願いがあります。」
「願いだと?」
アレクサンデルは彼女を訝しげに見つめた。
「私の母国を滅ぼしてください。あの国の王族と貴族たちが、市民を苦しめ続けるのを止めてください。それが叶うなら、私はこの命をお捧げします。」
彼女の言葉は、静かに、しかし強い意志を持って響いた。
アレクサンデルはその場に立ち尽くし、何も言わずに部屋を後にした。その背中を見送りながら、ヴェルサティスは拳を握りしめた。自分の命がどうなるかは分からない。それでも、彼女はもう後戻りしないと心に誓った。
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戦争はさらに激化していく中、ヴェルサティスの言葉はアレクサンデルの心に何かを残したのかもしれない。彼の冷たい眼差しの奥に、微かな変化が宿り始めていた。
彼女の存在が、この戦争の行方を大きく変えていくとは、この時まだ誰も気づいていなかった。
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