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第1章:突然の婚約破棄と屈辱
しおりを挟む華やかなドレスに身を包んだアリス・ディルミスは、広大な舞踏会場を歩く足取りに自信を持っていた。今日の舞踏会は、彼女にとって特別な日だった。王子エドガーとの婚約発表が行われる予定だったからだ。エドガーとは幼い頃からの付き合いで、彼女にとって初めての恋でもあった。彼はいつも優しく、騎士のようにアリスを守ってくれる存在だった。
舞踏会場は上流貴族で埋め尽くされており、まるでアリスの美しさを引き立てるために用意されたかのような豪華な装飾が施されていた。彼女は鏡の前で最後の髪を整えながら、自らの姿に満足していた。まさに理想の花嫁として、すべてが順調に進むはずだった。
しかし、その輝かしい未来は、一瞬で崩れ去った。
舞踏会の最中、エドガー王子が彼女に歩み寄り、視線を合わせないまま、低い声で告げた。
「アリス、君との婚約を破棄させてもらいたい。」
まるで時間が止まったかのようだった。周囲の笑い声や音楽の響きが遠く感じられ、アリスの胸の鼓動だけが耳元で激しく鳴り響いた。彼女は言葉を失い、エドガーの顔を見つめるが、彼の目はどこか冷ややかだった。
「……なぜですか?」
やっとの思いで搾り出した言葉が、かすかに震えていた。彼女は理解できなかった。今まで何の問題もなく、二人は共に未来を描いてきたはずだ。エドガーは、いつも彼女に微笑んでくれていた。なぜ急にこのようなことを言うのか、その理由がわからなかった。
エドガーはため息をつき、目を細めた。
「クラリッサ嬢との方が、王子としてふさわしいと感じたんだ。彼女は君とは違って、より多くの人々に慕われ、宮廷での評価も高い。君は……」
彼は一瞬、言葉を切り、アリスを見つめた。
「……君は、私の期待に応えられないと感じた。」
まるで刃が胸に突き刺さるような感覚だった。アリスは自分の心臓が痛むのを感じながら、エドガーの言葉に耳を傾けた。彼の言葉は冷酷で、愛のかけらも感じられなかった。
「私は、君よりもクラリッサ嬢を選ぶ。」
その瞬間、周囲の貴族たちがひそひそと話し始めた。噂が広がるのは一瞬だった。アリス・ディルミスが婚約破棄された、という衝撃的な事実が、まるで風のように場を駆け巡った。
アリスはその場に立ち尽くし、手に握りしめたグラスが震えていた。視線を感じ、周囲を見ると、貴族たちの視線が彼女に集中していることに気づいた。彼らの顔には好奇心と軽蔑が混ざり合っていた。かつての仲間たちも、今は冷ややかな目で彼女を見ている。
「……そんな……」
言葉にならない感情が喉の奥で詰まった。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえ、アリスは気丈に立っていようとしたが、足元がふらつき、視界が揺らぐ。今この場で泣いてはいけない、そう自分に言い聞かせるが、感情の波が彼女を圧倒していく。
「王子、どうして……?」
アリスは再び問いかけたが、エドガーは冷淡に答えた。
「もう決まったことだ、アリス。理解してくれ。」
彼のその一言が、決定的な別れの宣言となった。アリスは力が抜け、手にしていたグラスを落としそうになったが、なんとか踏ん張った。しかし、心の中では全てが崩れ去り、彼女の未来は闇に包まれたかのようだった。
その時、クラリッサが近づいてきた。彼女は美しく完璧な笑顔を浮かべ、まるで勝者のようにアリスを見下ろしていた。
「アリスさん、これで私とエドガー様は正式に婚約することになりますわ。どうかお幸せをお祈りいたします。」
嘲笑のような言葉が、アリスの心をさらに傷つけた。クラリッサは、かつてアリスが信じていた友人の一人だった。しかし、今や彼女はアリスの最も強力な敵となり、彼女の全てを奪い去ろうとしていた。
アリスは耐えきれず、頭を下げてその場から立ち去った。泣きたい、叫びたい。しかし、彼女は周囲の貴族たちが見守る中、泣くことすら許されない。全ての目が彼女に向けられているのがわかった。
宮殿の庭に逃げ込んだアリスは、ようやく人目を忍んで涙を流すことができた。彼女は膝を抱え、涙が止まらなかった。人生で最も大切な人に裏切られた屈辱と悲しみが、彼女を圧倒していた。
「どうして……どうして私が……」
涙に濡れた顔を両手で覆い、彼女は静かに泣き続けた。夜の風が彼女のドレスを揺らし、冷たい月光が彼女の肩に降り注いでいた。どれほどの時間が過ぎたのかはわからない。ただ、彼女に残されたのは、深い孤独と痛みだけだった。
しかし、アリスはまだ知らなかった。この屈辱が彼女の真の力を呼び覚まし、壮大な逆転劇の始まりとなることを。
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