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第2章:隠された力
しおりを挟む冷たい夜風がレティシアの肌をかすめる中、彼女は屋敷へと戻ってきた。広大な庭を一人で歩きながら、先ほどの晩餐会で起きたことがまるで夢であったかのように感じていた。しかし、彼女の心には依然としてエドワードの冷たい言葉が深く突き刺さっている。
「君にはもう興味がない。」
その言葉は、レティシアの自尊心を砕くのに十分だった。これまで王太子の婚約者として、誰よりも品位を保ち、彼にふさわしい女性であるよう努めてきた。それが全て無意味であったと感じると、怒りと屈辱が込み上げてくる。
「あの人は、もう…私を見ていない…。」
レティシアは静かに立ち止まり、深呼吸をした。冷静でいようと努めてはいるが、心の奥底で何かが変わり始めているのを感じていた。これまでの自分を否定されたことで、今まで隠されていた感情や力が目を覚ましつつあるような、そんな奇妙な感覚だった。
屋敷に戻ると、使用人たちはすでに寝静まっていた。広大なオルディア家の屋敷は、彼女にとっていつもと変わらぬ場所だったが、今夜はどこか冷たく感じる。まるでこの場所さえも、彼女の味方ではないかのように。
部屋に戻ったレティシアは、鏡の前に立ち、自分の顔をじっと見つめた。エメラルドの瞳は揺らぎ、心の中の迷いを映し出している。これからどうすればいいのか、何をするべきなのか。答えはすぐに見つからない。
だが、一つだけ確かなことがあった。
「もう、誰にも傷つけられたくない。」
その言葉が口から漏れた瞬間、部屋の空気がピリリと変わった。まるで周囲の何かが反応したかのように、レティシアの中で眠っていた何かが動き出した。
突然、彼女の目の前に、薄青い光が揺らめき始めた。それはまるで炎のように形を変えながら、彼女を包み込むように広がっていく。驚きながらも、レティシアはその光に手を伸ばした。すると、彼女の手が触れた瞬間、光は彼女の体内へと吸い込まれるように消えていった。
「これは…何?」
戸惑いとともに、彼女は自分の中で何かが変わったことを感じていた。力が満ちてくるような、これまで経験したことのない感覚だった。
その時、静寂を破るかのように扉がノックされた。驚いて振り返ると、そこには彼女の乳母であり、幼い頃からレティシアを見守ってきたマルタが立っていた。
「レティシア様、失礼いたします。何やら部屋で光が見えたので、心配になりまして…」
レティシアは一瞬言葉を失ったが、すぐに冷静さを取り戻し、微笑んだ。
「ご心配には及びません、マルタ。少し考え事をしていただけです。」
マルタはレティシアの顔をじっと見つめ、何か言いたげな表情を浮かべた。長年彼女を見守ってきたマルタには、レティシアの微妙な変化がわかっているようだった。
「レティシア様…どうか無理はなさらないでください。今日の出来事でお心が揺らぐのも無理はありませんが…あなたには他に道があります。」
その言葉に、レティシアは一瞬だけ眉をひそめた。何か隠された意味があるような気がした。
「他の道…?」
レティシアが問いかけると、マルタは静かにうなずいた。
「はい、レティシア様。実はお伝えしていなかったのですが、あなたの家系には古代の魔力が流れているのです。その力は、これまで封印されてきましたが、今こそあなたがそれを解き放つ時が来たのかもしれません。」
レティシアは驚きのあまり、息を飲んだ。自分の中に眠る力?それが今、目覚めようとしているというのか。
「そんな…私はただの普通の貴族の娘です。魔法なんて…」
「いいえ、レティシア様。あなたは普通ではありません。オルディア家には、代々続く強力な魔導士の血が流れています。そして、あなたはその中でも特別な存在なのです。」
マルタの言葉に、レティシアは再び自分の内にある力の存在を感じた。先ほどの光は、その力が目覚めた証拠なのだろうか。
「では、私が持つ力とは一体…?」
マルタは微笑みながら、静かに答えた。
「あなたの力は、古代の魔法を操るものです。それは並大抵の魔導士が手に入れることはできない、特別な力です。しかし、それを扱うためには、まず自らを信じ、内なる力を解き放つ必要があります。」
レティシアは深く考え込んだ。婚約破棄され、未来が暗闇に包まれたと思っていたが、今、新たな道が目の前に現れつつある。自分の中に眠る力を目覚めさせることで、彼女は再び立ち上がることができるのかもしれない。
「私は…その力を使えるようになれるでしょうか?」
不安げに問いかけるレティシアに、マルタは力強くうなずいた。
「はい、レティシア様。あなたなら必ずや、その力を正しく使いこなすことができるはずです。そして、その力こそが、あなたを新たな運命へと導いてくれるでしょう。」
レティシアはその言葉を心に刻み込んだ。自分が持つ力を信じ、それを解き放つ時が来たのだと。
「わかりました、マルタ。私はこの力を学び、使いこなしてみせます。もう、誰にも傷つけられないために。」
そう決意したレティシアの瞳には、再び強い輝きが宿っていた。これから彼女が進む道は、決して平坦ではないだろう。しかし、今の彼女には、それを切り開く力が確かに備わっていた。
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