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第2章:新しい日々と隠された陰謀
しおりを挟むアルテア・グラウンドルは、婚約破棄から数日後も、以前と変わらない優雅な生活を送っていた。王宮での一件が大きな噂となり、貴族たちの間で彼女の名はさらに広がったが、彼女自身はそれを意に介さない様子だった。むしろ、婚約者という足枷を失ったことで、より自由を感じていた。
その日の朝、アルテアは父である侯爵との朝食を共にしていた。
「婚約破棄の件だが、まだ噂が絶えないようだな。」
侯爵は食事をしながら呟くように言った。
「ええ、でも問題ありません。噂など、いずれ消えるものです。」
アルテアはフォークを持ちながら淡々と答えた。
「それに、私が何もしていなくても、エドガー殿下とセリアが新たな話題を提供してくれるでしょうから。」
その冷静な分析に、侯爵は苦笑するほかなかった。
---
午前中、アルテアは図書室で過ごしていた。彼女の趣味である学問への探究は、自由を得た今、さらに深まっていた。本を読みながら、ふと考えた。
(セリアという平民の娘。彼女はただの恋人として殿下に近づいただけではない。背後に何かがある……)
アルテアは自分の直感を信じることにしていた。セリアの行動には不審な点が多かった。平民でありながら貴族たちの輪に入り込むための術を知り尽くしているかのようだった。何か裏がある、と彼女は確信していた。
---
その日の午後、アルテアは社交界の集まりに参加した。婚約破棄後の彼女に対し、同情や興味を抱く人々が多く、彼女が現れると会場は一気に賑わった。
「アルテア様、あの出来事の後もこんなにお美しいなんて……!」
「まったく第一王子殿下は何を考えているのでしょうね?」
「平民の娘に心を奪われるなんて、愚かしい限りですわ。」
集まる女性たちが口々にそう言う中、アルテアは軽く微笑みながら会話を受け流した。彼女は自分の地位を守る術を知っていた。それは表面上の感情を上手に隠し、相手に合わせる技術だ。
「まあ、私はただ自由になれたことを喜んでいるだけですわ。」
そうさらりと言うと、女性たちは再び彼女の強さに感嘆した。
---
その夜、アルテアのもとに密かに調査を進めていた侍女のリリアが報告に来た。
「お嬢様、セリアという平民についての新たな情報を入手しました。」
「そう、話してちょうだい。」
アルテアはリリアに椅子を勧め、じっと耳を傾けた。
「セリアはただの平民ではありません。彼女は裏社会に通じており、どうやらある商人の庇護を受けているようです。」
「庇護?」
「ええ。彼女が背後に持つ商人は、貴族たちの弱みを握って取引をしている人物です。その商人の支援を受けて、セリアは王宮に近づいたようです。」
アルテアは少し考え込んだ。
「つまり、セリアが殿下に近づいたのは、単なる愛情からではなく、計画的なものということね。」
「その可能性が高いです。」
リリアの言葉に、アルテアは静かに頷いた。
(このまま放置しておけば、いずれ王国全体に悪影響を及ぼすかもしれない。だが、私が動くのはまだ早い。証拠が十分に揃うまで待つべきだわ……)
---
翌日、アルテアは近隣の村で開かれる市に出かけることにした。息抜きのためだったが、それだけではない。貴族としての立場を活かして情報を集めるためでもあった。村では、普段では聞けないような庶民の噂が飛び交うことが多い。
「アルテア様、本日はご視察でございますか?」
「ええ、少し散歩がしたくて。」
彼女が微笑むと、村人たちは安心した様子で会話を続けた。
しばらく市場を歩いていると、ふと興味深い話を耳にする。
「平民の娘が王子様に取り入ったって噂、あれ本当かね?」
「ああ、本当さ。その娘、なんでも裏で怪しい商売をしてるって話だよ。」
「そういう奴に限って、いつか化けの皮が剥がれるもんさ。」
アルテアは立ち止まり、さりげなく話の続きを聞いた。確信はなかったが、彼女が集めていた情報と一致する部分が多い。この件をさらに深く調べる必要があると感じた。
---
帰宅後、アルテアは自室で書き物をしていた。
(エドガー殿下がどうなるかは私の知ったことではない。けれど、王国が危機に瀕するような事態は避けなければ……)
彼女は冷静に今後の行動を計画していた。あえて表立った動きを見せず、影で情報を集め続けることに決めた。侍女たちと信頼できる協力者を通じて、セリアの動向を追い続ける。
「自由になった今だからこそ、私はもっと賢く、もっと強くならなければならないわ。」
アルテアは自らにそう言い聞かせた。彼女の瞳には強い決意が宿っている。
この静かで優雅な侯爵令嬢が、やがて王国全体を揺るがす大きな力となることを、まだ誰も知らなかった。
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