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シンシア

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お雪の怠惰で優雅な日々は、何事もなく続いていた。豪華な部屋で目覚め、用意された美味しい食事を楽しみ、昼寝をする。夜には上質なお酒をたしなむ。これ以上望むものなどないような生活だった。

それに加えて、王子たちもお雪の口から事実が露見することを恐れているのか、一切の行事や儀式に呼び出されることはなかった。お雪は何もすることがなく、ただひたすら怠惰な日々を送ることができていた。

『これで本当にいいのか?こんな楽な生活で…』と一瞬不安がよぎるが、次の瞬間には、ふわふわのベッドに身を沈め、その不安もすぐに消え去ってしまう。

朝は日が高く昇ってからゆっくりと起き、メイドが用意した朝食をゆったりと味わう。食事が終わると、大きな窓から差し込む陽光を浴びながら再び昼寝。そんな生活が続いていた。

『もう、現世には戻れなくてもいいかもな…』と、お雪は考え始めていた。異世界での生活は想像以上に心地よく、何もする必要がないということが彼女にとって最高の贅沢だった。

王子たちもまた、お雪が何もすることなく、ただ存在しているだけで満足している様子だった。彼女が何かを要求することもなく、また、彼女自身が本物の聖女でないことを暴露する恐れもなさそうに見えたからだ。

『このまま、何もしなくて済むなら…ずっとこうしていられる』と、お雪は心の中でニヤリと笑った。

そんな平穏な日々が続く中で、お雪はいつしかこの異世界での生活に完全に馴染んでしまっていた。怠惰な日々を送りながらも、彼女は自分が偽聖女であることを忘れるほどに、この贅沢な生活を楽しんでいたのだ。


ある日、お雪がいつものように優雅な朝食を終えて昼寝をしようとしていた時、まだ幼さの残るメイドが部屋にやってきた。彼女は緊張した面持ちで、お雪に頭を下げながら言った。

「聖女様、クッキーをお持ちしました。お召し上がりになりますか?」

お雪はベッドから身を起こし、興味を引かれてそのクッキーに目を向けた。「ええ、いただくわ。あなたは?」

「はじめまして、シンシアといいます。聖女様」と、シンシアは丁寧に自己紹介をした。

お雪はクッキーを一口食べて、目を見開いた。「これは、とても美味しいわ。」

シンシアは嬉しそうに微笑んだ。「お口に合って嬉しいです。私が作ったのです。」

「シンシアちゃんが?すごいわ」とお雪は感心した様子で褒めた。

シンシアは頬を少し赤く染めながら、「ありがとうございます。あの、今日から、私が聖女様のお付きになります。よろしくお願いします。」と少し緊張しながら告げた。

お雪はシンシアを見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。「そうなの、よかったわ。あなたみたいな子がお付きになるなんて、とても嬉しいわ。」

シンシアはその言葉に感激し、深々とお辞儀をした。「ありがとうございます、聖女様。精一杯お仕えします!」

お雪は心の中で『こんなに素直で可愛い子が私の側にいてくれるなら、退屈な日々も少しは楽しくなるかもな…』と考えた。


その日の夕食、お雪がいつものようにダイニングに向かうと、すでにシンシアが食事を運んできていた。整然と並べられた料理の数々に、お雪は満足そうに微笑んだが、ふと目に入ったのは食卓に用意されたお酒のボトルだった。

「これは?」お雪は驚きと共に尋ねた。

シンシアはにっこりと笑って答えた。「はい、お雪様がお飲みになりたいと思い、ご用意いたしました。」

お雪は思わず目を細めた。『この子、本当に気が利くわね…』と心の中で感心しつつ、シンシアの気配りに感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとう。気が利くのね。あなたがお付きになってくれて助かるわ。」お雪は優しく微笑みながら言った。

しかし、シンシアは少し恥ずかしそうに俯きながら、心の中でつぶやいた。『毎日お飲みになるから、用意しただけで、気が利くなんて言われたら、はずかしい…』

彼女は顔を上げ、お雪に微笑み返しながら、「お雪様が快適に過ごせるように心がけております」と答えたが、その表情にはほんのりと赤みが差していた。

お雪はその様子に気づいたが、あえて追及せず、お酒をグラスに注いで一口飲んだ。「うん、美味しいわ」と言いながら、心の中で『この子、可愛いわね。本当に素直でいい子だわ』と感じた。



シンシアが夕食の準備をしている最中、お雪はふと感じた疑問を口にした。

「シンシアちゃん、こんなに私のために尽くしてくれて、本当にありがとう。でも…時々、あなた自身も休んでいるのかしら?」お雪は心配そうに尋ねた。

シンシアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻し、「私は聖女様のお役に立てるのが何よりの喜びです。それに、聖女様が幸せでいてくだされば、私も幸せですから」と答えた。

お雪はその言葉を聞き、優しく微笑んだが、同時に少し厳しい声色で言った。

「それは、いけないわ。お休みは、ちゃんと取ってね。あなたが体調を崩したりしたら、毎日の生活に不便をきたすわ。何よりも、私が悲しくなってしまうもの。」

シンシアはお雪の言葉に驚きと感動を覚え、目を潤ませながら答えた。「聖女様…ありがとうございます。私のことをそんなに気にかけてくださるなんて…」

お雪は軽く肩をすくめ、「当然のことよ。私にとってあなたは大切な存在なのだから。無理をせず、自分の体も大事にしてね」と言った。

シンシアは深々とお辞儀をし、「はい、聖女様のお言葉を胸に、これからも頑張ります。でも、無理はしません」と微笑んで答えた。

お雪はシンシアが笑顔を取り戻したのを見て、ほっとした。『この子がいないと、本当に困るもの。だから、ちゃんと休んで元気でいてもらわないとね』と心の中で決意した。

こうして、お雪とシンシアの間には、主従関係を超えた温かい信頼と友情が芽生え始めた。お雪はシンシアを大切に思い、シンシアもまたお雪に対して心からの忠誠と敬愛を捧げるようになっていった。




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