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異世界雪女

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「おお、なんと美しい聖女様に間違いない!」  
魔術師らしき男が、感激した様子で声を上げた。

「聖女?誰のことでしょう?」  
お雪は困惑しながら答えたが、内心では既に厄介なことに巻き込まれた予感を感じていた。『美しいはあってるけど聖女?とんでもねえ!私は、雪女じゃ!』

「あなた様が聖女様です!」  
魔術師は確信に満ちた表情で続けた。

「聖女ってなんですの?」  
『やばい!めんどくさいことに巻き込まれてる!』  
お雪は内心で叫びつつも、冷静を装った。

「聖なる力で世界を守り、導くお方のことです」  
魔術師は敬意を込めて説明する。

「わたしにそんな力はございませんが?」  
『世界を氷河期に導くならできるけど』  
お雪はどうにかこの状況を抜け出そうとしたが、内心では『ああっ、やっぱりめんどうなやつだ、どうしよう?』と焦り始めた。

「あなた様には、人知を超えた力を感じます。聖女様に違いありません!」  
魔術師は引き下がらない。

『人知を超えた?そりゃ雪女だからな!人じゃねーよ!』  
お雪は内心でツッコミを入れたが、当然のように口には出せない。

その時、一際立派な衣装を纏った若い男が前に進み出た。「私はこの国の第一王子、イディオットといいます。ぜひ、聖女様のお名前をお教えください」

「ですから、聖女ではありません。私は、お雪と申します」  
お雪は困ったように答えるが、内心では『お前、小学生の時、通信簿に「人の話を聞かない」って書かれてたろう!』と、彼の頑固さに呆れていた。

「雪姫様ですか!」  
魔術師長フールが、勝手に姫扱いする。

『本名ヤメローッ!』  
偶然にもお雪の本名は「雪姫」だった。

お雪が自ら聖女でないと告白したにもかかわらず、王子と魔術師たちは事態の重大さを理解していない様子だった。魔術師が再び口を開いた。

「では、本当に聖女様ではないのですか?」

お雪は内心でため息をつきながら、素直に答えた。「はい。残念ながら。」

『こいつのほうが話が通じそうだ』お雪は魔術師の問いかけに少しだけ希望を感じた。

しかし、次の瞬間、魔術師は焦りの色を浮かべながら殿下に向き直った。「で、殿下、まずいです。これは、我々は、責任を問われるやもしれません。」

『ああ、こいつもだめだ!』お雪は再び失望の念を抱いた。何とかして、この面倒な状況を避ける方法を考えなければならなかった。

「責任?」  
王子は訝しげに魔術師を見つめる。

「聖女の召喚失敗の責任です。」  
魔術師の言葉に王子の表情が一変したが、すぐに冷静を取り戻し、傲慢な笑みを浮かべた。

「失敗?聖女なら、ここにおるではないか。」

「しかし、かの方は、聖女ではないと…」  
魔術師はあくまで正論を述べようとしたが、王子はそれを一蹴した。

「本人が自称してるだけではないか!我々が聖女として認めればいいだけだ。」

お雪は目を丸くし、戸惑いを隠せなかった。口に出す言葉も内なる声も、あり得ないほどに動揺する。

「え?」

『え?何をお言い出すんだ、この馬鹿王子!自称聖女と言うならまだしも、聖女でないことを自称してるって表現おかしいだろう!』  
お雪の心の中は混乱と苛立ちでいっぱいだった。

彼らは、聖女でないことを知って黙認し、聖女に祀り上げようというのだ。

お雪がどうにかしてこの厄介な状況から抜け出そうと考えている間、王子と魔術師たちは何やらコソコソと話し合っていた。その様子を見て、お雪はますます不安を募らせた。

しばらくして、王子が振り向き、お雪に向かって真剣な表情で話し始めた。「聖女様、我々の国は窮地にあります。魔王が目覚めようとしてるのです。ぜひお力添えを。」

お雪はすかさず反論した。「ですから、私は聖女ではありません。」

『いい加減理解しろ!』内心で叫ぶお雪をよそに、王子は頷きながら続けた。

「ご主張は、理解しております。」

『うそつけ!』お雪は王子の言葉をまったく信用できなかった。

「でも、大丈夫。」

『なにがだよ?』お雪はますます警戒心を強めた。

「聖女だということにしてもらえばいいのです。」

「え?」お雪は思わず問い返す。『こいつ、ひらきなおりやがった。』

「偽聖女をやれと?」

しかし、王子は微笑みながら言った。「にせものではありません。我々が本物だと思えば、それが本物なのです。」

『こいつら~』お雪は内心で怒りがこみ上げてくるのを感じたが、それでも冷静を保とうとした。

「では、そういうことで。」王子は軽く手を振り、あたかも話がまとまったかのように言い放った。

『なにがそういうことだ!』お雪は内心でツッコミを入れつつ、次の質問を投げかけた。「偽物だと発覚してしまったら、わたしひとりに責任を押しつけるつもりなのでしょうか?」

王子と魔術師たちは一瞬顔を見合わせたが、次の瞬間にはにこやかに笑い返してきた。「そんなことはありませんよ。聖女様の安全は我々が全力で守りますから、どうぞご安心を。」

『全然安心できないんだよ!』

お雪は、王子たちの強引な提案に対してどうにかして断りたいという思いを抱きながらも、微笑みを浮かべて言った。

「私には、人々を欺くようなことはできません。どうか、お許しください。」

『こっちが下手に出てるうちだぞ!』お雪は、爆発寸前だったが、表面上は慎ましく対応している。

王子は少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、「聖女様、決してだますというわけではありません。我々の国を救うための協力をお願いしているだけなのです」と言葉を続けた。

「詐欺の片棒を担げと?」  
お雪の物静かな声には、辛辣さがにじんでいた。

『協力って言うけど、これって詐欺じゃないか?』お雪は心の中でツッコミを入れつつも、どうにかしてこの状況を避ける方法を考えていた。しかし、王子と魔術師たちの強引な態度は揺るがない。

「国民たちは、聖女様の力を必要としています。あなたの存在が彼らに希望を与えるのです。」王子はさらに追い打ちをかけるように言った。

『私は、必要と認めんがな!』

しかし、王子たちはなおもお雪を説得しようと続けた。

「私一人にリスクばかり押し付けられましても」と、お雪は再び拒絶の姿勢を見せた。

すると、王子は急に親しげな笑みを浮かべ、「いやいや、報酬をお支払いします」と提案してきた。

「報酬?」お雪はその言葉に思わず眉をひそめた。「お金で私を丸め込むおつもりですか? 私がそんな女に見えまして?」

『報酬?いくら出す?実は、そんな女なのさ!』内心ではそう思いながらも、お雪は表向きは誠実さを装った。

王子は続けて、「決してそのようなことはありません。あなたの協力に対して正当な対価として謝礼をお渡ししたいだけです。望むものは何でも手に入るでしょう」とさらに誘いをかけてきた。

お雪はしばらく考え込んだ後、心の中で『これで面倒を避けられるなら、少しは楽しめるかもな…』と考えを巡らせた。彼女は、日々の怠惰な生活を何よりも大切にしており、その生活が保証されるのであれば、少しぐらいの妥協は許容範囲内だと感じ始めた。

「それで…具体的にはどのような報酬が?」お雪は少しずつ興味を示し始めた。

王子は彼女の反応を見て、満足そうに微笑んだ。「豪華な生活、何不自由ない暮らし、そして私たちの国で最も素晴らしい待遇を約束します。」

お雪は表情を緩め、「なるほど、そういうことですか」と口元に微笑を浮かべた。

『これで三食昼寝付き、しかも酒飲み放題の生活が手に入るなら…』お雪は内心で決意し、王子たちに向かって軽く頷いた。「では、少し考えてみます。」

お雪は王子たちの報酬の提案に少し興味を持ち始めたが、それでも自分の怠惰な生活を守ることが最優先だった。彼女は、王子たちに向かって冷静な口調で尋ねた。

「聖女とは、何らかの儀式を行ったりするのですか?そういう事には、協力できません。人前で人を欺く行為には賛成できません。」

『堅苦しそうな面倒な儀式に担ぎ出されるのは、ゴメンだわ』

お雪は真剣な表情を装いながらも、内心では『面倒くさいことは、やりたくないの!ダラダラ暮らしてただ飯食わせろ!』と強く主張していた。

王子と魔術師たちはお雪の言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直し、王子が再び話し始めた。「もちろん、無理に何かをさせるつもりはありません。聖女様がいてくださるだけで、国民は安心し、希望を持つのです。」

お雪は内心でほくそ笑んだ。『これならいけるかも…』「人々を欺くようなことを何もしなくて良いと言うなら、あなたがたをお助けするのもやぶさかではありませんが。」


「つまり、私はただここにいるだけで良いということですか?」お雪は念を押すように確認した。

王子は頷きながら答えた。「ええ、まさにその通りです。何もしなくて構いません。聖女様の存在が、この国にとって何よりの支えとなるのです。」

『よっしゃーっ』心のなかでガッツポーズをするお雪は満足そうに微笑み、内心では『ただ飯食わせてくれるなら、悪くない話だ』と考えていた。

「わかりました。それならば、お力になりましょう。ただし、本当に何もしなくていいのですね?」お雪はもう一度確認した。

「はい、何もしなくて結構です。聖女様のご意志を尊重します。」王子は穏やかに答えた。

『よし、これで面倒ごとは回避できた』お雪は心の中でもう一度ガッツポーズを取った。そして、彼女はついに偽聖女としての役割を受け入れることにした。
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