魔女は、裁けない

4家族の拷問と苦しみ

マリーカが教会の地下牢に連行され、最初に待ち受けていたのは、形式ばかりの尋問だった。教会の司祭たちは、魔女として告発された者に対し、拷問を加え自白を引き出すことで、罪を認めさせるのが常だった。しかし、彼らは最初からマリーカが「魔女」であると知っており、拷問そのものが無意味であることを分かっていた。

「西の森の魔女、マリーカ。我々はお前を正式に尋問し、魔女であることを自白させる。さあ、自白するのだ」

一人の司祭が冷たく告げる。だが、マリーカは彼の言葉に少しも動揺せず、淡々と答えた。

「自白しろ？最初から私は魔女だって認めているでしょう？何度も言わせるなんて、時間の無駄よ。」

マリーカは、静かに司祭たちを見つめた。彼女の表情は穏やかで、恐怖や後悔の色は一切見えない。むしろ、司祭たちの無駄な行動に対して、軽い失望を感じているようだった。

「くそっ……こしゃくな女め！」

司祭たちは、マリーカの態度に怒りをあらわにした。魔女が自分たちに恐れを見せず、堂々と魔女であることを宣言するとは、想像すらしていなかったのだ。これまでの魔女裁判では、罪を認めない者に対して拷問を繰り返し、最後には誰もが泣き叫びながら自白する。しかし、マリーカは最初から自白し、なおも冷静な態度を保っていた。

「準備ができ次第、処刑してやる。お前の無礼さには我慢ならない！」

司祭たちは、苛立ちを隠すことなくマリーカにそう告げた。だが、マリーカは少しも動揺せず、再び微笑みを浮かべた。

「ふぅん、できるかしら？あなたたちに、そんな力があればの話だけれど。」

マリーカの冷静な態度は、さらに司祭たちの怒りを煽った。彼らにとって、魔女は恐るべき存在であり、捕らえた以上はその力を封じることが当然だった。しかし、マリーカは自分の力に絶対的な自信を持ち、彼らの処刑がうまくいくとは思っていないようだった。


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その一方で、教会の地下牢には別の囚人たちもいた。彼らは、マリーカと同じく魔女として告発された者たちであったが、その多くは無実の人々だった。教会は、魔女裁判の名の下に多くの無実の人々を捕らえ、拷問を行ってきた。その結果、何人もの罪のない者たちが、魔女として処刑されていた。

「自白しろ！そうすれば、少しは楽にしてやる！」

別の司祭が、隣の牢にいる女性に向かって叫んでいた。女性は、涙ながらに無実を訴えていたが、司祭たちはその声に耳を貸さなかった。

「私は魔女じゃない……お願いです、信じてください！」

女性の悲痛な叫びが、地下牢の冷たい壁に反響した。彼女の声は震え、拷問による恐怖と痛みに耐えかねていた。

だが、司祭たちはその訴えに耳を貸すことなく、さらに拷問を続けた。彼らの目的は、魔女の自白を引き出すことであり、それが無実かどうかは関係なかった。裁判は、教会の権力を強化するための単なる手段にすぎず、犠牲者が誰であろうと教会の正義が揺らぐことはなかった。

「もう抵抗するな。お前が魔女であることは明白なのだ。さあ、自白しろ！」

司祭の冷酷な声が響き渡る。女性は必死に抵抗していたが、次第にその声は弱まっていった。彼女の体力は限界に達し、精神的な苦痛もピークに達していた。そして、ついに彼女は耐えきれずに口を開いた。

「……私……私は……魔女です……」

その一言が発せられると、司祭たちは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。彼らにとって、この自白は「正義の勝利」であり、教会の力を示すものだった。

しかし、その瞬間、拷問を担当していた司祭の顔が青ざめた。女性の顔をよく見ると、彼女は自分の家族であることに気づいたのだ。司祭は驚愕し、足元が崩れるような感覚に襲われた。

「お前……まさか……」

司祭は言葉を失い、目の前の女性が自分の妹であることに気づいたのだ。長い間教会の命令に従い、魔女裁判を行ってきた彼だったが、まさか自分の家族が犠牲になるとは思ってもみなかった。

隣の牢にいた別の司祭もまた、拷問していた女性が自分の娘であることに気づき、愕然としていた。彼らは、自分たちが教会の正義を信じ、無実の者たちを次々と裁いてきたが、その結果がこのような悲劇を生むとは思っていなかった。

「どうして……どうしてこんなことに……」

司祭たちは、家族を傷つけたという現実に直面し、その場で崩れ落ちた。彼らが追い求めてきた「正義」は、一体何だったのか。無実の人々を裁き、命を奪うことが本当に正しいことだったのか。彼らの信じてきたものが、一瞬にして崩れ去ったのだ。

その光景を、マリーカは冷静に見つめていた。彼女は何も言わなかったが、心の中では全てを理解していた。教会が追い求めた正義は、結局のところ虚構に過ぎず、その犠牲者は無実の人々だった。そして、今その正義が、自らの手で崩壊し始めていた。

「これが、あなたたちが追い求めたものよ。」

マリーカは心の中でそう呟いた。彼女にとって、教会の正義は最初から欺瞞に満ちていた。無実の者たちを裁き、その罪を着せるという行為自体が、不条理であり、無意味だった。そして今、その不条理の結果が、司祭たち自身の家族に降りかかっていた。

「魔女狩りは、こんなものよ……」

マリーカは、冷静な態度を保ちながら司祭たちの崩壊を見守った。彼女には、もう何も恐れるものはなかった。そして、彼女の微笑みは、すべてを見透かしたかのように冷ややかだった。

やがて、処刑の準備が整えられることになるが、その時には、すでに司祭たちの心は揺れ動き、何が正義で何が罪なのか、混乱の中に包まれていたのだった。