偽りの契約結婚から真実の愛へ

第二章：「屈辱と真実」

アズール・ベントレーは結婚生活が始まって数週間が過ぎた頃、夫ライオネル・ブラックウッドの冷淡さと無関心さに再び直面していた。彼は彼女に対して、社交界では優雅な態度で接し、まるで愛情深い夫であるかのように振る舞うが、二人きりになると彼の態度は一変する。アズールは彼が一切の感情を込めずに接することに、次第に深い虚しさを感じるようになっていた。

ある日、アズールはライオネルの行動に疑念を抱くきっかけとなる出来事に遭遇した。彼女は偶然、ライオネルの書斎で彼が何かを熱心に書き留めているのを見かけた。ふだんは冷静で無表情な彼が、珍しく興奮した様子で何かを書き記しているのを見て、アズールは不安を覚えた。まるで彼が、何か秘密の計画を立てているかのようだった。

その夜、彼の態度がいつもより冷たく感じられ、彼女はそれとなく尋ねた。「ライオネル様、最近とても忙しそうですね。何か大きな計画があるのですか？」

ライオネルは一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに冷ややかな微笑みを浮かべて答えた。「君には関係のないことだ。余計な詮索はしないでくれ。君の役目は、私の妻として私に従うことだけだよ」

その言葉に、アズールの心は傷ついた。彼女の存在は、彼にとってただの飾りであり、利用価値のある道具に過ぎないのだと再認識させられた。だが、彼女の心には新たな決意が芽生えていた。このまま無力な妻であり続けるのではなく、彼が何を企んでいるのかを知り、その上で自分の未来を切り開くために戦うことを。

日が経つにつれ、アズールはライオネルの動向を注意深く観察するようになった。彼は頻繁に外出し、夜遅くに帰宅することが増えた。さらに彼の書斎には常に鍵がかかっており、アズールは入ることが許されなかった。彼が何を隠しているのか、ますます興味が湧いてくる一方で、不安も募っていった。

ある晩、アズールは夫の書斎に忍び込むことを決意した。ライオネルが夜の会合に出かけ、しばらく帰らないと知っていたため、チャンスだと考えたのだ。鍵はすでに彼の部屋から密かに盗み出しており、音を立てないように書斎の扉を開けた。

中に入ると、重厚な家具と膨大な書類の山が目に入った。机の上には彼の筆跡で埋め尽くされた書類が並んでいた。彼女は震える手でその一枚を取り上げ、目を通した。そこに書かれていたのは、驚くべき内容だった。ライオネルは、他の貴族や商人たちと手を組み、ベントレー家の財産や権力を自分のものにするための計画を練っていたのだ。

その計画書の中には、アズール自身の存在もまた「取引材料」として記されていた。彼女は、その場で膝が震え、冷たい汗が背中を流れるのを感じた。夫は単なる夫ではなく、自分の家族の富と地位を奪おうとする裏切り者だったのだ。アズールの胸には、怒りと屈辱が込み上げてきた。

さらに、彼の書斎の奥にある引き出しを開けると、彼が他の女性と交わした手紙が見つかった。その手紙には愛情の言葉が綴られており、彼がアズールに向けたものとはまるで違う温かさが込められていた。彼は、妻であるアズールを軽んじながらも、別の女性に本気で恋をしているようだった。

「こんな…馬鹿げたことが…」アズールは呆然と呟いた。自分の価値を見出そうと努力していた日々が、まるで無意味だったかのように思えた。しかし、彼女はここで屈服するつもりはなかった。この屈辱を乗り越え、必ずやライオネルに対する復讐を果たすと心に誓った。

その夜、アズールは涙を流さずにただ静かに眠りについた。そして翌朝、彼の前での態度を一変させた。彼が望む通り、完璧な貴婦人として振る舞うことを決意したのだ。ただし、これは彼に従うためではなく、彼の計画を阻むための仮面として。

数日後、アズールは密かに自分の味方を探し始めた。信頼できる友人や使用人に助けを求め、ライオネルの悪事を暴く手助けをしてもらうよう頼んだ。彼女は徐々に証拠を集め、彼の計画の全貌を明らかにするための準備を進めていった。

表向きは、ライオネルに従順で忠実な妻を装いながらも、彼女は内心では冷酷な計画を練り上げていた。彼がどれほど冷酷な男であっても、アズールは自分を守るために戦う覚悟を決めたのだ。もはや彼女は、ただの飾り物として扱われることを許さないと心に誓っていた。

ある夜、ライオネルがまた外出している間、アズールは召使いたちと密かに会合を開いた。「私はライオネル公爵家の未来のために何もできない、ただの飾りではありません」と彼女は静かに宣言した。「彼の計画を阻止するために、皆さんの力を借りたいのです」

召使いたちは驚きつつも、彼女の真剣な目を見て、その決意に打たれたようだった。彼らもまた、ライオネルの横暴に不満を抱いており、アズールの意志に応えたいと感じていた。こうして、彼女は密かに味方を増やし、夫に対する抵抗の準備を整えていった。

アズールは、静かに心の中で誓った。この偽りと裏切りの結婚生活に、終止符を打つ日が来るまで、決して諦めないと。