小さな天使‐公爵家のリリス‐

公爵家のリリス

終章: 帰還と反省

リリスが突然いなくなったその夜、何事もなかったかのように屋敷へ戻ってきた。公爵夫人は、リリスがどこへ行っていたのか、何をしていたのかを尋ねるが、言葉を話せないリリスには答える術がない。ただ、静かに夫人の顔を見つめるばかりだ。

その後しばらくして、公爵が無事に屋敷へ帰還する。夫人は喜びのあまり公爵を抱きしめた。

「リリスはどこだ？ずっと会えなくて、会いたくて仕方がなかった。」

公爵が尋ねると、リリスは自分の部屋の前で、なぜか水の入ったバケツを手に持って立っていた。

「あれは一体…何をしているんだい？」

不思議そうに問いかける公爵に、夫人は小さく笑いながら答える。

「どうやら、反省しているみたいなの。」

「反省？何をだ？」

「昨日、夕食の時間にいなくなったことかしら？」

「君がそう命じたのかね？」

「いいえ、あんな反省の仕方、私、初めて見たわ。」

公爵と夫人は互いに目を合わせて、少し困惑した表情を浮かべた。

「リリス、いいのよ。私たちは怒ってなんかいないわ。あなたが無事に戻ってきてくれて、それが一番嬉しいんのよ。」

優しく言葉をかける夫人に、リリスは小さく首を横に振る。

「君は、何かそうしなければならないことをしてしまったのか？」

公爵の問いに、リリスはゆっくりと頷くが、その顔には困惑と不安が浮かんでいる。

「ひょっとして、私に関係することかな？」

公爵が尋ねると、リリスは困った顔をして答えない。その表情から何か重大なことがあったようだと察する。

「なるほど、あたりだな。ならば、私も君の隣に立つよ。」そう言って、公爵はメイドに水の入ったバケツを持ってくるように頼む。

「それじゃあ、私もバケツを持ってこなくちゃ。」と、夫人もまたメイドに頼む。

リリスはますます困惑した顔を見せ、どうすればいいのか分からなくなってしまった。

「リリス、君が止めれば、私たちもやめるよ。」公爵が優しく微笑みながら言う。

リリスはしばらく考えた後、バケツを床に置き、急に公爵と夫人に抱きつく。彼女の小さな体が二人の愛情に包まれる。

リリスが反省していたのは、大臣の家に忍び込んだことか、屋敷からいなくなったことか、それとも別のことか…。それは結局リリスにしか分からないままだ。

しかし、公爵夫妻にとっては、リリスが無事に戻り、また三人で一緒にいられることが何よりも大切なことだ。彼らの絆は、この事件を通じてさらに深まり、これからも共に平和な日々を過ごしていくのだろう。

**END**