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第一章:突然の婚約破棄

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ネレイド・フォン・ローゼンベルクは、この国でも指折りの名門であるローゼンベルク公爵家の一人娘である。銀色の髪は月光を思わせ、深い青の瞳は夜空に瞬く星々のように輝いていた。その美貌と知性、そして高貴な生まれから、彼女は社交界の花形として人々の注目を集めていた。

彼女は幼い頃から王太子アルベルトと婚約しており、将来の王妃としての教育を受けてきた。アルベルトとは幼馴染であり、互いに信頼し合う仲だった。彼女は王妃として国を支えることに誇りを持ち、その責務を果たすために日々努力を重ねていた。

ある日の夕刻、王宮で盛大な舞踏会が開催された。貴族や有力者たちが一堂に会し、美酒と音楽に酔いしれていた。ネレイドもまた、美しいドレスに身を包み、優雅に舞踏会に参加していた。

「ネレイド様、本日もお美しいですね」

「ありがとうございます」

彼女は微笑みながらも、どこか落ち着かない様子で周囲を見渡していた。実は、最近アルベルトとの間に微妙な距離を感じていたのだ。彼は忙しさを理由に、彼女との時間を減らしていた。

その時、ホールの中央でアルベルトが壇上に立った。金色の髪と緑の瞳が印象的な彼は、王太子としての風格を備えていた。

「皆様、本日はお集まりいただき感謝いたします。ここで一つ、重大な発表があります」

ざわめきが広がる中、ネレイドは彼の言葉に耳を傾けた。しかし、次の瞬間、彼女の心臓は凍りついた。

「私は本日をもって、ネレイド・フォン・ローゼンベルクとの婚約を破棄いたします。そして、新たにクラリッサ・エバンズ嬢と婚約することをここに宣言します」

信じられない光景が広がった。彼の隣には、妹のように親しくしていた男爵令嬢クラリッサが立っており、恥じらいながらも微笑んでいた。淡い金髪と柔らかな表情が特徴の彼女は、ネレイドにとって信頼できる友人の一人だった。

「なぜ…どうして…?」

周囲は騒然となり、貴族たちはひそひそと噂話を始めた。ネレイドは頭の中が真っ白になり、足元が揺らぐような感覚に襲われた。しかし、彼女は深呼吸をし、冷静さを取り戻した。

アルベルトは彼女の元へ歩み寄り、平然とした表情で言った。

「ネレイド、これまでの感謝の意を表します。しかし、私は真実の愛を見つけたのです。理解してくれるでしょう?」

彼の言葉に、ネレイドは心の奥底で怒りと悲しみが渦巻くのを感じた。しかし、公爵令嬢としての誇りが彼女を支えた。

「そうですか。あなたの選択を尊重いたします。どうかお幸せに」

彼女は静かに答え、優雅に一礼した。その姿は周囲の者たちに深い印象を与えた。

クラリッサは申し訳なさそうに視線を逸らしたが、アルベルトは満足げに微笑んでいた。

「理解してくれて嬉しいよ、ネレイド。これからは友人として接していこう」

その言葉に、彼女は内心で苦笑した。

「友人、ですか…」

彼女はその場を離れ、ホールの外へと向かった。夜風が彼女の頬を撫で、冷たさが心地よく感じられた。

「これが現実なのね」

ネレイドは星空を見上げ、自分のこれまでの努力や思い出が崩れ去るのを感じた。しかし、涙は流さなかった。彼女は強かった。

その時、背後から足音が聞こえた。振り返ると、親友のセシリアが心配そうな表情で立っていた。

「ネレイド、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。心配しないで」

セシリアは彼女の手を握り、優しく言った。

「無理をしないで。あなたの気持ちはわかっているから」

ネレイドは微笑み、彼女の手を握り返した。

「ありがとう、セシリア。でも本当に大丈夫。これからのことを考えないといけないわ」

その言葉に、セシリアは驚いた様子で彼女を見つめた。

「これからのこと?」

「ええ。私にはまだやるべきことがあるもの」

ネレイドは決意を秘めた瞳で前を向いた。彼女の中で、新たな道を歩む覚悟が芽生えていた。

舞踏会の喧騒から離れた庭園で、彼女は静かに未来を見据えていた。風に揺れる花々が、彼女の心を少しだけ癒してくれた。

「これからは自分のために生きるわ」

その言葉は、彼女自身への宣言だった。

夜空に輝く星々が、新たな旅立ちを祝福しているかのように瞬いていた。


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