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プロローグ

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冷たい空気が広がる王宮の大広間に、ざわつく貴族たちの声が響く。煌びやかなシャンデリアの下、紅の絨毯が敷かれた広間の中央には、一人の女性が立っていた。バレーノ・ドゥリオン、名門ドゥリオン家の令嬢。彼女は幼少期から比類なき美貌と知性を持ち、次期王妃として相応しいと誰もが信じていた。しかし今、その未来は突然終わりを告げようとしていた。

「バレーノ・ドゥリオン、君との婚約をここに破棄する。」

アルト王子の冷酷な声が響く。彼の横には、バレーノのかつての親友であったソフィアが立っている。ソフィアは勝ち誇った微笑を浮かべ、まるで自分が勝利者であるかのようにバレーノを見下していた。周囲の貴族たちの視線がバレーノに突き刺さる。

「理由はお分かりだろう?君の体は弱すぎる。これでは国を支える王妃としては不適格だ。」

アルトの言葉に、バレーノは微笑を浮かべた。まるで彼の言葉が子供じみた冗談であるかのように。その微笑は広間にいる誰一人として予想していなかったものだった。彼女が悲しむどころか、むしろ堂々とした態度を保っていることに、周囲は一瞬驚きで静まり返った。

「そうですか。」バレーノは静かに、しかし確固たる声で答えた。「では、これで失礼します。」

彼女は背筋を伸ばし、アルト王子とソフィアに一瞥も与えず、ゆっくりとその場を去った。華麗なドレスの裾が絨毯の上を滑るように揺れ、彼女の足取りには一片の迷いもなかった。

かつての名家の娘が婚約破棄をされた瞬間としては、異様なほど静かな幕引きだった。しかし、この瞬間が、彼女の人生を一変させる転機であり、彼女が真の力を発揮するための始まりに過ぎなかった。


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