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エピローグ:新たな人生

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アストールが消えてから数ヶ月が経った。魔界と人間界の均衡は、彼の犠牲によって保たれ、世界は再び安定を取り戻していた。しかし、その代償として、アメリアは愛する人を失い、深い孤独と悲しみに包まれていた。

アメリアは日々、魔王城に残された書物を読み漁り、魔界の歴史やアストールの足跡を辿っていた。彼がどれほどの重責を背負い、この世界を守り続けてきたか、そのすべてが彼女の心に痛烈に響いた。彼の決意、彼の苦しみ、そして彼が最後に託した未来――アメリアはそれを背負い続ける覚悟を決めていた。

「アストール様……私は、あなたが守ったこの世界を、私も守り続けます」

アメリアは城の最上階にあるバルコニーに立ち、広がる魔界の空を見上げながらつぶやいた。彼女の心の中には、悲しみと共に確かな決意が芽生えていた。アストールが託した力は、今も彼女の中に眠っている。それを無駄にすることは、彼への裏切りになる。そう考えたアメリアは、涙を堪えながら自らの力を磨き続けていた。


---

魔界の人々は、アメリアの存在を次第に認め始めていた。アストールの消滅後、彼女は魔界の平和を守るために、自ら前線に立つようになった。魔物たちの暴走や、人間界との衝突を防ぐため、彼女は魔王としての力を使い、両界の調和を維持していった。彼女の姿勢と決意に、多くの魔界の住民たちが心を動かされ、アメリアを新たな指導者として敬うようになっていった。

だが、彼女にとってそれは簡単な道ではなかった。アストールが築き上げたものを守るというプレッシャーと、彼自身がいない孤独が、常に彼女の心を蝕んでいた。しかし、それでも彼女は決して諦めなかった。彼女が立ち上がり続けることで、アストールが命を懸けて守ったものを無駄にしないためだ。

「私は、アストール様の意志を継ぎます。彼の残した力をもって、魔界と人間界の平和を保つ。それが、私の使命です」

アメリアは再び力強く宣言した。彼女はもう、かつての弱く迷っていた侯爵家の令嬢ではなかった。今の彼女は、魔王としての役割を全うするために自らを捧げ、世界を守る決意を固めた強い女性だった。


---

数年が経ち、アメリアの努力によって魔界と人間界は平穏を保っていた。人間界では「魔王アメリア」として彼女の存在が語り継がれ、彼女の名は尊敬の象徴として広まっていった。アストールの名前と共に、アメリアの物語もまた、歴史の一部として刻まれていったのだ。

だが、アメリア自身はその名声に囚われることなく、静かに日々を過ごしていた。城の中で彼女は、アストールが愛した魔界の美しさを守るために、日々その力を使い続けていた。

ある日、アメリアは再びあのバルコニーに立ち、魔界の広がる大空を見上げた。青空の向こうには、人間界もある。アストールが見守っていた世界を、今度は自分が守る番だ――その思いが彼女の胸に満ちていた。

「アストール様、私は今でもあなたを忘れていません。そして、これからも忘れることはないでしょう。あなたが守りたかったこの世界を、私はずっと守り続けます」

彼女の目には、もう涙はなかった。ただ、静かに、そして強く未来を見据えていた。

アメリアはその場で微笑み、小さく頷いた。それは、アストールへの最後の別れでもあり、これからの新たな人生への決意だった。彼女は一人ではなかった。彼が託した力と共に、彼の存在を胸に秘めながら、彼女は新たな道を歩み続けるのだった。

こうして、アメリアは過去の悲しみを乗り越え、新たな魔王としての人生を力強く歩み始めた。彼女の旅はまだ終わっていない――これからも彼女は、アストールの意志を継ぎ、世界を守るために戦い続けるだろう。

彼女の新たな人生は、ここから始まるのだった。



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