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第四章:王太子との再会

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アメリアが魔界での生活に少しずつ慣れ始めた頃、彼女の心の中にはまだ完全に払拭できない影があった。それは王太子エドワードとの屈辱的な婚約破棄の記憶だった。あの日、彼女は婚約を一方的に破棄され、すべてを失ったように感じた。だが、今の彼女には新たな道がある。魔王アストールと共に歩む道――それは、かつての自分を超え、誇り高く生きるための選択だった。

そんなある日、アストールがアメリアに話しかけた。

「アメリア、君に伝えなければならないことがある。王太子エドワードが魔界との交渉のためにこちらに来ることになった」

その言葉を聞いた瞬間、アメリアは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。エドワードがここに来る――それは、過去と再び対峙しなければならないことを意味していた。

「……エドワードが?」

アメリアは驚きと戸惑いを隠せなかった。彼女にとってエドワードは過去の存在であり、もう二度と顔を合わせることなどないと思っていた。だが、運命は皮肉にも、再び彼女を彼の前に立たせようとしていた。

「王国と魔界の関係を強化するための会談だ。彼は君に対して何か言葉をかけるかもしれないが、私は君を信じている。君なら、過去を乗り越えられるはずだ」

アストールは優しい声で語りかけ、アメリアの手をそっと握った。その温かさが、彼女に力を与える。彼の隣に立つことで、自分は過去を乗り越え、強くなれる――アメリアはそう信じた。


---

数日後、王太子エドワードを乗せた馬車が魔王の城に到着した。アメリアは、アストールと共に彼を出迎えるため、城の大広間に立っていた。胸の奥で鼓動が高鳴る。エドワードと再会する瞬間が迫っているのだ。

大広間の扉が開かれ、エドワードが堂々とした姿で入ってきた。その瞬間、アメリアは過去の記憶が一気に蘇るのを感じた。あの日、彼に裏切られた屈辱。彼にすべてを奪われた絶望。だが、今の彼女はあの時の弱いアメリアではない。彼女はアストールの側妃としてここに立っている。

「久しぶりだな、アメリア」

エドワードの声が大広間に響いた。彼は相変わらずの自信に満ちた笑みを浮かべ、アメリアに視線を向けていた。だが、その瞳に映るアメリアは、かつての彼女ではなく、まるで別人のように見えたのかもしれない。

「ええ、久しぶりですね。エドワード殿下」

アメリアは冷静な表情で返答した。彼女の中には、もうかつてのような動揺や恐怖はなかった。過去に囚われることなく、堂々とした態度で彼に向き合うことができていた。

「驚いたよ。君がここで、しかも魔王の側妃として生きているとはな」

エドワードの言葉には、わずかな驚きと興味が混じっていた。彼は、かつて自分が捨てた婚約者が、今や魔王の側で力強く生きていることに、少なからず戸惑いを感じているようだった。

「そうですね。あの時はあなたに捨てられ、未来を見失ったかのように感じていました。ですが、今の私は自分の道を見つけました。もう過去には戻りません」

アメリアの言葉は鋭く、そして決意に満ちていた。その言葉を聞いたエドワードは、一瞬表情を硬くしたが、すぐに笑みを浮かべた。

「なるほど、君は強くなったんだな。しかし、アメリア、君はまだ僕に対して何か感情を残しているのではないか?」

その言葉に、アメリアは冷静に返答した。

「いいえ、もう何もありません。私にとって、あなたは過去の存在です。今の私は、魔王アストール様と共に新しい未来を歩んでいます」

その言葉には一切の迷いがなかった。アメリアは本当にエドワードへの未練を断ち切り、アストールと共に新たな人生を歩む決意を固めていたのだ。

エドワードは、その冷たい返答に驚き、そして何か言い返そうとしたが、アストールが一歩前に進み出た。

「アメリアは私の側妃だ。彼女の未来は私と共にある。過去のことで彼女を煩わせることは許さない」

アストールの言葉は低く響き、その場の空気を一変させた。彼の存在感は圧倒的であり、エドワードでさえもそれを無視することはできなかった。彼は少し戸惑ったような表情を見せたが、すぐに微笑を浮かべ、軽く頭を下げた。

「そうか。ならば、彼女を大切にしてくれ、アストール」

エドワードの言葉には皮肉もなく、ただ淡々としたものだった。だが、その背後には、彼がアメリアに対して感じた何かしらの未練や後悔が隠れているように感じられた。

「それでは、話し合いを始めようか」

アストールがエドワードを会談の席へと誘導し、二人は大広間を後にした。アメリアはその場に一人残され、静かに息をついた。再会した瞬間は緊張で胸が高鳴ったが、今はすっきりとした気持ちだった。彼女は過去を乗り越え、エドワードに屈することなく、堂々と自分の立場を守ることができた。


---

夜、アストールが会談を終え、アメリアのもとへ戻ってきた。彼は穏やかな表情でアメリアを見つめ、微笑んだ。

「よくやったな、アメリア。君は本当に強くなった」

アメリアはその言葉に、心からの安心感を覚えた。そして、アストールの手を取り、静かに微笑んだ。

「ありがとうございます、アストール様。これで、私は本当に過去を乗り越えることができました」

そう言いながら、アメリアは自分がここに立っていることの意味を改めて噛み締めた。彼女は過去の自分を超え、今や誇り高い側妃として、新たな未来を歩み始めていたのだ。

こうして、アメリアは王太子との再会を通じて、過去の痛みを克服し、さらなる成長を遂げたのだった。

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