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第1章: 理不尽な婚約破棄

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王国に名高い公爵家の娘、レティシア・ファーランド。彼女は誰もが羨む美貌と教養を兼ね備えた淑女であり、貴族社会の中でも一目置かれる存在だった。しかし、そんな彼女にも悩みがあった。それは、婚約者である第一王子カイル・アストリアとの関係だ。

「レティシア、婚約を破棄する。」

その言葉が発せられたのは、ある日の宮殿の小さな部屋でのことだった。何の前触れもなく、突然の告知にレティシアは一瞬、言葉を失った。まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚が彼女を襲う。しかし、公爵家の娘としての自制心が働き、感情を表に出すことなく、ただ静かにカイルを見つめた。

「……理由を伺っても?」

冷静に尋ねたレティシアの声には、感情の揺れが全く感じられない。それでも、内心では自分がどうしてこのような目に遭わなければならないのか理解できずにいた。

カイルは彼女の反応に一瞬戸惑ったようだったが、すぐに不快そうな顔をしてため息をつく。

「理由だと?お前は冷酷で感情のない女だ。私は愛を感じたことなど一度もない。私が求めているのは、もっと心優しくて純真な女性だ。フローラ・ローレンティス嬢のような。」

カイルの口から出た名前に、レティシアはようやく事態を把握した。フローラ・ローレンティス。侯爵家の令嬢であり、最近、カイルの周囲で噂になっている女性だ。美しい金髪に柔和な笑顔、そしてまるで天使のような物腰。多くの男性貴族たちが彼女に夢中になっていた。

「あなたはフローラ嬢とお付き合いされているのですね。」

「そうだ。彼女こそが私の真の伴侶だ。お前のような冷たい女ではなく、心温かく、誰からも愛される女性だ。」

カイルの言葉に、レティシアは冷ややかな笑みを浮かべた。まるで子供のように浅はかで、自分の感情に流される王子の姿は哀れでさえあった。しかし、彼の言葉がレティシアの心に何の影響も与えないわけではなかった。彼女は確かに、カイルに対して感情を抱いていたのだ。少なくとも、かつては。

だが、今やその感情は冷めきっていた。

「わかりました。婚約は破棄いたしましょう。」

レティシアは毅然と答えた。周囲が驚くほどの落ち着きぶりで、カイルも一瞬、何かを言おうとして言葉を飲み込んだ。彼女がこんなに簡単に婚約破棄を受け入れるとは思っていなかったのだろう。

「……それでいい。お前に未練はない。」

カイルはそう言って立ち去ろうとしたが、レティシアはその背中に声をかけた。

「ただし、これから先、あなたが選んだ道が正しいとは限りませんわ。後悔されないよう、どうかご自愛くださいませ。」

その言葉には、彼女がカイルを完全に見限ったという冷たい決意が込められていた。カイルは振り返りもせずに、ただ部屋を出ていった。

部屋に一人残されたレティシアは、しばらくの間、何も言わずにその場に立ち尽くしていた。心の中では複雑な感情が渦巻いていた。婚約破棄は屈辱的な出来事だったが、どこかほっとしている自分もいた。カイルとの婚約が破棄されたことで、彼女の未来は大きく変わるだろう。しかし、それがどう変わるかはまだ誰にもわからなかった。


---

その夜、レティシアは自室に戻り、使用人たちに静かに退室するよう命じた。ベッドに座り、深く息をついた後、彼女は胸の内で抱えていた感情を吐き出した。

「冷酷で感情がない、ですって?」

彼女は苦笑しながら、自分が感情を押し殺して生きてきた過去を思い返した。幼い頃から、ファーランド家の次期当主としての責任を果たすため、彼女は常に自分の感情を抑え、完璧な淑女として振る舞ってきた。家族の期待、社会の目、全てが彼女に「完璧であること」を強要してきた。

しかし、カイルが言った「冷酷」という言葉は、彼女の本質ではなかった。彼女は感情を持たないわけではなく、ただそれを表に出さなかっただけだ。むしろ、彼女の内には深い情熱と強い意志が存在していた。

「もう、無理をする必要はないわ。」

レティシアは自分にそう言い聞かせた。婚約が破棄されたことで、彼女は自由になったのだ。もう誰にも自分を押さえつけられることはない。これからは、自分の道を自分で選び、進んでいく。


---

翌日、レティシアは早朝に書斎にこもり、これからの人生について冷静に考え始めた。彼女はまず、これまで自分が抑えてきた情熱に目を向けることにした。彼女が心から興味を持っていたのは、魔法学だった。幼い頃から魔法に興味を持っていたが、公爵令嬢としての役割を果たすために、それを表立って追求することはできなかった。しかし、今は違う。

「これからは、私の思うように生きる。」

レティシアは決意を新たにし、自分の力を高めるための計画を立て始めた。婚約破棄という出来事は、彼女にとって新たな始まりだった。そして、その先には彼女自身がまだ知らない新しい道が待っている。

こうして、公爵令嬢レティシアは再び歩き始めた。誰にも依存せず、自分自身の力で未来を切り開くために。




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