公爵令嬢アトラージュと偽りの婚約者

第二章: 裏切り者たちの素顔

婚約破棄から数日が経った。アトラージュは王宮の夜会で婚約を破棄された後も、平静を装い続けていた。けれども、胸の内には激しい怒りが渦巻いている。アトラージュは、エドワードの行動の背景にある真相を暴くべく、ひそかに動き出すことを決意した。彼の裏切りに何が隠されているのか、それを知ることで、自分が今後どう動くべきかが見えてくるはずだった。

アトラージュは家に戻ると、すぐに家族と信頼できる使用人たちに指示を出した。彼女の父であるルーファス公爵は、アトラージュの意思を尊重し、全力で協力することを約束してくれた。ルーファス家の家臣たちも、アトラージュの思いを汲んで、王太子エドワードと彼の新しい婚約者について徹底的な調査を開始した。

最初に明らかになったのは、エドワードが新たに選んだ婚約者の家族の背景だった。彼女の名はリリス。低い身分の貴族であり、特別な財力もなく、王宮での影響力も乏しい家柄の令嬢であることが判明した。彼女の父親はエドワードの家庭教師であり、エドワードが幼い頃から面倒を見てきた人物だ。そのため、リリスの家族とエドワードの間には長い付き合いがあり、信頼関係が築かれていた。

「彼は身分よりも信頼を取ったということかしら？」とアトラージュは最初は考えたが、それだけでは説明がつかない点が多すぎた。エドワードは王国の未来を担う王太子であり、その婚約者は国民からも支持を得られる存在でなければならない。しかし、リリスは知名度もなく、また王太子の婚約者にふさわしい実績や魅力もない。

更に深く調査を進めるうちに、アトラージュは驚愕の事実を知ることになる。エドワードがリリスの家族と密かに契約を結んでいたのだ。契約の内容は、リリスの家が王太子に忠誠を誓い、必要な情報や影響力を持つ者を抱え込む代わりに、エドワードはリリスを婚約者に選ぶというものだった。アトラージュは唖然とし、その契約内容が自分の家が拒否した案件と似通っていることに気付く。

ルーファス公爵家は、エドワードが要求してきた不当な条件を受け入れなかったため、王太子との関係がぎくしゃくしていた。アトラージュの父は娘の幸せを何よりも大切にしており、王太子がアトラージュを政略の駒として扱おうとしていると見抜いたとき、毅然としてその条件を拒否したのだ。それが原因でエドワードはリリスの家と新たな関係を築くことを決めたのである。

「私をただの駒としか見ていなかったということね…」

アトラージュの胸中に冷たい怒りが広がっていった。彼は愛や信頼ではなく、利害関係を基に婚約者を選んだのだと理解した瞬間、自分が裏切られただけでなく、尊厳まで踏みにじられたと感じた。エドワードの決断は、アトラージュの存在そのものを軽んじたも同然だった。

だが、エドワードに対する怒りと同時に、アトラージュはリリスに対しても不信感を抱かざるを得なかった。リリスの家がどれほどエドワードに忠誠を誓っていたとしても、婚約が取引の一部に過ぎないという事実に何も感じていないのだろうか。彼女は本当にエドワードを愛しているのか、あるいはただ家のために王太子の婚約者の座を利用しようとしているのか。リリスの冷徹な計算高さを感じ取り、アトラージュはますます彼女を疑わしく思うようになった。

「彼女も、エドワードと同じく、愛よりも権力を選んだのね」とアトラージュは内心で冷笑した。かつて自分が愛し、信じていた相手が、これほど浅ましい形で自分を裏切ったのかと思うと、憤りと同時に失望が沸き上がってくる。アトラージュは、このままでは済まさないと心に誓い、王太子とリリスの偽りの関係を暴く計画を立て始めた。

彼女は冷静さを保ち、次第にエドワードとリリスの関係を詳しく調べ上げる。そして、二人の間に隠された取引の全貌を知ったアトラージュは、ついに彼らに対する反撃の準備を整える。

「彼らに私を駒にしたことを後悔させてやるわ」と心に誓い、アトラージュは新たな決意を胸に抱いた。そして、この裏切り者たちに相応しい罰を与えるために、彼女は行動を開始するのだった。