婚約破棄されたけど、もう一度求婚？お断りします！

第三章：王宮の波乱と嫉妬

リリアーナが自身の人生を切り開き、事業家として成功を収める一方、王宮では一つの不協和音が鳴り響いていた。それは、王太子アレクシスと新しい婚約者であるエレナとの関係だった。

婚約破棄が正式に成立した後、王太子アレクシスはすぐにエレナを公式の婚約者として迎え入れた。彼は「平民との純粋な愛こそが真実だ」と公言し、周囲の反対を押し切ってエレナとの婚約を進めた。しかし、その関係は理想的なものではなく、むしろ逆に王宮内での混乱を引き起こす結果となっていた。

エレナは平民出身であり、王宮での生活に慣れていなかった。彼女はもともと王宮の使用人として働いていたが、貴族社会の複雑なルールや礼儀作法、そして政治的な駆け引きに疎く、周囲からは冷ややかな視線を浴びることが多かった。エレナ自身も、自分がこの高貴な世界に合わないことを痛感しており、次第にプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

最も大きな問題は、アレクシスが彼女を支えるどころか、むしろ彼女を窮地に追い込むような言動を取ることだった。王太子としての彼は、リリアーナと共にいた時には常に完璧な振る舞いを見せていたが、エレナとの関係では、彼女に対して冷たい態度を見せることが増えていた。特にエレナが公式の場で失敗した時、彼はそれをフォローせず、むしろ非難するような言葉を投げかけた。

「どうしてこんな簡単なこともできないんだ、エレナ。君は王妃になるべき人間ではないのか？」

アレクシスのその言葉に、エレナは涙をこらえるのが精一杯だった。彼女は王宮での生活に必死で適応しようと努力していたが、その努力は報われることなく、失敗ばかりが目立つようになっていた。

やがて、王宮内でもエレナに対する不満が高まり、彼女が王妃としての役割を果たすにはあまりにも不十分だという意見が広がっていった。その一方で、リリアーナの評判はますます高まっていた。彼女のブランド「レグレア・コレクション」は貴族女性たちの間で絶大な人気を誇り、リリアーナが王太子の婚約者であったならば、どれほど王宮に貢献していただろうという声が上がり始めた。

リリアーナ自身は王宮の噂には興味を持たず、自分の事業に集中していたが、その成功はやはり無視できないほどの影響力を持っていた。特に、彼女のブランドが次々と新しい商品を発表し、そのどれもが大ヒットを記録していることは、王宮内の女性たちの間でも話題となっていた。

そんな状況の中で、アレクシスは次第にリリアーナのことを思い出すようになっていた。彼はかつて、リリアーナが王妃にふさわしい女性であることを理解していたが、エレナとの「真実の愛」に目がくらみ、それを手放してしまった。そして今、その判断が間違っていたことに気付き始めたのだ。

「リリアーナ……彼女はやはり、王妃として完璧だった……」

アレクシスは何度もそのことを考えた。エレナとの関係は次第に冷え切り、彼女に対する苛立ちは募るばかりだった。エレナは王妃としての役割を果たすことができず、彼女との会話も徐々に減っていった。彼は次第にリリアーナと過ごした時間を思い返すようになり、彼女の知性や優雅さ、そして自分を支えてくれた献身的な姿勢がどれほど大切だったかを痛感するようになった。

そんな折、王宮の晩餐会でリリアーナの話題が再び取り沙汰された。ある貴族が「レグレア・コレクション」の最新のドレスを着ており、そのデザインの素晴らしさに多くの人々が称賛の声を上げていた。

「これは、リリアーナ様のブランドですわ。本当に見事なデザインでしょう？　彼女のセンスには感服いたします。」

その言葉を聞いたアレクシスは、胸が痛むような感覚を覚えた。かつて自分の婚約者だった女性が、今や王宮内で大きな成功を収めている。その一方で、自分はエレナとの関係で失敗し、彼女をうまく導くことができていない。アレクシスは自分の判断が間違っていたのではないかという後悔の念に苛まれるようになった。

ある日、ついにアレクシスは決意を固めた。彼はリリアーナに再び接触し、婚約をやり直すことを提案しようと考えた。彼は、リリアーナがまだ自分に対して感情を持っているかもしれないと期待していた。彼女ならば、自分の過ちを許し、再び共に未来を歩んでくれるのではないか――そんな淡い希望を抱いていたのだ。

「リリアーナ……」

アレクシスは胸の内で彼女の名前を繰り返しながら、彼女に会うための計画を立て始めた。

一方、リリアーナはそんな彼の意図に全く気付いていなかった。彼女にとって、アレクシスとの過去は既に乗り越えたものであり、今の彼女にとっては事業の成功が何よりも重要だった。彼女は次々と新しいデザインを発表し、ブランドの展開を拡大させるための計画を進めていた。

しかし、アレクシスが再び彼女の前に現れる日が、刻一刻と近づいていた。彼女の成功が、彼の中で再び炎を灯し、失ったものを取り戻したいという欲望を掻き立てていたのだ。

だが、その時が来たとしても、リリアーナはもう過去の自分ではなかった。彼女は既に自分の道を見つけ、そこを歩み始めていたのだから。