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第3章:陰謀の正体

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リリィアとジークは次なる目的地へと進んでいた。彼らの足取りは軽快ではなかったが、確実に前へと進んでいた。次の目的地は、辺境のさらに奥にある古代の遺跡であり、かつての封印術を解明する手がかりが隠されていると言われている場所だった。

リリィアは、ジークと共に歩きながらも心の中では王都のことを思い返していた。自分が追放された裏には、明らかに何かしらの陰謀がある。王太子カインとの婚約破棄は単なる偶然ではなく、背後で誰かが糸を引いていると感じていた。その考えが彼女の中で次第に大きくなり、疑念が深まっていた。

「ジーク、あなたは私のことをどこまで知っているの?」

旅の途中、リリィアはふと疑問を口にした。彼は明らかに普通の剣士ではなく、彼女の過去や能力についても何かしらの情報を持っている様子だった。しかし、ジークはリリィアに対してそれ以上の詳細を語らなかった。

ジークは一瞬歩みを止め、静かにリリィアを見つめた。彼の表情は冷静で、何かを隠しているような目つきだったが、少しの沈黙の後に口を開いた。

「お前が世界の調律者であるということは知っている。俺は、お前が追放される前からその役割を担っていることを感じていた。そして今、お前の力が必要だと思っているだけだ。」

リリィアはその言葉に驚きつつも、ジークの言うことには不安を感じていた。彼は自分を助けるために現れたと言っているが、その目的や背景は依然として謎のままだった。

「調律者……?私がそんな力を持っているなんて、どうしてあなたは知っているの?」

リリィアの問いに、ジークは目を伏せた。

「俺は詳しくは知らない。ただ、俺には感じることができるんだ。お前がこの世界の均衡を保つ存在であり、お前がいなくなれば世界が崩壊する運命にあることを。」

リリィアはその言葉を聞いて、少しだけ納得した。自分が追放されることで世界が異変に見舞われたのは事実だ。そして、その異変がどれほどの規模で広がっているのか、まだ彼女自身も完全には理解していなかった。

「私が追放されたことで世界のバランスが崩れたというのは……本当なのね。でも、それを元に戻すために、私はどうすればいいの?」

リリィアの問いに、ジークは肩をすくめた。

「それを探るために、俺たちは今こうして旅をしているんだ。古代の遺跡に行けば、何かしらの答えが見つかるかもしれない。」

リリィアは黙って頷いた。そして、彼らは再び歩みを進めた。


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王都の陰謀

一方、王都では不穏な動きが表面化し始めていた。リリィアが追放された後、王太子カインは彼女のことを徐々に気にし始めていた。彼はエミリア公爵令嬢との婚約を進めていたが、その心の奥底ではリリィアへの未練がくすぶっていた。

ある日、カインは王宮の庭園でエミリアと会っていた。彼女は美しい笑顔でカインに微笑みかけ、婚約者としての務めを果たしていたが、カインの心はどこか曇っていた。

「カイン様、リリィア様のことをまだお考えですか?」

エミリアが唐突にその話題を口にすると、カインは驚いた表情を見せたが、すぐに顔を背けた。

「……ああ、考えている。彼女は優秀だった。それだけではない……彼女がいなくなってから、どうも世界が不安定になっている気がする。」

カインの言葉に、エミリアはわずかに眉をひそめたが、すぐに微笑みを取り戻した。

「きっと気のせいですわ。リリィア様はもういませんし、私がカイン様のお側におります。これからは私たちが王国を守っていくのです。」

エミリアの言葉は甘美だったが、その裏に何か不気味なものを感じ取ったカインは、心の中で小さな違和感を覚えた。リリィアが追放されて以降、彼女のことをあまり深く考えないようにしてきたが、その影響は日を追うごとに広がっていた。

そして、王国の各地では魔物が出現し始め、国民たちの間にも不安が広がっていた。カインは、その事態が自分の判断――リリィアを追放したことと関係があるのではないかという思いを拭い去れずにいた。


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古代の遺跡へ

リリィアとジークは荒れ果てた大地を抜け、ついに目的地である古代の遺跡に到着した。遺跡は年月を経て荒れ果て、朽ちた石碑や崩れた柱が残されている。かつてここには、古代の魔術師たちが住み着き、世界の秩序を保つための封印を施した場所だとされていた。

リリィアは遺跡の中央に立つ巨大な石碑に手を触れ、その表面に刻まれた古代文字を読み解こうとした。しかし、文字は時間の経過で風化し、ほとんど解読できなかった。

「ここに何か手がかりがあるはずなんだけど……」

リリィアは焦りながらも、何とか石碑に秘められた情報を探り出そうと試みた。その時、背後から重い足音が近づいてくるのを感じた。

「気をつけろ、誰か来る。」

ジークはすぐに剣を抜き、リリィアを守るように立ちふさがった。そして、遺跡の影から現れたのは、黒いローブに身を包んだ謎の人物だった。その人物は顔を隠し、静かにリリィアたちに近づいてくる。

「……ここまで辿り着くとは、さすがだな。」

低く響く声が遺跡の中にこだました。リリィアはその声に聞き覚えがあったが、すぐには思い出せなかった。

「お前は誰だ?」

ジークが剣を構えながら問いかけると、その人物はローブのフードを取り払った。現れたのは、王都で見かけたことのある人物だった――それは、エミリアの側近として仕えていた男、カールだった。

「王都で見たことがある……でも、なぜここに?」

リリィアは困惑した表情を浮かべながら問いかけた。カールは冷笑を浮かべ、リリィアたちを嘲るように話し始めた。

「リリィア、お前が世界の調律者であることは、すでに我々の主が知っている。お前を排除することで、この世界のバランスを崩し、我々の計画を進めるのだ。」

リリィアの心は凍りついた。カールの言葉から、彼らが背後で何か大きな陰謀を企てていることが明らかになった。

「計画って……一体何をしようとしているの?」
リリィアは震える声で問いかけたが、カールはそれに対してただ不敵に微笑むだけだった。

「お前には知る必要はない。ただ、お前をここで消し去ることで、我々の主が目覚め、全てが新たな秩序に従うだけだ。」

カールの言葉に、リリィアは一層の恐怖を感じた。彼らはただの勢力争いをしているわけではない。もっと大きな目的、すなわち世界の秩序を変えるために、彼女の存在を排除しようとしている。

「お前をここで消し去ることで、世界は混沌から新たな秩序へと移行する。それが、我々の計画の全てだ。」
カールはその言葉とともに、手をかざして闇の力を集め始めた。その力が遺跡全体に不気味な雰囲気を広げ、リリィアは一瞬体が震えた。

「リリィア、後ろに下がれ!」
ジークが叫びながらリリィアをかばい、剣を振りかざした。カールの放つ闇の波動がジークに直撃するが、彼はしっかりと踏みとどまり、カールに立ち向かった。

「無駄だ、君たちは私を倒すことはできない。」
カールは冷たく言い放ち、さらに強力な闇の力を放った。リリィアはその場で立ちすくんだが、すぐに自分を奮い立たせた。

「このままじゃ……ダメ。私たちは世界を守らなくちゃいけない!」

リリィアは覚悟を決め、全身に魔力を集め始めた。彼女の体から光のオーラが放たれ、カールの闇と対抗するように空間が震えた。

「ジーク、今よ!」
リリィアが叫ぶと、ジークはその瞬間を逃さずカールに向けて突進した。彼の剣がカールに迫るが、カールは瞬時に姿を消し、再び背後に現れた。

「残念だったな。」
カールはそう言ってジークを突き飛ばそうとしたが、その時、リリィアが全力で詠唱を完了させた。

「これで終わりよ……!」
リリィアは炎と光を融合させた強力な魔法をカールに向けて放った。その攻撃はカールの闇の防御を貫き、彼の体を直撃した。

「ぐっ……!」
カールは悲鳴を上げ、地面に倒れた。その体からは闇のオーラが消え、彼の力は徐々に失われていった。

「これで……終わりか。」
ジークが剣を納めながら、リリィアに向けて安心した表情を見せた。しかし、リリィアはその場に立ち尽くし、まだ何かが終わっていないことを感じ取っていた。

カールは弱々しく笑いながら、地面に伏したまま言葉を紡いだ。
「……だが、これで終わりではない。我々の主が目覚めれば、全てが……」
そう呟くと、彼は完全に意識を失った。


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次なる戦いへの予兆

カールを倒したリリィアとジークは、遺跡の中に静寂が戻ったことを確認しつつも、まだ完全に安堵できる状況ではなかった。カールが言い残した「主」という存在が彼らの脅威となり続けていることが分かっていたからだ。

「カールが言っていた『主』って、一体何なのかしら……」
リリィアは呟きながら、遺跡の奥を見据えた。そこにはまだ何か大きな謎が隠されているように感じた。

「とにかく、今はカールの言葉を信じるべきじゃない。だが、何か大きな陰謀が動いているのは間違いないな。」
ジークは冷静に答え、剣を腰に戻した。

「ええ……これで終わりではないわ。まだ、私たちにはやるべきことがある。」

リリィアは決意を新たにし、再び歩き出した。遺跡にはさらに深い秘密が眠っていることを彼女は感じ取っていた。それは、彼女が追放された真の理由に繋がるものであり、世界の未来を左右するものだ。

「行きましょう、ジーク。次の手がかりを見つけなくちゃ。」

リリィアとジークは新たな手がかりを求め、遺跡のさらに奥深くへと進んでいった。闇の力を操る者たちとの戦いはまだ始まったばかりだったが、彼らは共に前へ進む覚悟を持っていた。


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