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第4章: 闇の支配者との決戦

セクション 4-5: 覚悟を固める夜

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翌朝、カミラは朝日の光に照らされながら目を覚ました。窓から差し込む光が部屋を暖かく包み込んでいたが、彼女の心には未だに前夜の囁き声の余韻が残っていた。体は休まったものの、精神的な疲労はまだ完全に癒えていない。彼女はベッドからゆっくりと起き上がり、部屋の窓から外を見つめた。王都の街並みは静かで、日常が広がっているように見える。

「この平和が、いつまでも続いてくれればいいのに……」

カミラはそんな風に呟きながらも、次なる脅威が間近に迫っていることを感じ取っていた。それがただの杞憂であればいいが、漆黒の戦士との戦いの後に感じた不安が、それを許してくれない。廃墟で感じた囁き声――それは決して無視できるものではなかった。

「やっぱり……これからも戦い続けるしかないのね。」カミラはそう自分に言い聞かせ、部屋を出る準備を始めた。

---

黒騎士団の朝は早い。団員たちは次々と集まり、各々が訓練や準備に勤しんでいた。カミラも剣の手入れをしながら、心を落ち着けようとしていたが、昨夜の不安がまだ彼女を悩ませていた。

「カミラ、まだ考え込んでるのか?」エリオットが彼女に声をかけた。彼はすでに準備を整え、カミラの様子を伺っていた。

「ええ、少しだけ……」カミラはエリオットに微笑みを返したが、その笑顔にはまだどこか緊張が残っていた。「次に何が待ち受けているのかを考えると、どうしても気が休まらなくて。」

エリオットは軽く笑い、肩をすくめた。「心配するなよ。俺たちはいつでも次に備えている。それが黒騎士団の役目だろ?」

「そうね……でも、やっぱり今回は何かが違う気がするの。影の力がまだ完全に消えたわけじゃないし、何かもっと大きな存在が背後にいるような気がしてならないの。」カミラは真剣な表情でエリオットに向き直った。

「それは俺も同感だ。だけど、今はできることをやるしかないだろ?」エリオットは落ち着いた声でカミラを励ました。「俺たちにできるのは、しっかり準備して、次の脅威が来た時に戦えるようにすることだ。それ以上のことは、今は考えても仕方ないさ。」

カミラはその言葉に少しだけ安心し、再び剣の手入れを続けた。「そうね、今は自分たちにできることをするしかないわね。エリオット、ありがとう。」

「いつでも相談に乗るからな。」エリオットは笑顔でそう言い、カミラの隣に腰を下ろした。「ところで、リシャールが今朝早くから国王と話をしている。どうやら新たな情報が入ったらしい。近くでまた不穏な動きがあるようだ。」

「不穏な動き……?」カミラは眉をひそめた。「何が起こっているの?」

「それはまだ詳しくは分からないが、王国内の他の地域でも影の力が観測されているらしい。しかも、その規模が次第に大きくなっているとか。」エリオットは真剣な表情で話を続けた。「だから、俺たちにもすぐに出動命令が下るかもしれない。」

カミラはその話を聞き、再び心が引き締まるのを感じた。「そう……私たちは、すぐに動けるようにしておかないといけないわね。」

「その通りさ。」エリオットは頷き、真剣な表情で言った。「だからこそ、今はしっかり準備をしておくんだ。」

---

その頃、リシャールは国王と重臣たちと共に、王宮の会議室で話し合いをしていた。国王は黒騎士団からの報告を聞き、事態の深刻さを改めて感じていた。

「リシャール、汝らの調査によれば、影の力が完全に消滅していないとのことだが、それはどういうことだ?」国王は静かな声でリシャールに問いかけた。

「はい、陛下。漆黒の戦士を倒した後も、あの場所には強力な魔力の痕跡が残っていました。さらに、カミラが感じたという不気味な囁き声――あれが何を意味するのか、まだ解明できていません。ですが、我々が戦った影の戦士は、ただの手先に過ぎない可能性が高いと考えています。」リシャールは冷静に答えた。

「つまり、背後にさらに強力な存在がいるということか……?」国王は重く頷いた。

「その可能性が高いと見ています。今後、さらに影の勢力が増大する可能性もあるため、早急な対策が必要です。王国全体を警戒体制にし、どのような脅威にも即座に対応できるようにすべきです。」リシャールは提案を続けた。

国王はその意見に賛同し、重臣たちに向かって命じた。「早急に各地に連絡を取り、警戒を強化せよ。そして、黒騎士団には次なる任務を与える準備を整えておく。王国全体でこの脅威に立ち向かわねばならない。」

「承知いたしました、陛下。」重臣たちは一斉に頭を下げ、指示に従うために動き出した。

リシャールは深々と礼をし、会議室を後にした。彼はその足でカミラたち黒騎士団の元に戻り、次の指示を伝える準備をしていた。

---

カミラとエリオットが訓練を続けていると、リシャールが彼らの元に現れた。リシャールの表情はいつも通り冷静だったが、どこか緊張感が漂っていた。

「リシャール、どうだった?」エリオットが真っ先に問いかけた。

「新たな情報が入った。」リシャールは落ち着いた声で話し始めた。「国王はすぐに行動を起こすつもりだ。影の勢力が王国の他の地域でも観測されており、次の動きが間近に迫っていることは明らかだ。我々黒騎士団も、すぐに出動することになるだろう。」

カミラはその話を聞き、すぐに心を切り替えた。「つまり、また戦いが始まるということね……」

「そうだ。だが、今回は今まで以上に厳しい戦いになるかもしれない。影の力が増大している以上、我々は万全の準備を整えておく必要がある。」リシャールは真剣な表情で続けた。

「分かった。私たちも準備を始めるわ。」カミラは強い決意を持って応えた。

「カミラ、エリオット、そして黒騎士団の全員に言っておく。これからの戦いは、今まで以上に大きな犠牲を伴うかもしれない。だが、我々はこの王国を守るために戦い抜かなければならない。それが我々の使命だ。」リシャールは強い口調で団員たちに語りかけた。

カミラはその言葉に深く頷き、剣を握り直した。「次に何が来ても、私たちはそれに立ち向かう覚悟はできているわ。黒騎士団として、王国を守るために。」

「その通りだ。」リシャールはカミラの覚悟を認めるように微笑んだ。「だが、今はしっかりと準備を整え、体を休めておくことだ。次に動きがあるのは、すぐかもしれないが、それまでに最大限の力を発揮できるようにしておく必要がある。」

エリオットも強く頷き、仲間たちに声をかけた。「よし、皆、準備を始めよう。次の戦いに備えて、万全の態勢を整えるんだ。」

黒騎士団の団員たちは、エリオットの指示に従い、訓練場でそれぞれの装備や戦技の確認を始めた。カミラもまた、剣を振りながら自分の体調や技術を確認し、次の戦いに備えるために集中力を高めていった。

「エリオット、リシャール……私たち、何か大きなものと向き合おうとしているわね。」カミラは剣を振りながら、ふと呟いた。

エリオットは隣で彼女を見つめ、静かに言葉を返した。「ああ、俺たちは今、王国の存亡をかけた戦いに突入している。だけど、俺たちにはお前がいる。そして、この黒騎士団がいる。どんな敵が来ようと、俺たちは負けるつもりはない。」

リシャールもそれに続けて言葉を添えた。「王国の運命がかかっている。だが、これまでお前たちが成し遂げてきたことを考えれば、次の戦いも必ず乗り越えられるはずだ。」

カミラはその言葉に少しだけ安堵しながらも、自分の使命を再確認した。彼女たち黒騎士団は、王国を守るために戦う運命を背負っている。そして、それがどんなに厳しい戦いになろうとも、立ち止まるわけにはいかない。

その後も、黒騎士団のメンバーたちは黙々と準備を進めていた。次なる戦いが迫っていることを皆が感じ取りながらも、それぞれが自分の役割を果たすべく、集中していた。

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数時間後、王宮からの召集が入った。黒騎士団はすぐに動き出し、王宮に向かった。広間に入ると、再び国王と重臣たちが彼らを待ち受けていた。国王はカミラたちを見ると、ゆっくりと頷き、重々しい口調で話し始めた。

「黒騎士団よ、再び汝らの力が必要な時が来た。我々の調査によれば、王国の北方に位置するヴェルシア地方で、再び影の力が観測された。これは単なる小さな脅威ではなく、極めて強力な闇の存在が目覚めようとしていることを示している。」

カミラたちは国王の言葉に耳を傾け、その内容の重さを感じ取った。北方のヴェルシア地方は、これまで静穏だったが、ここにきて影の力が確認されたという事実は、彼らにとって新たな脅威を意味していた。

「ヴェルシア地方は古代から強力な魔力を持つ土地であり、その魔力が影の力に利用される可能性がある。汝ら黒騎士団には、その地で影の力を封じ込める任務を与える。これが成功すれば、我々は再び平和を取り戻すことができるだろう。」国王は強く語り、彼らに信頼を寄せた。

「承知いたしました、陛下。」グレンが前に出て深々と頭を下げた。「我々黒騎士団が、ヴェルシア地方の影の力を封じ込めます。そして、王国に再び平和を取り戻します。」

カミラたちもそれに続き、国王に敬意を表した。彼らの次なる戦いがすぐそこまで迫っていることを感じながら、使命感に満ちた顔つきをしていた。

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王宮から出ると、カミラたちはすぐにヴェルシア地方への出発の準備を始めた。黒騎士団の全員がその緊張感を共有しており、誰一人として油断することはなかった。

カミラは馬に乗りながら、ヴェルシア地方へ向かう道中、エリオットやリシャールと共に作戦を練り続けた。「影の力がさらに強大になっているということは、これまで以上に慎重に行動しなければならない。特に、ヴェルシアの地には未知の魔力が存在する。それが敵に利用される前に、何とか手を打たなければならない。」

「確かに、ヴェルシア地方は魔力の残滓が多く残る場所だ。あそこで何かが目覚めれば、簡単に抑え込むことはできないだろう。」リシャールが同意しながら続けた。

「だからこそ、私たちがその前に対処する必要があるのよ。」カミラは強く言い、剣を握りしめた。

エリオットも頷き、「俺たちはこれまでの戦いで得た経験を全て生かすんだ。今回も俺たちなら勝てるはずだ。」と力強く言った。

こうしてカミラたちは、次なる戦いへと進んでいった。ヴェルシア地方には、さらに強大な影の存在が待ち受けている。だが、彼ら黒騎士団は決して屈することなく、王国を守るために戦い抜く決意を固めていた。

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