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第1章: 婚約破棄

セクション 1-2: 社交界での屈辱

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婚約破棄の話はあっという間に社交界中に広まった。貴族たちが集まる場では、婚約破棄をしたルークと、それを受けたカミラのことが格好の噂話になっていた。数日後、カミラは招待された社交界の舞踏会に出席するため、気を取り直してドレスを着て出かけた。しかし、彼女はその選択を後悔することになる。

舞踏会の会場に足を踏み入れるやいなや、カミラは周囲からの鋭い視線を感じた。さまざまな貴族たちが彼女を見ながらささやき合っているのがわかる。笑いを堪えるように口元を押さえている女性もいれば、無遠慮にあざ笑う者までいた。カミラは下を向き、なるべく周囲と目を合わせないようにしたが、その声は確実に彼女の耳に届いていた。

「ねえ、見た?あれが婚約破棄されたカミラ嬢よ。理由は聞いた?貧乳だからって……なんてみっともない話なのかしら」

「本当よね。ルーク様も、もっと華やかな方を選ぶのは当然だわ。カミラ嬢は地味すぎるもの」

聞きたくない、聞こえないふりをしたかった。しかし、彼女の耳にはその声が嫌でも届いてしまう。これまで社交界で高い評価を受けていた彼女が、今や侮蔑と笑いの的となっている。それが現実だ。婚約破棄の事実が彼女の価値をすべて無にしてしまったような感覚に、カミラは胸が締めつけられる思いだった。

「貧乳って、本当に気の毒だわ。女としての価値がないようなものじゃない?」

「ルーク様もひどいわね。でも仕方ないわ、あれじゃあ……」

笑い声があちこちから聞こえる。カミラは何とか耐えようとしたが、心が折れそうだった。顔が熱くなり、涙がこみ上げてきそうになるのを必死にこらえた。こんな場所に来るべきではなかった。だが、社交界に顔を出さなければ、自分の地位はさらに悪化する。カミラは社交界での自分の立場を守ろうと、舞踏会に出席したのだ。

ルークは舞踏会の中心で、新しい愛人候補の女性と踊っていた。その相手はカミラとはまったく正反対の、華やかで豊満な美貌を持つ貴族令嬢だった。彼女はルークの腕に優雅に寄り添い、何度もカミラに勝ち誇ったような視線を投げかけてきた。

カミラはその光景を見て、心の奥がさらに冷たくなるのを感じた。自分の価値はこんなにも簡単に他の誰かと置き換えられてしまうものなのだろうか。今まで信じていた愛が、こんなに脆く儚いものであったとは思いたくなかった。

「私、何がいけなかったの……?」

カミラは問いかけるように自分自身にそう呟いた。しかし答えは出ない。彼女は必死に婚約者としての役割を果たしてきたつもりだった。ルークの期待に応え、彼の側にいるために多くの時間と努力を注いできた。それでも、彼は容姿だけを見て彼女を切り捨てた。それが許せなかった。だが同時に、自分がそんなことで捨てられてしまった事実が、さらに彼女を苦しめた。

「カミラ様、大丈夫ですか?」

突然、背後から優しい声が聞こえた。カミラは驚いて振り返ると、親友のエリーナが心配そうに立っていた。エリーナは幼少期からの友人で、カミラにとって唯一心を許せる相手だ。彼女の顔を見ると、カミラは少しだけ安心した気持ちになった。

「エリーナ……」

カミラの声は震えていた。エリーナは何も言わずにカミラの手を取り、彼女を会場の隅に連れて行った。

「こんな場所にいなくてもいいのよ、カミラ。あなたが無理をする必要なんてないわ」

エリーナの優しい声に、カミラはようやく涙をこぼした。これまで抑えていた感情が一気に溢れ出し、彼女は声を上げずに泣き続けた。

「私、どうしてこんなことに……」

「カミラ、あなたは何も悪くないわ。ただ、ルークが酷いだけよ。こんなことであなたの価値が変わるわけじゃないわ」

エリーナの言葉が、カミラの傷ついた心に少しずつ染み込んでいく。だが、それでも自分の価値が見失われたような感覚は簡単には消えなかった。

「でも……もう私には何も残っていないわ」

「そんなことないわ。カミラ、あなたにはまだたくさんの可能性がある。ルークなんて忘れて、新しい人生を歩みましょう」

エリーナはカミラの肩に手を置き、優しく微笑んだ。その微笑みは、カミラにとって唯一の救いだった。彼女はまだ完全には立ち直れない。だが、少しずつ、何か新しい道を見つけることができるかもしれないという気持ちが芽生えてきた。

「ありがとう、エリーナ……」

カミラはエリーナに感謝し、ゆっくりと顔を上げた。社交界の冷たい視線や嘲笑がまだ続いているのはわかっていた。だが、今は少しだけその重圧から逃れることができた気がした。
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