上 下
30 / 36
第6部

第5章:「森の守護者との邂逅」

しおりを挟む
永遠の森の奥深くへと足を踏み入れたアリア、フィリップ、エリスの三人は、森の静寂と共に感じる緊張感に包まれていた。森の木々はさらに大きく、空を覆うように広がり、まるで彼らを監視しているかのようだった。先ほどの根による試練を乗り越えたものの、これから待ち受けるさらなる困難に備えなければならないと全員が感じ取っていた。

「何かが迫っている気がする……」エリスが呟いた。

フィリップは周囲を警戒しながら、剣を握りしめた。「気を抜くな。この森が生きているのは間違いないし、またいつ襲ってくるかもわからない。」

アリアも同じように不安を感じていたが、それを表には出さなかった。「森そのものが私たちを試している。それがわかっている以上、何かしらの意図があるはずよ。私たちがここに来た理由を見極めるまで、冷静に進まなければ。」

三人がさらに奥へと進むと、突然、森の一角が異様な輝きを放ち始めた。木々の間から差し込む光が一瞬にして変化し、柔らかい緑色の光があたりを包み込んだ。そして、その光の中心に現れたのは、信じられないほど大きな木の精霊だった。

「これが……森の守護者……?」フィリップは驚きの声を漏らした。

精霊は優雅な姿で、全身が木の皮と葉で覆われており、顔は古代の知恵を宿しているかのようだった。その目は慈愛に満ちているが、同時に彼らを試すかのような厳しさも感じられた。

「お前たち……なぜここに来たのか……」精霊は低く、ゆっくりとした声で問いかけてきた。その声は風に乗って森全体に響き渡り、木々の囁きがさらに強まった。

アリアが一歩前に出て、精霊に対して答えた。「私たちは、この森に秘められた古代の魔法を探しに来ました。レナードという男が、その魔法を悪用しようとしていて、私たちはそれを阻止しなければならないのです。」

精霊はしばらくの間沈黙し、その目でアリアたちをじっと見つめていた。まるで彼女たちの心の奥底を見透かしているかのようだった。

「レナード……その名は知っている……」精霊は静かに語り始めた。「彼はこの森を汚そうとしている。そして、お前たちはその企みに立ち向かおうとしている……だが、単なる意思だけではこの森の秘密を手にすることはできない。」

フィリップが困惑した表情で問いかけた。「それでは、どうすればいいんだ?私たちはレナードを止めるために力を必要としている。もし、この森にその鍵があるなら教えてほしい。」

精霊は再び沈黙した後、答えた。「森は試練を課す。お前たちが真にこの森の秘密を知るに値するかどうか、試さなければならない。そして、その試練に合格すれば、お前たちは古代の魔法の力を手にすることができるだろう。」

「試練……」アリアは息を飲んだ。「それは一体どんな試練ですか?」

精霊は答えなかった。ただ、その大きな手を空へ向けてゆっくりと掲げた。その瞬間、空が暗くなり、風が強まり始めた。森全体が激しく揺れ動き、まるで目に見えない力が彼らを包み込んでいくようだった。

「試練はすでに始まっている……」精霊の声が風に乗って響いた。

突然、周囲の木々が生き物のように動き出し、三人を取り囲んだ。まるで逃げ場をなくすかのように木々が次々と姿を変え、巨大な魔物の形を取り始めた。それらは緑色の光を放ちながら、鋭い牙と爪を持ち、アリアたちに向かって襲いかかってきた。

「来るぞ!」フィリップが叫び、すぐに剣を抜いた。

エリスも魔法の杖を振りかざし、周囲に防御の魔法を張り巡らせた。「気をつけて!これはただの魔物じゃない!」

アリアは冷静に魔力を集中させ、すぐに反撃の準備を整えた。「負けられない……!」

森の試練がいよいよ始まった。彼らは目の前に立ちはだかる強力な魔物たちに立ち向かう覚悟を決め、精霊の試練を乗り越えなければならなかった。

フィリップは最前線に立ち、次々と襲いかかってくる魔物を剣で斬り伏せた。彼の動きは俊敏で、鋭い剣技が光を放ちながら敵を切り裂いていく。しかし、次から次へと現れる魔物に対し、いくら斬り倒しても終わりが見えなかった。

「くそ……これじゃキリがない!」フィリップが息を切らしながら叫んだ。

アリアは後方から支援魔法を放ち、フィリップを援護していたが、魔物の数は一向に減る気配がなかった。「このままでは体力が持たない……何か手を考えないと……!」

エリスも次々と防御魔法を展開し、仲間を守っていたが、限界が近づいていることを感じ取っていた。「アリア、何か方法はないの?」

アリアは必死に考えながら、精霊の言葉を思い出した。「試練……これはただの力比べじゃない。試されているのは私たちの強さじゃない……」

アリアは突然、魔法の攻撃を止め、冷静に周囲の魔物たちを観察し始めた。そして、気づいた。「この魔物たちは、森の一部……森と同化している存在。つまり、森の意志を傷つけることなく試練を超えなければならないんだわ。」

「どういうことだ?」フィリップが問いかけた。

「私たちは戦うのではなく、この森と共鳴しなければならない。そうしなければ、試練に勝てない。」アリアはすぐに魔法の杖を掲げ、森の魔力に呼応するように優しい光を放ち始めた。「フローラル・ハーモニー……」

その瞬間、アリアの放つ光が魔物たちを包み込み、激しい攻撃が次第に止まっていった。森の精霊たちはゆっくりと動きを止め、再び木々へと戻っていった。

「やった……!」エリスが驚いた声を上げた。

フィリップもまた、剣を収めて息を整えた。「まさか、力を使わずに勝つなんて……」

精霊が再び姿を現し、静かに語りかけてきた。「よくやった。力ではなく、森との共感を見せたお前たちは、この試練を乗り越えた。」

「では、私たちは合格したのですか?」アリアが問いかけた。

精霊は優しく微笑んで答えた。「そうだ。お前たちは、この森の秘密を知るにふさわしい存在だ。次なる試練への道が開かれるだろう……」

アリアたちは安堵しつつも、さらなる試練に向けて気を引き

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...