転生貴族の気ままな冒険譚〜国を救うはずが引退してスローライフを目指します〜

第一部

第1章：異世界で目覚めた怠け者貴族

「ああ、疲れた……もう仕事したくない……」

春日未来は、いつものようにデスクに座り、パソコンの画面を眺めていた。深夜まで残業を繰り返し、今日も終電間際だ。仕事の山に押しつぶされそうになりながら、目の前の数字を眺めていた時、彼女の頭に一つの思いが浮かんだ。

「もう、二度と働きたくない……」

その瞬間、突然目の前が真っ暗になり、気づけば体が重く、意識が遠のいていくのを感じた。未来はデスクに突っ伏したまま、深い眠りに落ちた……かと思った。


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気づいた時、未来は知らない場所にいた。周りを見渡すと、そこは見たこともない広い部屋だった。豪華なシャンデリアが天井からぶら下がり、絹のカーテンが風に揺れている。ふかふかのベッドに包まれていた未来は、なんとも言えない違和感を感じながら、起き上がった。

「……ここはどこ？」

ベッドの周りには豪華な家具が並んでいるが、どれも彼女の知っている世界のものではない。さらに自分の手を見ると、驚いたことにそれは小さな少女の手だった。

「え？　私、縮んでる？」

彼女はあわてて体を確認した。服も今まで着たことがないような豪華なドレスで、鏡に映る自分の顔を見てまた驚いた。そこには、金髪の少女が映っていた。

「え、えええ！　どういうこと？！」

混乱する中、部屋の扉が開き、メイド服を着た女性が入ってきた。彼女は未来を見ると、にっこりと微笑んだ。

「お嬢様、目が覚めましたか？　ご気分はいかがですか？」

「お、お嬢様？　私？」

メイドは不思議そうに首を傾げたが、すぐに優しく説明を始めた。

「はい、アリアお嬢様。お目覚めになられたのは何よりです。今日はお父様とお母様がお帰りになる日ですので、お支度を整えていただかなくてはなりません。」

「アリア……？　お父様……お母様……？」

未来は混乱したままメイドの言葉を反芻したが、頭の中がぐるぐると回り始めた。

「ちょ、ちょっと待って。これはどういう状況なの？ 私は春日未来だったはず……」

メイドは微笑んだまま、未来……いや、アリアの体を助け起こして、ドレスを整える準備を始めた。しかし未来は何もかもが理解できないまま、しばらくぼーっとしていた。

「まさか、異世界に転生したとか……？」

異世界転生。ライトノベルや漫画でよく見る設定だが、まさか自分がその主人公になるとは夢にも思っていなかった。転生してしまったなら、せっかくなら魔法を使えたり、冒険者として活躍したり、そんな夢のような生活を送れるかもしれない……とはいえ、未来が今一番望んでいるのは、「働かずに楽して生きたい」という思いだけだった。

「……そうだ。もう働きたくない。せっかく異世界に来たんだし、今度こそスローライフを送ろう！」

そう決心した未来は、メイドの助けを借りて身支度を整えると、まずはこの世界についての情報を集めることにした。


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朝食の席で、未来はこの家が名門貴族「ヘルツォーク家」であり、アリア・フォン・ヘルツォークという名前の高貴な令嬢であることを知った。両親は王都に住んでおり、未来……アリアはしばらくこの大きな屋敷で一人で過ごしていたらしい。

「つまり、私は超お金持ちの家に転生したってことね。しかも貴族……。うーん、これはもう働かなくても良いパターンかも！」

期待が膨らむ未来は、早速自分のこれからの計画を立て始めた。

「まずは、スローライフを送るための準備をしなきゃね。よくある異世界物語だと、魔法とか特技を持ってる場合が多いけど……私はどうだろう？」

未来は、自分の「アリア」としての体にどんな能力があるのかを試してみたかった。そう思い、彼女は自室に戻ると、まずは魔法を試してみることにした。

「えーっと、どうやって魔法を使うんだろう？ なんか適当に『ファイアボール！』とか叫んでみればいいのかな……？」

そう言いながら、彼女は手を前に突き出し、イメージを膨らませた。

「ファイアボール！」

その瞬間、手から放たれた炎の玉が、部屋の壁に向かって飛び出し、ドン！ という音と共に一部の壁が焦げる音がした。

「えっ、ちょ、ちょっと待って！ 本当に出た！？」

驚いた未来は、もう一度試してみた。今度は少し小さな炎の玉を作り出し、手のひらの上でそれを眺めた。

「……本当に魔法使えるんだ……」

信じられない思いで火を消し、彼女は心の中で大喜びした。これは夢に描いた異世界生活そのものだ。しかし、そこで彼女はハッとした。

「いやいや、魔法が使えるのはいいけど、働かないで楽するためには、これをどう使えばいいのか……？」

彼女は少し考えたが、結論はすぐに出た。

「魔法で簡単にいろんなことを解決して、あとは何もせずに暮らせばいいんじゃない？」

そう考えた未来は、もう一度ファイアボールを手のひらに作り出し、ニヤリと笑った。

「よし、これで今度こそスローライフを実現するぞ！」

こうして、異世界での生活が始まった。未来は「アリア」として生きることを決心し、二度と働かず、楽しい生活を送ることを目指していく。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、これから数々の冒険と試練が待ち受けていることを、彼女はまだ知らなかった。