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第1章: 聖女の選定

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 遠くの山々が薄く霞み、朝陽が王都を染め上げると、噂はすでに広がっていた。二人の聖女が同時に現れたのだと。王都の住民たちは驚きと興奮でざわめき、広場や通りでは誰もがその話題を口にしていた。

「二人も聖女が現れるなんて、前代未聞だな。」 「本当だね。でも、どっちが本物の聖女なんだろう?」

 人々は顔を見合わせ、不安そうに噂を囁きあっていた。なぜなら、聖女とは神に選ばれし存在であり、ただ一人であるべきとされていたからだ。聖女が二人もいるということは、まさに常識を覆す事態であり、王国の未来さえも揺るがしかねない。

 王宮もまた、対応に追われていた。聖女として認定された二人の女性、ラヴィーダとアイシスを迎える準備が進められ、彼女たちの力を見極めるための試練が設けられた。王や大臣たちは、二人の聖女を対立させ、どちらが真の聖女なのかを決定することで、この混乱を鎮めようとしていた。


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 まずは、ラヴィーダが王宮に召喚された。彼女は静かな微笑を浮かべ、金色の長い髪を揺らしながら、堂々と王の前に現れた。彼女の姿はまさに聖女そのものであり、その存在感は見る者すべてを圧倒するほどの神聖さを放っていた。

「ラヴィーダ様、あなたが真の聖女であると証明していただきたい。」王は威厳をもって告げた。

 ラヴィーダは静かにうなずき、目を閉じて祈りの言葉を唱え始めた。その瞬間、王の間には眩いばかりの光が差し込み、あたり一面が神聖な力に包まれた。彼女の祈りはまるで聖なる歌のように響き、誰もがその場で息を飲んだ。

 王や大臣たちは驚き、ラヴィーダの力に圧倒されたが、同時に彼女だけを聖女と認めることにはまだ不安を感じていた。なぜなら、もう一人の聖女候補であるアイシスもまた、王宮に到着していたからだ。


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 アイシスは、ラヴィーダとは対照的に、冷静で控えめな印象を持っていた。青い髪を短く整えた彼女は、まるで清らかな水のような落ち着きを感じさせ、その姿は同じく聖女の風格を漂わせていた。

「アイシス様、どうかあなたも力を示してください。」王が同じように頼むと、アイシスは静かにうなずき、ゆっくりと手を合わせて祈り始めた。

 彼女の祈りの言葉が発せられると、今度は柔らかな風が吹き込み、花の香りが漂うような心地よい雰囲気が場を包んだ。アイシスの祈りは、ラヴィーダの光とは異なる穏やかな力で、その場にいた者たちの心を和ませた。

 こうして、ラヴィーダとアイシスのどちらもが聖女としての力を示したが、どちらが真の聖女であるかを決めることは容易ではなかった。二人の力はあまりにも異なり、そしてどちらも聖女にふさわしい神聖さを備えていた。

 宮廷では激論が交わされたが、結論は出なかった。ついには、王自身がある提案をした。

「二人を対立させるのではなく、直接対面させてみてはどうだろう。彼女たち自身が互いをどう見るか、そしてどのように感じるかが重要かもしれない。」


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 こうして、ラヴィーダとアイシスの対面が実現することになった。二人は王宮の中庭で出会い、お互いをじっと見つめ合った。最初は少し緊張した雰囲気が漂っていたが、ラヴィーダが微笑みを浮かべながら口を開いた。

「アイシス、あなたの祈りの力はまるで清らかな水のようで、心が安らぐわ。」

 アイシスも同じく微笑みを返し、「ラヴィーダ、あなたの光はまるで太陽そのもの。とても温かくて力強いわ」と言った。

 その瞬間、二人の間に何かが流れた。言葉にしなくても、互いの力が補完し合い、共にあることで初めて完全な存在となることを感じ取っていた。

「私たちは…二人で一人なのだね。」ラヴィーダが静かに呟くと、アイシスもそれに頷き、手を取り合った。

 二人が共に祈ると、いつも以上に大きな力が溢れ出し、周囲を包み込むように広がった。そこにいた王や大臣たちも、その神聖な力の前に圧倒され、自然とひれ伏した。

「二人が共にある時、その力は倍増する……いや、それ以上の力が発揮されるのかもしれない。」

 王はその場で決断し、二人を同時に聖女として認めることを宣言した。王国にとって、これは新たな歴史の幕開けであった。二人の聖女、ラヴィーダとアイシスは、これから共に災厄に立ち向かい、人々を守るために祈り続けることを誓い合ったのだった。

 こうして、ラヴィーダとアイシスは対立することなく、むしろ互いを信頼し合うことで絆を深め、その力を王国全土に示すこととなった。

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