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第二章: 出会いは騎士の誇り
しおりを挟むリオン・ヴァンデールが護衛任務として同行することになったカイル・イースレイは、王都の魔法学会から依頼された重要な人物だと知らされていた。しかし、初めて彼と正式に顔を合わせた瞬間、リオンはその雰囲気に圧倒されることになる。
カイルは深いフードを被り、鋭い眼差しでこちらを見据えていた。その瞳には冷たい光が宿っており、まるで他人を寄せ付けないかのような威圧感があった。普通の護衛対象とは明らかに違う。
「君が護衛を務めるリオン・ヴァンデールか?」
カイルの低く響く声に、リオンは一瞬ひるみそうになるが、すぐに背筋を伸ばし答えた。
「はい、リオン・ヴァンデールです。今日からあなたをお守りします。」
カイルはリオンの真っ直ぐな態度を見て、一瞬だけ薄い笑みを浮かべた。しかし、それはすぐに消え去り、彼は淡々とした口調で言った。
「余計な世話を焼くな。ただ、安全に目的地まで行ければそれでいい。」
リオンはその言葉に少し驚きを覚えたが、反論はせずに頷いた。任務を全うするだけだと心に決めていたが、どこか不思議な違和感が胸に残った。
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二人の旅は翌朝早くに始まった。馬車に乗らず、徒歩で進むというカイルの希望に従い、リオンは彼と共に王都を出発した。カイルは道中ほとんど口を開かず、ただ静かに歩き続けるだけだった。その背中には孤独と疲れが滲んでおり、リオンは何度か声をかけようとしたが、そのたびに言葉を飲み込んでしまった。
道中、リオンはカイルの不審な行動に気づく。森の中を進む際、彼は決して植物や地面に触れようとしなかった。さらに、リオンが「休憩しよう」と提案しても、カイルは「時間が惜しい」と言って先を急ぐばかりだった。
「カイルさん、本当に大丈夫ですか?」
リオンが問いかけると、カイルは立ち止まり、冷たい視線を向けた。
「君の任務は僕を守ることであって、僕の体調を気にすることじゃないだろう。」
「それはそうですが、倒れられては困りますからね。」
リオンは少し微笑みながら返した。その飾らない態度に、カイルは短く息を吐き、再び歩き始めた。
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旅が続く中で、リオンは次第にカイルの異常な様子に疑念を深めていった。特に決定的だったのは、ある夜の出来事だった。
月明かりが森を照らす中、リオンは焚き火のそばで剣の手入れをしていた。一方、カイルは少し離れた木の下で座り込み、何やら呪文のようなものを小声で唱えていた。その声には焦燥感が滲んでおり、リオンは彼の様子をじっと見つめた。
「カイルさん、何をしているんですか?」
リオンが問いかけると、カイルは驚いたようにこちらを見たが、すぐに無表情に戻った。
「……ただの祈りだ。」
リオンはその言葉に首を傾げた。祈りにしては異常に緊迫した雰囲気だったが、それ以上問い詰めるのは無粋だと思い、追及を控えた。
しかしその夜、カイルが突然苦しみ始めた。額に冷や汗を浮かべ、息も荒く、地面に倒れ込む。
「カイルさん!」
リオンはすぐに駆け寄り、彼を支えた。カイルの顔は青ざめ、目を閉じたまま何かを呟いている。
「君に触れるな……呪いが君に……」
その言葉に、リオンは一瞬手を止めた。しかし、彼はすぐに決心する。
「そんなことは関係ない。俺が君を守るって決めたんだ。」
リオンはカイルを支え、近くの川で水を汲み、彼の額を冷やした。カイルの状態は徐々に落ち着きを取り戻し、彼はかすかに目を開いた。
「なぜ……そこまで……」
リオンは笑顔で答えた。
「俺は騎士だ。守るべき人がいるなら、どんな状況でも諦めない。それが俺の誇りだからだ。」
その言葉に、カイルは短く笑った。それは、リオンが初めて見るカイルの心からの笑顔だった。
「君みたいな人間は……久しぶりだ。」
---
翌朝、カイルは普段通りの無表情に戻っていたが、どこか以前とは違う柔らかさが感じられた。
「昨夜のこと、礼を言う。」
カイルは小さな声で言った。その声には、初めて感謝の気持ちが込められているようだった。リオンはそれを聞いて、軽く肩をすくめた。
「気にするな。これからも俺が君を守るさ。」
二人の間に生まれた小さな信頼。それは、この先の長い旅路の中で、さらに強く深い絆へと変わっていくのだった。
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