上 下
5 / 6

5. クライマックス: 愛の真実

しおりを挟む


リリ・ローゼン公爵令嬢は、薄明かりの差し込む庭園の中で一人、静かに佇んでいた。彼女の心には、これまでの出来事が渦巻いていた。アルファからミリアを奪った瞬間、魅了の力を使ってしまった自分、そしてミリアがその力に縛られているかもしれないという恐れ。リリは何度もミリアのことを考え、その度に深い後悔と愛情が入り混じった感情に苛まれていた。

「私は本当に彼女を愛している。でも、それが伝わっているのだろうか…?」

リリの胸には、常にその疑問があった。彼女がミリアに対して感じるこの強い愛情は偽りではない。しかし、最初に魅了の力を使ってしまったせいで、ミリアが自分を愛してくれているのか、それともただ魅了の影響で従っているだけなのかを確かめることができなかった。リリは、この疑念が二人の関係を曇らせていることを痛感していた。

そして、その疑念を払拭するために、今日こそは真実を確かめる決意をしていた。


---

しばらくして、ミリア・ジーナ男爵令嬢が庭園に姿を現した。彼女の顔には少し不安げな表情が浮かんでいたが、リリを見ると微笑みを浮かべ、足早に近づいてきた。

「リリ様、こんな静かな場所でお話があるなんて、どうされたんですか?」

ミリアの声は優しく、どこか安心感を与えるものだった。だが、その穏やかな声を聞いた瞬間、リリの胸には再び迷いが生じた。彼女が本当に自分のことを心から愛してくれているのか、それとも魅了の力が彼女の心を縛りつけているのか――その答えをリリはまだ知ることができていない。

「ミリア、今日はあなたに話さなければならないことがあるの。」

リリの声は固く、少し震えていた。彼女は覚悟を決め、ミリアの瞳を真っ直ぐに見つめながら続けた。

「私は…あなたに本当の気持ちを伝えたい。最初に私が魅了の力を使ってしまったこと、そしてそれによってあなたを引き寄せてしまったことを、私はずっと後悔しているの。」

ミリアはその言葉を聞いて、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに理解の表情に変わった。彼女もまた、ずっとそのことを考えていたからだ。

「リリ様…」

ミリアはリリに何かを言おうとしたが、リリは手を振ってそれを制止した。そして、続けた。

「私はあなたを本当に愛している。でも、私の力があなたを無理に従わせているのかもしれないと思うと、私たちの関係が偽りのものに感じられてしまうの。ミリア、私はあなたが自分の意志で私を選んでくれることを願っている。それができないのなら、私はあなたを自由にするわ。」

その言葉を聞いた瞬間、ミリアの目に涙が浮かんだ。彼女はリリの真摯な気持ちに触れ、胸の奥で温かい感情が込み上げてくるのを感じた。リリが本当に自分の幸せを考え、彼女の意志を尊重しようとしていることが、ミリアには痛いほど伝わってきた。

「リリ様…あなたは、本当に優しい方ですね。」

ミリアは涙を拭いながら、リリの手を取り、そっと握りしめた。

「私も、ずっと悩んでいました。あなたの魅了の力にかかっているのか、それとも私自身の気持ちであなたを愛しているのか…でも、今ははっきりと分かります。たとえ最初が魅了の力だったとしても、私があなたに感じているこの愛情は本物です。リリ様、私はあなたを心から愛しています。」

その言葉に、リリの胸が温かく満たされるのを感じた。彼女は長い間抱えていた不安が、ミリアの言葉によって一瞬で消え去ったように感じた。

「ミリア…」

リリは涙をこらえながら、ミリアをそっと抱きしめた。二人はしばらくの間、言葉を交わさずに抱き合っていたが、その瞬間、彼女たちの間にあったすべての壁が消え去ったことを感じた。もう魅了の力など、二人の間には存在しなかった。彼女たちの愛は、純粋な心から来るものだった。


---

その後、リリとミリアはお互いを見つめ合い、微笑んだ。

「これからも、ずっと一緒にいられるんですね。」

ミリアがそう言うと、リリは優しく頷いた。

「もちろんよ。私はもう、あなたを手放さない。私たちの愛は、本物だから。」

二人は再びキスを交わし、その瞬間、すべての疑念が消え去った。ミリアが感じている愛も、リリが抱いている感情も、すべてが真実であり、何にも縛られることのない自由なものであった。


---

その後、リリとミリアは正式に婚約を発表した。彼女たちの関係を疑う者も

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 男装の麗人と男の娘

 (笑)
恋愛

偽りの婚約破棄――絶対に後悔させてあげますわ!

 (笑)
恋愛
あらすじ 貴族令嬢セレーナは、次期公爵である婚約者エドガーから突然婚約を破棄される。理由もわからぬまま名誉を傷つけられ、絶望に打ちひしがれるセレーナ。しかし、彼女には隠された「王家の血」が流れており、その力が目覚めたことで新たな可能性が開かれる。失意の中で覚醒した彼女は、自分の力を信じ、立ち上がることを決意する。裏切りに潜む真実と、運命に立ち向かうセレーナの成長と葛藤の物語が、ここから始まる。

義母たちの策略で悪役令嬢にされたばかりか、家ごと乗っ取られて奴隷にされた私、神様に拾われました。

しろいるか
恋愛
子爵家の経済支援も含めて婚約した私。でも、気付けばあれこれ難癖をつけられ、悪役令嬢のレッテルを貼られてしまい、婚約破棄。あげく、実家をすべて乗っ取られてしまう。家族は処刑され、私は義母や義妹の奴隷にまで貶められた。そんなある日、伯爵家との婚約が決まったのを機に、不要となった私は神様の生け贄に捧げられてしまう。 でもそこで出会った神様は、とても優しくて──。 どん底まで落とされた少女がただ幸せになって、義母たちが自滅していく物語。

令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。

夢草 蝶
恋愛
 公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。  そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。

【一話完結】片思いの王子は婚約者に嫉妬してくれるのかを聞いてみたが玉砕した

宇水涼麻
恋愛
断罪劇ものの短編です。 生徒総会の席で舞台に上がった王子は婚約者の公爵令嬢に問いただす。 「嫉妬により醜い虐めをしたのか?」 「いたしません」 崩れ落ちる王子。王子は公爵令嬢に、側近に、何を求めていたのだろうか。

婚約者の私には何も買ってはくれないのに妹に好きな物を買い与えるのは酷すぎます。婚約破棄になって清々しているので付き纏わないで

珠宮さくら
恋愛
ゼフィリーヌは、婚約者とその妹に辟易していた。どこに出掛けるにも妹が着いて来ては兄に物を強請るのだ。なのにわがままを言って、婚約者に好きな物を買わせていると思われてしまっていて……。 ※全5話。

【完結】その程度の噂で私たちの関係を壊せると思ったの?

横居花琉
恋愛
マーガレットの悪評が広まっていた。 放置すれば自分だけでなく婚約者や家族へも迷惑がかかってしまう。 マーガレットは婚約者のガードナーと協力し、真実を明らかにすることにした。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

処理中です...