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4. 真実の愛か、魅了の力か

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ミリアは、リリとの日々が過ぎる中で、次第に自分の心に疑問を抱くようになっていた。リリと過ごす時間はどこか特別で、彼女のそばにいると不思議な安堵感に包まれる。リリの優雅な笑顔、どこかミステリアスでありながらも温かい言葉、全てがミリアにとっては心地よいもので、彼女の心はますますリリに惹かれていった。

しかし、心の奥底に押し込んでいたある疑問が、ミリアを絶えず苦しめていた。

「私が感じているこの愛情は、本当に私自身のものなのだろうか…?」

初めてリリに会ったとき、彼女の美しさに心を奪われた瞬間を、ミリアは鮮明に覚えていた。そしてリリにキスをされたあの時、彼女はまるで自分の意思とは無関係に動かされたかのように感じていた。それがリリの「魅了」の力によるものだったことは、今となっては間違いない。

「もしリリ様の力がなかったら、私は彼女を愛していないのではないか…?」

ミリアはその考えが頭を離れなかった。リリが「魅了」の力を使わずに、自分に本当の愛を示してくれていたなら、それは純粋な愛情だと信じることができたかもしれない。しかし、最初に力が介入したことで、彼女の感情が本物かどうか、確信を持つことができなかった。

一方、リリもまた、深い葛藤の中にいた。彼女は自分が最初に「魅了」の力を使ってミリアを引き寄せてしまったことを深く後悔していた。最初は単なる衝動で、ミリアをアルファから奪いたいという一心だった。だが、ミリアと共に過ごすうちに、その心が純粋に愛情へと変わっていった。

「私は彼女に本当の愛を示せているのだろうか…?」

リリは自問自答を繰り返していた。彼女がミリアに対して感じる愛情は本物であり、魅了の力ではなく、自分自身の心から湧き出るものであった。しかし、ミリアが自分を愛している理由が魅了の影響であるならば、果たしてそれは本物の愛だと言えるのだろうか。

リリは自分の胸の中に広がる後悔と苦悩を抑えることができず、ミリアに対して距離を取るようになっていた。ミリアはそれを感じ取り、ますます不安になっていた。


---

ある日、リリはついに決断した。ミリアに自分の心の内をすべて話す時が来たと感じたのだ。彼女はミリアを静かな庭に呼び出し、二人きりで話すことにした。

「ミリア、話したいことがあるの。」

リリの声はいつになく真剣で、ミリアはその表情から何か重大なことが語られるのだと察した。彼女の胸は高鳴り、不安と期待が入り混じった感情に包まれた。

「最初に、あなたに謝らなければならないわ。私は…あなたを魅了の力で引き寄せてしまった。それは間違いだった。あなたの本当の気持ちを無視して、自分の欲望に従ってしまったことを、今では深く後悔している。」

リリの言葉は重く、ミリアの心に深く突き刺さった。彼女もまた、ずっとこのことに悩んでいたからだ。リリがそのことを認め、謝罪してくれたことで、ミリアは少しだけ心が軽くなったが、同時に混乱も増した。

「リリ様、私は…」

ミリアはどう答えればいいのか、分からなかった。リリの謝罪を受け入れたい気持ちと、自分の感情が本当に魅了の力によるものではないかという疑念が、彼女を苦しめ続けた。

リリは続けた。「ミリア、私はもう二度とあなたに力を使いたくない。ただ、私自身があなたを愛していることを知ってほしい。それが本物だと分かってほしいの。」

ミリアは、リリの誠実な眼差しを見つめた。彼女の言葉には偽りがないことを感じ取れたし、リリが自分を心から愛しているのは間違いない。しかし、問題は自分の心だった。

「私がリリ様を愛しているのか、それとも魅了の力に操られているだけなのか…」

その思いが、ミリアの胸の中で重くのしかかっていた。だが、彼女の心は一つの方向に進んでいった。ミリアは、リリとの時間が愛おしく、彼女と共にいることが何よりも幸せだと感じていた。それは魅了の力だけでは説明できないものであった。

ミリアはそっとリリの手を取った。温かく、柔らかな感触が彼女の不安を少しだけ和らげた。

「リリ様、私も悩んでいました。あなたの力の影響を受けているのか、それとも私の心が本当にあなたを愛しているのか分からなくて…でも、今はもう分かりました。たとえ最初が力によるものだったとしても、今感じているこの気持ちは、私自身のものです。私は…リリ様を心から愛しています。」

その言葉に、リリの瞳が潤んだ。彼女はしばらくミリアを見つめていたが、次第にその表情は穏やかさを取り戻していった。

「ありがとう、ミリア。」

リリはそっとミリアを抱きしめた。二人は静かにその場で抱き合い、互いの愛を確かめ合った。もはや魅了の力など、二人の間には存在していなかった。彼女たちが感じているのは、純粋で真実の愛だった。


---

その日以来、リリとミリアの関係はさらに深まった。彼女たちは互いの愛を信じ合い、支え合って生きていくことを誓った。魅了の力が引き金となって始まった関係だったが、今やその力を超えた本物の絆が二人を結びつけていた。

ミリアもまた、リリの真摯な愛に応え、自分自身の心に正直でいることを選んだ。そして、二人はこれからも共に歩む決意を固めた。

「私たちの愛は、何にも縛られない本物だわ。」

そう互いに誓い合った二人の未来には、これ以上の迷いも、疑いもなかった。

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